親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。
第8回は、手塚治虫や赤塚不二夫など、昭和を代表するマンガ家たちが暮らした「トキワ荘」からほど近くにある、一般社団法人マンガナイト運営の『マンガナイトBOOKS』、『マンガピット』、『E Gallery』です。この場所の魅力、そして人々を惹きつけるマンガの魅力について、マンガナイト代表の山内 康裕さんにお話を伺いました。
地域全体で「トキワ荘」を盛り上げたい
—「マンガナイトBOOKS」は、2018年に文京区春日にオープンしました。その後、現在の豊島区南長崎エリアに移転した成り行きについて教えて下さい。
山内
おっしゃるとおり、もともとは春日でギャラリー、マンガ専門書店、喫茶スペースの機能を持つマンガ専門複合施設「マンガナイトBOOKS」を運営していました。
一方、私がスペースの運営以外にもマンガに関わるプロジェクトやイベントなど幅広く関わっていたので、豊島区とも2019年頃から交流があったんですよね。そこで、豊島区からマンガの聖地でもある「トキワ荘」を地域として盛り上げていきたいとご相談があり、この場所へ移転することになりました。
一般社団法人マンガナイト 代表理事・山内 康裕さん
—現在入居されている「トキワ荘通り昭和レトロ館」は、どのような建物なのでしょうか。
この建物は、昭和20年頃に建てられたマーケット「味楽(みらく)百貨店」を改築・整備したものです。昭和の歴史や文化を次世代に継承することを目的に設立されました。
1階に、私たち一般社団法人マンガナイトが運営している3つの施設が入っています。マンガの専門書店『マンガナイトBOOKS』とマンガ専門の展示ギャラリー『E Gallery』、そして約7000冊のマンガが読める『マンガピット』です。
『トキワ荘通り昭和レトロ館』。2階には、昭和の暮らしを再現した展示室が並ぶ。
こちらは豊島区が管理・運営している
—マンガナイトが運営する施設について詳しく教えてください。
『E Gallery』では、主にマンガの原画展示を行っています。隣のマンガ専門書店『マンガナイトBOOKS』では、展示中のマンガ家さんの作品やグッズを販売しています。ほかにもスタッフが選書したマンガや学習マンガが購入できるので、『マンガピット』で気になったマンガを購入していく方もいらっしゃいますよ。
マンガ専門の展示ギャラリー『E Gallery』(写真左)と、マンガ専門書店『マンガナイトBOOKS』。
取材時には、西島大介先生の原画展&ゲーム展「Hung-King POP-UP!! – マンガのまちのだいぼうけん -」が開催されていた。
—原画が所狭しと展示されていて圧巻ですね……!
紙原稿を展示する一方で、最近では作画から入稿、出版までフルデジタルで行うマンガ家さんもいらっしゃるので、サイネージを使ったデジタル展示にも対応できるようにしました。
—原画と聞くと紙原稿を思い浮かべますが、デジタルだと動きもあってユニークな展示が楽しめますね。
そうですね。「他でこんな展示は見たことがない!」と好評です。マンガ家さんからも「こんな展示をやってみたい」とアイディアをいただくこともありますね。
原稿が次々と表示されるのが楽しいデジタル展示
本展示会では、西島大介先生自らが発案・開発したゲーム『フンくんさんぽ。 -マンガのまちのだいぼうけん』のプレイスペースも。トキワ荘周辺が舞台で、『トキワ荘通り昭和レトロ館』も登場する
老若男女を魅了するマンガのチカラ
—マンガの図書館のような『マンガピット』には、どんな方がいらっしゃいますか?
近所のお子さんから、トキワ荘の観光にいらっしゃった方、ギャラリー展示しているマンガ家さんのファンの方まで、幅広いマンガ好きが集まってきます。普段は有料ですが、毎週火曜日は無料で開放しているのでふらりと立ち寄りいただく方も多いですね。
ギャラリーの展示内容によって、来るお客さんが変わるのも面白いですよ。ベテランマンガ家さんの周年をお祝いするような展示の際には往年のファンが訪れたり、SNSで人気がある作家さんの展示の際には若い方が多かったりします。
さまざまなマンガがぎゅっと詰まった『マンガピット』。
入館料は一般500円、小学生・中学生250円、小学生未満は無料
—ここには7000冊のマンガがあるとのことですが、どのように選書されているのでしょうか?
