親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
仕事をする上で、欠かせない「コミュニケーション」。お客様へのプレゼンや商談、上司との会話などでも「もっと上手に話したい」「的はずれな発言をしていないか気になる」といった悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。
今回は、発行部数82万部(2024年11月時点)を誇るコミュニケーション本『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者として注目を集めるコンサルタントの安達裕哉さんに、ビジネスにおける良いコミュニケーションとは何か、どうすればコミュニケーション上手になれるのかについて教えていただきました。
ビジネスにおけるコミュニケーションの本質は「相手の期待に応えること」
「コミュニケーション上手」と聞くと、誰とでもすぐ打ち解けられる人や、場を盛り上げるのが上手な人をイメージする人も多いでしょう。そんな人たちは確かに魅力的です。しかし、それがビジネスにおける「良いコミュニケーション」かというと、話は変わってきます。
ビジネスにおける「良いコミュニケーション」とは「相手の期待に応えること」です。プライベートでは、互いの背景や文化を細かく確認しなくても、暗黙の了解が通じる「ハイコンテクスト」な関係が多いものですが、仕事ではそうはいきません。特に、リモートワークが主流になりつつある現代では、互いの背景を知らずに業務が始まることも少なくありません。
だからこそ、「相手の期待」をきちんと聞き、定義し、共有して意識を合わせることが重要です。同じ事象を見た時に、同じことを考えられる状態を作る。それがビジネスにおけるコミュニケーションの礎になります。

「話すこと」よりも「相手の話を聞くこと」に注目
とはいえ、特に初対面の相手や、新人の立場では、すぐ期待に応えるのは難しいですよね。だからこそ、まずは「きちんと聞くこと」が大切です。「この理解であっていますか?」「この場合はどのように進めたらいいですか?」と自分から質問しなければ、相手に自分の理解度を伝えることはできません。最初から「1言えば10伝わる」状態になるのは無理だからです。
そのため、「コミュニケーションは時間がかかる行為であること」「相手の期待に応えるのは簡単ではないこと」を、双方が認識する必要があります。
つまり、コミュニケーションで一番重要なのは、実は「話し方」ではなく、「聞き方」です。伝えることばかりに意識が向きがちですが、実際には相手の話を正確に聞かないと適切な答えを返せません。「相手の話をきちんと聞く」のは、かなり難しいのです。
私もそれで失敗したことがあります。コンサルティング会社に就職したばかりの頃、上司から「競合他社の価格調査をしてほしい」と依頼されました。「わかりました」と答えたものの、いざ取りかかろうとした瞬間、何も理解していなかったことに気づいたのです。
「競合って具体的にどの会社のこと?」「オプションが複数パターンあるサービスはどう扱う?」などと、不明点が次々と出てきました。その時はすぐ上司に聞き直すことができましたが、もし取り掛かるのが締め切り間近だったら手遅れだったかもしれません。
このように、「きちんと聞く」が「きちんと伝える」に直結します。そして、最もありがちな落とし穴が「わかった気になること」です。なんとなくわかったつもりで事を進めた結果、「思っていたものと違う」と言われてトラブルになるのは、「きちんと聞くこと」を怠った際の典型的な例です。

つまり、真のコミュニケーション上手とは、相手の期待や要望を聞き出し、それに応じて適切な応答ができる人のことです。ビジネスにおいて、その姿勢が最もわかりやすいのが「結論ファースト」になります。「結論から話そう」ということですね。
そもそも結論とは何か? それは、「相手が一番知りたいこと」です。シンプルな方法ではありますが、「相手が一番知りたいこと」をきちんと汲み取る必要があります。慣れるまでは難しいかもしれませんが、ぜひ意識して話してみてください。
大事なのは「相手の真意を汲み取ること」
もちろん「結論ファースト」が万能な話し方なわけではありません。なぜなら、相手が結論を求めていない場合もあるからです。例えば、部下から「先輩、私、会社を辞めようか迷っていて……」と言われた時に、「辞めれば?」と結論を言ってしまうのは論外。この場面では、後輩は結論を聞かせてほしいのではなく、悩みを聞いてほしいと思っているのですから。このように、相手の“真の意図”を汲み取って対応することが求められます。
相談に関しては、大きく次の3パターンがあります。
1.話をただ聞いてほしい。
2.話を整理してほしい。
3.具体的なアドバイスが欲しい。
「良いコミュニケーション」をするためには、まずは話を聞きながら相手の望みを整理したり引き出したりして、「自分は何を求められているのか」を考えなければなりません。
もちろん、最初はそれを把握するのは難しいため、「アドバイスを求められているわけではない」との前提で話を聞く方が安全です。相手の意図とずれたアドバイスは、関係性を損ねることにもつながるからです。そのため、リスクの低い「話を聞くこと」に徹して、アドバイスは「求められた時だけ伝える」のがおすすめ。この順番を意識するだけで、相手との関係を損ねずに建設的な会話ができます。
脳内の整理が苦手なら、AIの力を借りて
続いて、テキストでのコミュニケーションについても触れておきましょう。リモートワークが普及し、チャットやメールでのやり取りが増えた人が多いはず。テキストでのコミュニケーションの伝わりやすさは「脳内の整理ができているかどうか」で決まります。もしあなたの文章が「わかりづらい」と言われたら、まずは情報を言語化して整理することから始めましょう。
「文章を書くのはどうしても苦手」という人は、AIを活用するのも手です。AIの音声入力機能を使って、「今から話すことをメールの文章にして。相手の気分を害さないように言い方も工夫して」と伝えれば、自然で丁寧な文面が生成されます。チャットに入れる返答も同様です。この方法は、実際にコールセンターなどで使われています。文章作成に不安がある方は、ぜひ実践してみてください。
人からの信頼を得るために重要なのは「行動」
ここまでの話でわかるように、人からの信頼は、話し方によって得られるわけではありません。「この人になら安心して仕事を任せられる」「困った時には助けてくれる」と感じてもらえる“行動”が信頼を生むのです。「任せてください!」と言って、実行しなければ信頼されないのは当然でしょう。
一方で、信頼される行動を取ること自体が難しいものです。信頼される行動とは、正確に「相手のニーズ」を汲み、それに応えるものだからです。ですから、人から信頼を得たいのであれば、まずは相手の置かれた状況や、求めているものをよく観察しましょう。例えば、会社から与えられている目標を達成できるよう貢献する。先輩が抱えている雑多な仕事を買って出る。後輩が困っていないか様子を伺う。観察によって見えてくるニーズに、いかに応えるかが信頼の構築につながっています。

上手なコミュニケーションを身につけようと、「型」を覚えて対応しようとする人もいますが、その方法では決してうまくいきません。それは、英語の文法を覚えたところで、英会話が出来るわけではないのと同じです。
ビジネスにおいても、まずは「相手の動きをよく見る」「何を期待されているかを理解する」、そして「その期待にどう応えるかを考えて行動する」——それがコミュニケーションの本質であり、信頼を築く最も確かな道です。
安達裕哉
Books&Apps運営、企業コンサルティング
Deloitteにてコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任。2013年にWebマーケティング・コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。2023年7月には、生成AIコンサルティングおよびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドによる調達を実施。著書『頭のいい人が話す前に考えていること』は82万部(2024年11月時点)を突破し、2023年・2024年と2年連続で“日本で一番売れたビジネス書”(トーハン調べ/日販調べ)に。
ライター:神代裕子 アイキャッチ・図版:サンノ 編集:モリヤワオン(ノオト)

ブランド名
商品名が入ります商品名が入ります
¥0,000
