触って、遊んで。木のやさしさと地元の魅力を肌で感じる場所―岩手・花巻おもちゃ美術館
人が集まる場のヒミツ

触って、遊んで。木のやさしさと地元の魅力を肌で感じる場所―岩手・花巻おもちゃ美術館

#コミュニティ #教育・学び

人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか?連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。


最終回は、岩手県花巻市「マルカンビル」内にある交流型ミュージアム「花巻おもちゃ美術館」です。


運営を担うのは、創業120年、花巻市に本社を構える「小友木材店」。木材店だからこそのこだわりで、岩手県産の木材をふんだんに使用した館内には、子どもたちの想像力を刺激する選りすぐりのおもちゃが用意されています。


木とおもちゃを通して、子どもたちはどんな体験と出会うのか。小友木材店の営業部部長・平野裕幸さんと、花巻おもちゃ美術館館長の玉山恵さんに伺います。

一大ニュースになったマルカン百貨店の閉館と、おもちゃ美術館との出会い

花巻おもちゃ美術館は、東北唯一のおもちゃ美術館として2020年にオープンしました。オープンまでの経緯を教えて下さい。

平野

当館は地元企業である小友木材店が設立し、運営も担っています。きっかけは弊社の代表である小友康広が、日本木材青壮年団体連合会の視察で東京おもちゃ美術館を訪れたことです。


おもちゃ美術館は現在全国に13か所あり、公民を問わずさまざまな組織が運営しています。視察の中で、小友は「東京おもちゃ美術館」が年間15万人も訪れる人気スポットであることを知りました。その後、沖縄にある「やんばる森のおもちゃ美術館」を視察したところ、アクセスが良い立地ではないのに地元の子どもたちで賑わっていたそうです。それを見て、「これなら花巻の人たちも喜んでくれるのではないか」と考えたわけです。

小友木材店の営業部部長・平野裕幸さん。花巻おもちゃ美術館の初代館長をつとめた

おもちゃ美術館は行政やNPO法人が運営するケースが多いそうですが、花巻おもちゃ美術館は御社が一手に引き受けているのですね。

平野

そうなんです。その背景には、当館が入居するマルカンビルの“事情”があります。マルカンビルはもともとマルカン百貨店として営業していましたが、2016年に一度閉館しているんです。ビルの6階には年間30万人もの人が訪れる「展望大食堂(現在はマルカンビル大食堂)」があり、10段巻きのソフトクリームを箸で食べるユニークなメニューが人気で、地元の人たちが三世代で通い続けるほどの老舗です。


「どうにか閉館を回避したい」と、地元の女子高生たちが署名活動を行ったほど、多くの人に愛されていました。当時、リノベーションによるまちづくりを手掛けていた小友も「なんとかしたい」という思いで、食堂だけでも残そうと動き始めました。そして約8ヶ月後現在の「マルカンビル大食堂」と1階フロアのみで営業をする「マルカンビル」として復活を遂げたのです。東京おもちゃ美術館と出会ったのは、ほかのフロアをどうするか検討している最中のことでした。

花巻市民の憩いの場「マルカンビル」。2016年に耐震不適合と建物老朽化のため閉館が決まったが、地元企業が力を合わせて改修・復活を遂げた

小友社長から花巻おもちゃ美術館の構想を聞いたときは、どのように感じましたか?

平野

私はマルカンビル再建の頃に弊社へ入った転職組で、前職は県の森林組合で働いていました。木がものすごく大好きで、これまでさまざまな場面で県産材を活用すべく動いてきました。


実は転職する前に、別の事業者から「おもちゃ美術館を作りたい」と、相談を受けたことがあるんです。私もぜひ作りたいと思ったのですが、そのときは残念ながら実現しませんでした。

それでは、小友木材店に入られてから偶然、花巻おもちゃ美術館の設立に立ち会うことになったのですか?

平野

そうなんです! 私も小友からおもちゃ美術館の話を聞いたときには鳥肌が立ちました。まさかこんな形で実現するとは思いませんでしたし、館長を決めるときには迷わず立候補しました。現在は、玉山が2代目館長を担っています。

岩手や花巻の個性が際立つ館内の仕掛け

花巻おもちゃ美術館館長の玉山恵さんに、館内を案内いただいた

花巻おもちゃ美術館は、どのようなコンセプトで作られているのでしょうか?