日本財団の助成のもと、マンガナイトが主催する「これも学習マンガだ!」プロジェクトで選ばれた学習マンガを中心に、“学びに活きるマンガ”を選書しています。いわゆる学習参考書や小学生向けの科学マンガから、『宇宙兄弟』や『Dr.STONE』のようなアニメ化された人気作品まで幅広く置いているんです。
「学習マンガ」と聞くと、歴史上の人物を描いたものや、科学をわかりやすく解説したものを思い浮かべるかもしれませんが、それだけではなく、人生に必要な学びがあるマンガ、読み終わった後に自分の価値観が広がるようなマンガも、「学習マンガ」として選んでいます。
ピックアップコーナーでは一作品ごとにPOPが付けられ、手に取る前から胸が躍る
—エリアごとにスポーツや歴史、エンタメなどジャンルにはわかれているものの、並んでいるマンガには意外性があって、配置の仕方も面白いですよね。
学習参考書である学習マンガとエンターテイメントマンガを横断的に見てもらえるように意識しました。大人が小学生向けの学習参考書を熱心に読まれていくこともありますよ。角川まんが科学シリーズの『どっちが強い!?』は結構人気です。
かつて小学校の図書館で手に取った学習マンガがずらり
お子さんには小上がりのエンタメエリアが人気。『ドラえもん』や『ドラゴンボール』『ワンピース』などは世代を超えて愛されているマンガですよね。お子さん同士で笑ったり、感想を言い合ったりしながら楽しそうに読んでいますよ。
まるで秘密基地のような小上がりのエリア
マンガが大衆のものであり続けるために
—お話を聞いていると山内さんのマンガ愛がひしひしと伝わってくるのですが、マンガのつくり手ではなく、マンガを広める側を選択されたのはなぜなのでしょうか?
この世界には、素晴らしいマンガがたくさんある。それなのに埋もれている作品があるのはもったいない! そんな想いがありました。実際、マンガナイトを立ち上げた2009年には、新しくマンガを知るツールが少なかったんです。だから、ワークショップなどを通じて、カジュアルに自由にマンガを知れる機会を作りたいと考えていました。
また、日本ではマンガが広く浸透し、多くの方が「マンガならではの文法」を身につけています。
例えば、読者はキャラクターの表情や背景、台詞から、そこに描かれたメッセージを自然と読み取りますよね。その他にも、効果音やキャラクターたちの声を無意識のうちに脳内で再生していたり、習ってもいないのにコマ割りの読む順番をいつのまにか把握していたり。これってすごいことだな、と。
だからこそ、これからも大衆文化として「マンガ」を残していかなければ、と感じていました。学習やビジネスのツールとしてもマンガが選択されるようになれば、マンガがもっと多くの人に親しんでもらえるものになる、そんな想いがありましたね。
—今や大人がマンガを読むのも当たり前になりましたよね。将来の夢をマンガで探すなんてことも当たり前になってきたと感じます。
そうですね。最近では高校の図書館にも学習マンガが置かれるようになったんですよ。新たな知識をマンガで身につける、将来の夢をマンガで探す。学校の先生から「○○しなさい!」と言われるのは嫌だけど、マンガなら素直に受け入れられる(笑)。図書館が学生たちのサードプレイスとして使われているようですね。
国内外の人にマンガの素晴らしさを広めたい
—これからマンガはどのように進化していくと思いますか?
「Webtoon(韓国発祥の縦スクロールマンガ)」など、スマホで読む電子書籍が増えてきたことで、今までマンガを読まなかった人たちもマンガに親しむようになりました。しかしデバイスに依存しているので、将来的にデバイスが変わってもマンガを読んでもらえるようにする仕組みは必要なのでは、と思いますね。
紙のマンガはコレクションとして楽しみたい人に、電子書籍は消費財として、役割が分かれていくように感じています。
—マンガには今後さまざまな可能性があるといえそうですね。
マンガ家さんの才能は本当に素晴らしい。作画の素晴らしさはもちろんですが、0から作品を生み出す力はマンガ以外の分野でも活かせるのではないか?と思うんです。設定を作ったり、世界観を作ったりと、マンガ以外の分野でもマンガ家さんの才能を活かせる場所を増やしていきたいなと考えたりします。
—面白そうですね! 最後に今後、山内さんが施設での取り組みを通して実現したいことを教えてください。
日本の方はもちろん、海外の方にも、もっとトキワ荘エリアへ足を運んでもらえるような仕組みを作っていきたいです。このエリアに世界中のマンガファンが集う! そんな場所になったら楽しいですね。
山内 康裕
1979年生まれ。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し、2020年に法人化し「マンガと学び」の普及推進事業や拠点営業(日本財団助成)、展示事業等を展開。さいとう・たかを劇画文化財団代表理事、東京工芸大学芸術学部マンガ学科非常勤講師他を務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)など。
マンガナイトBOOKS:https://books.manganight.net/
マンガピット:https://pit.gakushumanga.jp/
ライター:つるたちかこ 撮影:塩川雄也 編集:モリヤワオン(ノオト)
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