一人ひとりの可能性を広げる、古民家に生まれた小さな“まち”―徳島・みんなの複合文化市庭 うだつ上がる
人が集まる場のヒミツ

一人ひとりの可能性を広げる、古民家に生まれた小さな“まち”―徳島・みんなの複合文化市庭 うだつ上がる

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人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。


第14回は、徳島県美馬市脇町にある『みんなの複合文化市庭 うだつ上がる』。重要伝統的建造物群保存地区に建つ築約150年の古民家を改装した空間は、建築事務所をはじめ、雑貨店や書店、カフェなどが混在する文化の発信拠点となっています。この場を生み出したのは建築家の高橋利明さん。県内外から多種多様な人が集まる空間づくりの秘密をお聞きしました。

集い、交わることから生まれる「うだつ上がる循環」

『うだつ上がる』とはめずらしい名前ですが、どのような施設なのでしょう。

高橋

「うだつが上がらない」という言葉がありますよね。「うまくいかない」「パッとしない」といった意味ですが、ここ徳島県美馬市脇町の重要伝統的建造物群保存地区である“うだつの町並み”には、その語源となった防火壁「卯建(うだつ)」を備えた立派な商家が数多く残っています。立派な卯建を2階へ上げるには莫大な費用がかかるため、財産家=豪商であることが一目でわかる証でもあったそうです。

高橋

『うだつ上がる』は、その一角にある築約150年の古民家を改装した小さな複合施設。雑貨や家具、洋服などの店舗と僕の設計事務所があり、新たな気づきや文化を生み出す場として、さまざまな生き方の人が集い交わる“みんなの複合文化市庭”を目指しています。


たとえば、イベントを企画したり、副業として小さなショップを始めてみたり……。ここを訪れる人たちが、それぞれの方法でいろいろなことに取り組む経験を通じて、ワクワクする瞬間が連鎖していく。そんな「うだつが上がる」循環を広げていく場として名付けました。

施設を開かれるにあたり、徳島の県西部を選ばれた理由を教えてください。

高橋

最初から県西部の観光スポットがいいなと思っていたんです。多種多様な人が交ざり合い、自然発生的に交流が生まれる施設にするには、観光という足を向ける理由のある立地がいいと考えていました。


そう思うようになったのは、建築家を目指して大阪から徳島へ来て、いろいろな経験を積んでからのことです。独立後は県内各地の風土と向き合い、「その土地でしか成立しない建築」をテーマに、さまざまな設計に取り組んできました。


一方で「暮らし」と向き合うには建築だけでは足りないと感じ、2015年には徳島市の中心部で週末限定の雑貨店をスタート。県西部からのお客さんが多く、感謝の気持ちから「次の拠点は西にしようかな」と思うようになりました。わざわざ徳島市まで買いに来てくれるのは、彼らの暮らす地域に求めているものやお店がないから。だったら、僕が西に行こうと決意しました。

あえて、徳島のなかでも規模の大きな徳島市や鳴門市ではなく。

高橋

売上だけを重要視するならば、徳島市の中心部などで続けるのが正解かもしれません。でも、徳島全体を面白くするには、ポテンシャルを秘めた県西部で新しい場を生み出すべきではないかと思ったんです。いくつも候補となる土地や物件を探し、最終的に一番バラエティーに富んだ試みができそうな“うだつの町並み”を選びました。

建築家・『うだつ上がる』オーナーの高橋利明さん

建築家として、“うだつの町並み”にどのような可能性を感じたのですか。

高橋

実を言うと、あまり第一印象は良くなかったんです。最初に訪れたときは、ただ伝統的な町家が立ち並ぶだけの退屈な観光スポットだと思いました。ゆっくりできるお店もないし、正直「うだつって何やねん」という感じでしたね(笑)。


でも、建築家って、常に制約のなかで最善の答えを探していく仕事だと思うんです。“うだつの町並み”を生かすには、まず何よりも人が集まる場をつくること。自分の知識や経験で、古い建物を有効活用するショールームにしたかったんです。


楽しい場があれば、住んでいる地域を問わず、必ず人はやってきます。保存された通りを眺めるだけで終わらず、実際に古民家の中で交流できれば、少しずつ開かれた地域へと変わっていくはずです。利活用のベースとして考えてみた場合、もっと面白くなる可能性がある。「よくぞ、この町並みを残してくれた!」と見方が変わりました。

かつての町並みがしっかり残された“うだつの町並み”には、休日を中心に多くの人が集まる

高橋

『うだつ上がる』には、いくつかの役割があります。人や仕事、風土や文化、いろいろなものが往来するスクランブル交差点。そして、さまざまな考え方や生き方、働き方の人が集い、新しい一歩を踏み出す「ないなら、つくる」ための場。いわば、ここ自体が小さな“まち”のような空間なんです。だからこそ、「うだつが上がる」循環が広がっていく起点になる。何だか面白そうでしょう?

