地元の廃材を集めて体験型のゴミステーションに。町の価値を伝える場―徳島・上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”
人が集まる場のヒミツ

地元の廃材を集めて体験型のゴミステーションに。町の価値を伝える場―徳島・上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”

#アイデア・工夫 #コミュニティ #ライフスタイル

人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。


第17回は、徳島県勝浦郡上勝町にある「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」。山間部の小さな町が進める過疎と廃棄物への取り組みは注目を集め、四国でもっとも人口の少ない町にも関わらず、多くの人々が訪れるようになりつつあります。この施設を運営する株式会社BIG EYE COMPANYのCEO(Chief Environmental Officer)である大塚桃奈さんに、魅力あふれる空間づくりについてお伺いしました。

持続可能な取り組みを、町の持つ独自の価値として

―最初に「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」設立の経緯から教えてください。

大塚

施設を運営している株式会社BIG EYE COMPANYの代表・田中達也が2011年、上勝町職員の方から依頼され、初めて町を訪れたことがきっかけでした。そのときは再生可能エネルギー事業に関するご相談でしたが、後に当時の上勝町長から「人口減少に対して何かできないか?」と打診され、2020年の「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」設立へとつながるプロジェクトが動き出したそうです。


上勝町は面積の約9割を山林が占めており、スーパーマーケットはおろか、コンビニエンスストアすらありません。もともと林業で栄えた町は、1960年代の木材輸入自由化に伴って衰退し、人口減少が進みました。和食に添えられる“つまもの”の栽培や出荷は有名でしたが、あくまでも地元の人々による仕事であり、関係人口の増加に寄与するものではありません。そこで田中が着目したのが、この町に浸透していた無駄や浪費、ゴミをなくす“ゼロ・ウェイスト”という活動でした。

株式会社BIG EYE COMPANYのCEO(Chief Environmental Officer)・大塚桃奈さん

日本の自治体では、2003年に初めて上勝町が「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表したんですよね。

大塚

そうなんです。できるだけゴミを出さないゼロ・ウェイストは、すでに上勝町に住む人々の暮らしの一部になっていました。


徳島の山間部にある小さな町の人たちが、徹底的にゴミの分別に取り組んでいる――。事実、田中がそのことについて県外の人に話すと、環境問題に関心の高い人が強く興味を示したそうです。「もしかすると、ゼロ・ウェイストこそが、上勝町ならではの価値なのかもしれない」という仮説が浮かび上がってきました。


地域の課題である過疎を解決するには、ここにしかない取り組みを積極的に見せていく必要があります。しかし、ゼロ・ウェイストによって関係人口を増やしていくためには、ゴミの分別を視察するだけでは不十分です。それが“いいこと”なのは誰でもイメージできますが、実際に体験しなければ、本当のところはわかりませんから。

自分の手を動かさなければ、町の本質が理解されにくいという意味ですか。

大塚

そのとおりです。とはいえ、当時のゴミステーションは、プレハブ小屋の建築で、あくまでも町に住む人々が使用する日常の施設ですから、外から来る方々を呼び込むには新しい交流拠点が必要でした。


そこで田中が考案したのが「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」です。「町の本質を伝えつつ、外の人々に関心を持ってもらう場所」と「滞在を通じてゼロ・ウェイストを体験する施設」を兼ね備えた環境型公共複合施設として、上勝町役場に提案しました。


しかし、当初はゼロ・ウェイストをコンセプトにした施設の創設に関して、町の理解を得ることができませんでした。そこで、ゼロ・ウェイストを感じさせる地ビールの醸造所を併設したコンセプトストア&レストランバーを上勝町の玄関口につくること。それが2015年にオープンした「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & GENERAL STORE」です。リユースした古材による個性的な建築や地ビールの味が注目され、全国各地から多くの方々が訪れる人気スポットに成長しました。

RISE & WIN Brewing Co. BBQ & GENERAL STOREの外観(提供写真)

大塚

その後、徐々に地域の理解も得られて、2020年にゼロ・ウェイストセンターが設立されました。センターは町の人々が用いるゴミステーションを中心に、外から来る方々を迎える多目的スペース「交流ホール」や研修用のオフィスラボ「ラボラトリー」、宿泊体験棟、リユース拠点などを併せ持つ複合施設として機能しています。

(提供写真)