玉山

全体のコンセプトや各部屋の空間づくりは、全て東京おもちゃ美術館が監修しました。国内のおもちゃ美術館すべてに共通しているのは、床を杉材にすることです。杉は柔らかいので傷がつきやすく、床材には向かないのですが、柔らかいからこそ子どもたちの足に優しい木材だといえます。当館の床にあるたくさんの小さな傷は、子どもたちが元気いっぱいに遊んだ証拠。これも当館の歴史の一つとして刻まれていきます。


ほかにも館内にはさまざまな木材が使用されていて、その全てが岩手県産材です。岩手県は樹種が豊富で、林業の世界では「木のデパート」と呼ばれることもあります。当館ではそうした樹種の豊富さも知っていただきたいと思い、30種類ほどの県産材を使用しています。

「岩手県が日本一の生産量を誇る漆の木が、館内に隠れています。全部で5箇所あるので、来館された際にはぜひ見つけていただきたいです!」と玉山さん。写真の中にある「隠れ漆」は、どれだかわかる?

いろいろなお部屋がありますね。それぞれの特徴を教えて下さい。

玉山

館内には全部で8つの部屋があり、入口のすぐ近くにあるのは「赤ちゃん木育のもり」です。ここは0~1歳の赤ちゃんが安心して遊べるおもちゃを揃えています。


なかでも目を引くのは汽車の形をしたトンネルで、これは花巻市出身の童話作家・宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をイメージしています。


館内には壁にアーチ状の木煉瓦が設置されていますが、これも「銀河鉄道の夜」の着想を得たとされている岩手県遠野市のめがね橋を模したものです。

木でできた「銀河鉄道」の遊具。空間をつなぐアーチも特徴的

「マルカンビル大食堂のもり」もあるんですね。

玉山

そうです。ここではマルカンビル大食堂のメニューをモチーフにした木のおもちゃを用意していて、名物のマルカンラーメンやナポリかつを作ることができます。また、大食堂の看板メニューでもある10段ソフトクリームを積み木にした「10段ソフトクリームブロック」も人気のおもちゃです。過去の最高記録は57段で、まだ誰にも破られていません。

パーツを組み合わせて、「ナポリかつ定食」が完成!

高く高く積み上げる、「10段ソフトクリームブロック」(画像提供:花巻おもちゃ美術館)

玉山

ほかにも温泉が有名な花巻市ならではの部屋として、「温泉街のもり」や「秘湯のもり」があります。


「温泉街のもり」では昔懐かしいコマやけん玉などがあり、お子さんよりも大人の方が夢中になって遊んでいます。スタッフの中には、10個のけん玉が連なった「10連けん玉」を成功させるツワモノもいるんですよ。

10連けん玉(左)。ほかにはコマなど、子どもには新しく、大人にはなつかしいおもちゃたちも

「秘湯のもり」には、温泉をイメージした「木のたまごプール」が。ここにもさまざまな木材が使用されている

木材だけでなく、各部屋のテーマにも地元の要素がつめこまれているんですね!

玉山

ここで遊んだ子どもたちが、後になって「あれは宮沢賢治や花巻温泉のことだったんだ」と気がついてくれたらと思っています。そのため、遊びを入り口にして岩手や花巻の文化に自然と触れられる仕掛けを随所に施しているんです。

選びぬかれたグッド・トイと、子どもたちの笑い声が響く館内

「グッド・トイのもり」とは、どのような部屋ですか?

玉山

「グッド・トイ」とは、全国のおもちゃコンサルタントにより選ばれたおもちゃのことで、毎年30~50種類ほど選出されます。グッド・トイの条件は大きく分けて3つあり、遊びの内容が暴力的でなく健全であること、一過性の人気ではなくロングセラーであること、そして世代や国籍、障害の有無を問わず互いにコミュニケーションが取れるものとされています。


当館では東京おもちゃ美術館が選んだものを入れ替えて設置し、何度来ても飽きないように工夫しています。

グッド・トイのもりには、木材だけでなくさまざまな素材のおもちゃたちが

どの部屋も仕切りがなく、子どもたちが自由に行き来していますね。

玉山

ほかのおもちゃ美術館の中には、階層が分かれていたり、部屋が区切られていたりするところもあります。でも当館はワンフロアで仕切りがないため、子どもたちは興味の赴くまま、流れるように遊ぶことができます。


館内にはボランティアのおもちゃ学芸員が常駐していますし、迷子になる心配もありません。そのため、半年パスポートを買って通ってくれるママさんたちも多いです。

アーチをくぐって隣の部屋へ。扉はなく、シームレスに移動できる

家族連れだけでなく、大人同士のお客様もいらっしゃいますか?