緩やかに区切った空間と大テーブルが出会いを生む

2020年当時は、クラウドファンディングで改装資金を募ったことも話題になりました。高橋さんが空間づくりで工夫した点はどんなところでしょう。

高橋

『うだつ上がる』は、立派な2階建ての古民家です。改装にはかなり予算が必要でした。“うだつの町並み”は重要伝統的建造物群保存地区ですから、当時の外観を維持していかなければなりません。それでも、中にどんな世界が広がっているのか、どんな施設かをわかってもらう努力は必要になります。一番頭をひねったのが入口にある格子戸の問題でした。

本来、格子戸だった入口だが、中が見えるようにとガラス戸を設置した

高橋

やっぱり中が見えないと不安になるじゃないですか(笑)。どんなに良いお店だったとしても、通りから店内の雰囲気が感じられないと、なかなか人は入ってこられません。そこで「本来の建具と同じサイズでガラス戸を製作し、営業中のみ入れ替えて使用する」という条件で許可をいただきました。こうしたアイデアを実行できるのは建築家ならではですね。

エントランスから中に入ると、1階・2階とも天井が高く、それぞれ大きなワンルームのような空間に感じられます。

高橋

内部は自由に設計できたんですが、最初からガラッと変えるつもりはなくて。木造を扱う建築家としては、当時の素材の良さや架構の力強さが目に見える状態こそ、重要なポイントだと思うんですよ。今の建築では隠す方向にある天井や梁には、昔の職人さんの知恵や技術が詰まっています。この形で現存している状態も有り難いですし。

高い天井や梁はそのままに、空間が広く感じられるような設計が施されている

高橋

独立したスペースをつくる場合も、全体的に天井まで壁を立ち上げず、緩やかに空間を区切るようにしています。たとえば、本を買いに来たとしても、雑貨や服まで目に入ってくるイメージ。無意識のうちに目的以外のものが飛び込んでくる感じですね。照明も同じトーンで連続性を持たせ、自然と建物の奥まで誘導するような雰囲気をつくっています。

手前は雑貨、少し進んで服、奥にはテーブルスペースがある。

いずれも簡単に壁で区切られているだけで、すべて地続きで異なるエリアがつながるようになっている

カフェカウンター。どのエリアもライトの明るさが統一されている

高橋

都会は街を歩くだけでも、いろいろなところに寄り道ができますよね。自分の大阪時代を振り返ってみても、“余白”の部分に人生の豊かさがあったと思うんです。でも、車社会の徳島では、いつだって自宅と目的地とのドア・ツー・ドア。免許のない若い人は地元の外に出かけるのも難しい。


そこで考えたのが『うだつ上がる』自体を“まち”に見立て、建築家としての視点で空間をつくるというアプローチです。一つの建物の中にさまざまなゾーンがあり、それぞれが空気を共有しながら存在している――。そんな空間づくりが鍵になるのではないかと思いました。

『うだつ上がる』には、町並みを訪れた人々がひっきりなしに集まる。服や雑貨、カフェなど、目的はさまざま。

―それが『うだつ上がる』を表す「複合文化市庭」という言葉に繋がっていくのですね。

高橋

理想はまったく異なる興味を持つ人同士がここで出会い、意気投合して人生を楽しむ何かをスタートすることです。だから『うだつ上がる』で一番重要なのは、1階の奥にあるみんなで囲めるように地元の大工さんとつくった大きなテーブル。

広々としたテーブルでは、自然と他人同士で相席になる

高橋

観光地にある普通の飲食店だったら、2人掛けや4人掛けの席がメインでしょう。でも、このテーブルでは、カフェや打ち合わせのために訪れた知らない人同士が必ず相席になります。初対面でも言葉を交わしやすいサイズと形なんです。すぐ隣は僕の事務所ですから、面白い話題が聞こえたら、僕がすぐに入っていくこともできます(笑)。