「どう生かしていくか?」を問いかける建築と空間

多種多様な建具が壁面を彩るなど、とても個性的で魅力的な建築だと思います。空間づくりのポイントや工夫には、どのようなものがありますか。

大塚

設計は中村拓志&NAP建築設計事務所にお願いしました。「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」は、かつてゴミの野焼きを行っていた埋立地に隣接して建てられています。


まず、施設の役割としては、大きく左右で分かれている点が特徴ですね。正面から見て左になる馬蹄形(ばていけい)の部分が、半屋外のストックヤードを持つゴミステーション。こちらは基本的に町内の人々のための施設です。ドライブスルーでゴミを持ち込み、13種類・43分別ができるようになっています。

馬蹄形になっている部分でゴミを分類できる。それぞれのカゴには、その種類のゴミが処理されるのにいくらのお金がかかるのかが明記されている

大塚

中央が町から出た不要物のリユースを行う「くるくるショップ」。ここは町外の方も利用可能で、そこから右がホールやオフィスラボ、宿泊体験棟と続いています。

町の住民が不要になったものを持ち込み、誰もが持って帰ることができる「くるくるショップ」

―施設としては一つですが、左右で役割が分かれている施設なんですね。

大塚

基本的には町の人々がゴミを出すところですから、日常の使いやすさが第一ですし、プライバシーにも配慮しなければなりません。観光や視察で訪れた方々の見学や体験も、その点を考慮してスケジュールを組んでいます。施設としてはシームレスな形ですが、どちらの利用者も特に意識することなく、自然に行動できる動線が実現できているのだと思います。

―やはり設計段階からゼロ・ウェイストの考え方が取り入れられているのでしょうか。

大塚

できるだけ地域の資源でつくること。無駄な廃材を出さないようにすること。使われなくなったものに価値を与えることなどが重視されています。上勝町の森林組合や製材業者、加工業者の皆さんと協力し、地元の杉材で建てられました。ロスを最低限にするため、角材ではなく丸太を半割にした柱や梁を使っています。また、ボルト止めをしているため、メンテナンスや部材のリユースもしやすいんですよ。構造設計には、山田憲明構造設計事務所が携わっています。

柱や梁の使用には、ゴミの発生を抑制するための工夫が施されている

大塚

また、町役場のバックアップのもと、建築に用いる特定の廃材を住民説明会や広報誌で広く募集したそうです。集まった廃材は、さまざまなところで見ることができます。


たとえば、建具はパッチワークのように組み上げて壁面のペアサッシに。割れた食器の欠片は骨材として洗い出しの土間のアクセントに。古い箪笥や農機具は展示什器やサインに。そして、使われなくなった農業用コンテナは書棚として活用されているんです。ほかにもいろいろありますが、こうした創造的なリユースやアップサイクルにより、ほかのどこにもないゼロ・ウェイストを体現した空間になっています。

壁一面にはめ込まれたたくさんの建具は、町民が実際に使用していたもの

割れた食器の欠片が床のアクセントになっている

―国内外から多くの方が訪れると思いますが、どのような反応が多いですか。

大塚

「こんなおしゃれに再利用できるんだ!」とびっくりされる方が多いですね(笑)。よく耳にするのは、建具を使った壁面と「くるくるショップ」の空き瓶を束ねたシャンデリア。迫力もありますし、やはりインパクトが強いみたいです。内装に関しては、主に地元の建築家であるWrap建築設計事務所が携わってくれたのですが、約300本の空き瓶を使ってつくられています。

空き瓶が束ねられたシャンデリア

大塚

「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」は、年代がバラバラの廃材やリユース品で構成された空間ですが、不思議と居心地がいいんですよ。それは中村さんの設計ならではだと思います。建具のサイズを計算して美しいデザインになるように組み合わせたり、不揃いのタイルの大きさや向きを調整し、自然な動線が生まれるように床に貼ってみたり……。一つひとつはまったく異なる見た目ですが、全体は見事に調和しています。

「ラーニングセンター&交流ホール」は誰でも使えるフリースペース

単純に廃材をリユースするのではなく、そこに「どう生かしていくか?」という明確な意志がある。

大塚

大切なのは、まさにその部分なのかなと思います。確かにリデュースやリユース、リサイクルは重要ですが、もったいないからと言って、ただ取っておくだけでは本末転倒です。ここは「どう生かしていくか?」という問いに気づき、考え、行動に移していくための空間。施設を上空から見ると「?」の形になっているのも、上勝町と私たちから皆さんへのメッセージでもあるんです。