玉山

もちろんです。多いのは0~10歳のお子さんを連れたご家族ですが、カップルや友達同士のほか、シニアの方が旅行で来てくださることもあります。


ご家族連れの方は滞在時間が長く、開館から閉館まで過ごすことも珍しくありません。マルカンビル大食堂で昼食を取り、戻ってきてまた遊んでいただく。閉館時間になると「帰りたくない」と泣いてご両親に訴えるお子さんもいるほどです。親御さんは大変だと思いますが、私たちスタッフにとってはとても嬉しいことです。

花巻市から飛び出して、より多くの人が木とおもちゃと触れ合える空間を

間もなく開館から5周年を迎えられますが、現在の入館者数はどのくらいですか?

平野

年間7万人を超えるお客様にご来場いただいています。当館がオープンしたのはコロナ禍の真っ只中だったので、初年度の年間来場者数は約3万5千人と想定よりもふるわなくて。


このまま待っていても仕方がないと考え、出張おもちゃ美術館を実施したんです。行政と連携し、岩手県各地の4つの会場で行ったところ予想以上に好評で、翌年から実施会場を増やしていきました。やがて民間企業や市町村からもオファーをいただくようになり、現在も「木育サーカス団」のように各地で活動しています。

出張おもちゃ美術館の様子(画像提供:花巻おもちゃ美術館)

昨年は海外でも活動されたそうですね?

玉山

昨年11月に、花巻市の姉妹都市であるアメリカのホットスプリングス市で、出張おもちゃ美術館を開きました。最初は「国が違うと、子どもたちのおもちゃに対するアプローチが変わるのでは?」と思っていましたが、実際は日本の子どもたちと何も変わりません。こちらが説明する前に遊び始めていましたし、靴を脱いだりおもちゃを大切に扱ったりと、きちんとルールを守っていました。

平野

あの光景を見ると、おもちゃは一種の共通言語のような存在だと感じます。今後は2年目、3年目に向けて徐々にレベルアップし、ホットスプリングス市でも本格的に運営することを目指しています。

ホットスプリング市での出張おもちゃ美術館の様子(画像提供:花巻おもちゃ美術館)

最後に、今後の目標について教えて下さい。

平野

一番の目標は、木育ひろばを県内にたくさん作って、岩手を木育王国にすることです。花巻おもちゃ美術館をベースにし、サテライトおもちゃ美術館を各地に作る。そうすることで、誰もがいつでも遊びに来られる木育施設ができれば最高です。

玉山

木育は木に触れることが最初のステップになりますが、その機会を得られる場が少ないのが現状です。また、近年では公園の遊具を「危険だから」という理由で撤去されるケースが多く、子どもたちが自由に遊べる場所が減っています。


木育は学びのイメージが強いですが、ここでは遊びを通して木と触れ合うことができます。これからもおもちゃという可能性に満ちたアイテムを通して、子どもも大人も楽しめる空間を提供し続けていきたいです。

PROFILE
川村健一

平野裕幸

株式会社小友木材店 営業部部長

玉山恵

花巻おもちゃ美術館 館長

木材をこよなく愛する平野さんは花巻おもちゃ美術館の初代館長。設立時は、自身の知識と経験を余すことなく発揮した。一方、英語教師の経験を持つ現館長の玉山さんは、同館に勤務してからベイゴマを猛特訓。子育て真っ最中のワーキングマザーでもある。


HP:https://www.hanamaki-toymuseum.com/

CREDIT

取材・執筆:山口由(とっかり) 撮影:星野慧(アキテッジ) 編集:モリヤワオン(ノオト)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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