上空から見ると「?」になるように設計されている。中央付近にある入口周辺はゴミステーションで、そこから連なるようにショップやラボ、宿泊棟が続いていく(提供写真)

泊まって学ぶ。ゼロ・ウェイストで意識を変えていく

―宿泊棟である「ゼロ・ウェイストアクションホテル“HOTEL WHY”」についても教えてください。

大塚

宿泊を通じて上勝町の暮らしを体感し、日々の暮らしをゴミから見つめ直すための体験の要が「HOTEL WHY」です。ダム湖を臨むレイクサイドが2室、山側の道に面したマウンテンサイドが2室で、いずれもメゾネットタイプの部屋です。建物の窓やバスルームの床、ソファやカーテン、ラグなどに廃材や古材が使われている点も一緒です。

「HOTEL WHY」の客室

扉に貼られている「WHY」と書かれた壁紙は、新聞紙がリユースされたもの

大塚

プラスティックゴミ削減のため、使い捨てのアメニティーはありません。その代わり、石鹸と徳島県で生産されている阿波晩茶(あわばんちゃ)をサービスしており、チェックインの際に必要な分だけ量り分けという形で提供しています。自分の必要な量はどのくらいなのか――。その場で考えていただくことから「ゼロ・ウェイストアクション」がスタートしているんですよ。消費の在り方を振り返り、できるだけゴミをなくすためのきっかけづくりになるのではないでしょうか。


チェックインされた日の夕方には、上勝町が取り組んできたゼロ・ウェイストの歴史や施設の紹介も行っています。滞在中に出たゴミを用いて、町の人々と同じ条件で分別を体験することも可能です。

チェックイン時に石鹸と阿波晩茶を量り、必要な分だけサービスを受けることができる

国内外それぞれから企業や団体の視察も多いそうですが、一般のお客さまも増えているそうですね。

大塚

企業や団体でいえば、ナイジェリアの視察団や香港の高校生・大学生のグループが印象に残っています。彼らの滞在中、廃品の傘や時計を分解するワークショップを行ったのですが「自分たちが使う道具の成り立ちを初めて考えた」「ゴミについて考える新たな視点をもらった」などの感想をいただきました。


海外からの一般客では、ティーンエイジャーのお子さんと一緒に旅行で訪れるファミリー層が多い印象です。国内からですと、もう少し小さなお子さんを連れたご家族が目立ちますね。いずれも環境問題に関心が高く「子どもたちにも楽しく学んでほしい」という思いで宿泊されているようです。

「ラボラトリー」は企業の研修や視察、ワークショップで使用されている。奥の窓に敷き詰められているのは、町で使われていた農業用のカゴ

―最後にこれからの「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」について聞かせてください。

大塚

2025年の10月でオープンから5周年を迎えます。最初は私2名だったスタッフも年ごとに増え、2024年は新卒で入社したスタッフが2名もいました。「ここで働きたい」と思ってもらえる場所になったのが嬉しくて。お祭りや季節ごとの行事に上勝町民の一人として参加することで、私たちと地域との関わりもどんどん深くなってきています。最近では、町の人々から「イベントをやってみたい」という相談も増えてきているんですよ。


また「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」を訪れた方々が増えるにつれ、ここでの体験を経て「意識や考え方が変わった」「ゴミに対して気をつけるようになった」などの感想も届くようになりました。今では年間5000人を超えるビジターにお越しいただき、過疎化の課題は残るものの、町の価値を伝える一端を担っているのではないかと感じます。


ゼロ・ウェイストの取り組みは、全国的に普及させていく必要があると思っています。もっと企業や団体との連携を増やしていくと同時に、子どもから大人までの教育や交流の場としての役割も大切にしたいと考えています。現在の「ゴミを出す場」であると同時に、未来を考える「学びと体験の場」でありたいですね。

PROFILE
川村健一

大塚桃奈

株式会社BIG EYE COMPANY CEO(Chief Environmental Officer)

神奈川県出身。高校時代のロンドン留学をきっかけに、ファッションを取り巻くさまざまな社会問題に関心を持つ。2020年3月に国際基督教大学卒業後、徳島県勝浦郡上勝町に移住。同年5月30日にオープンした「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」で循環型社会の構築を目指し、町内外へ向けたコミュニケーション活動に携わっている。


HP:https://why-kamikatsu.jp

CREDIT

取材・執筆:重藤貴志[Signature] 撮影:ささゆり 編集:桒田萌(ノオト)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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