実際、このテーブルからは、いくつもの新しい取り組みが始まっているんですよ。その一つが2024年11月に第5回の開催を迎えた『うだつのあがる古本市』。主催者は全員20代の女性ですが、彼女たちが出会ったのもこのテーブルでした。境遇は異なるけれど「もっと地元を面白くしたい!」という思いは同じ。僕の「一緒に何かやったらええやん」という一言からスタートし、広がっていきました。

うだつのあがる古本市の様子(提供写真)

新しい発見と喜びが、未来の選択肢を増やす場に

2024年でオープンから4年が経ちますが、どんな変化がありましたか。

高橋

一番の変化は、徳島にUターンしてきた若い子たちが訪れるようになったことですね。地元の高校生たちも来てくれるようになりました。


少しずつ『うだつ上がる』という場の存在感が増してきた気がします。本を求めてくる人もいれば、パティシエのつくるケーキや焼き菓子が目当ての人もいる。『うだつのあがる古本市』もそうですが、それほど僕が関わらなくても、少しずつ面白いものが生まれていく循環ができてきたのかなと。

「うだつ上がる」では、地元出身のパティシエが間借りでカフェ営業をしており、焼き菓子も販売している

空間内にはたくさんのチラシやパンフレットなどが。さまざまな人の「したい」が集まっている

高橋さんの蔵書を中心に、自由に読むことができる本を収めた本棚もできましたね。

高橋

これも変化の一つですね。近所のおばちゃんから各地で活躍するクリエイターまで、いろいろな人が本を寄贈してくれるようになりました(笑)。やっぱり本棚があると違うんですよ。カフェでお茶を飲んだり、スイーツを食べたりする人たちも、何となく本を手に取っていく。普段、自分が興味のないジャンルでも不思議と気になったりするじゃないですか。


今、本を買うとしたら、インターネットで検索してワンクリックで……となるでしょう。そうなると、いわゆる“ジャケ買い”というか、表紙や帯の言葉に惹かれて購入する経験ができません。寄り道と同じで偶然の出会いが存在せず、“余白”を楽しむことができないわけです。


自分の興味がないジャンルだったとしても、ほかの誰かにとってはそうではないし、詳しい人から話を聞くうちにグッと引き込まれますよね。そこが面白いんですよ。

空間の奥にある大きな本棚。これも高橋さんがデザインを手がけた

高橋

僕がセレクトした日用品や食品なども同じ。こちらは自分が使ってみて「いいな」と思うものだけを置いています。通信販売でも購入はできますが、徳島で実際に手に取って確認できるのはここだけのアイテムも多いんですよ。


どこででも買える大量生産の製品も便利だけれど、そうではない製品の存在も世の中にいっぱいある。誰かの新しい発見と喜びにつながれば最高だと思っています。

入口すぐの空間には、さまざまな日用品や雑貨などが販売されている

最後にこれからの『うだつ上がる』の未来について聞かせてください。

高橋

地元の高校生たちが、近くにある市民ホールの無料スペースで、遅くまで勉強している姿をよく見かけます。もしかすると、彼らは寄り道できる場を知らないのかもしれません。ほかにやりたいことがないから、とりあえず勉強するみたいな感じなのかなと。「田舎だから仕方がない……」と、どこかあきらめてしまっている人も多い気がします。


でも、『うだつ上がる』に来れば、いろいろな生き方や働き方をしている大人がいて、さまざまな本や日用品などがある。そういう場での出会いや経験が、きっと将来を考える際の選択肢になるはずなんです。自分たちの住んでいる地域を見つめ直してチャレンジする人が増えていけば、もっと毎日が面白くなっていくんじゃないでしょうか。


ここでイベントやショップをする人は、挑戦するかどうかを自分で決めていきます。潔く「やる!」と決めた人たちがスモールスタートできる場であること。それが大切だと思っています。これからも好きなものを懸命に表現する人たちと一緒に楽しんでいきたいですね。

PROFILE
川村健一

高橋利明

建築家・『うだつ上がる』オーナー

大阪府出身。新居建築研究所(徳島県)勤務を経て、2011年『TTA+A 高橋利明建築設計事務所』を徳島県にて開設。2015年「暮らしにそっとデザインをそえる」をコンセプトとした週末限定ストア『WEEKEND TAKAHASHI STORE』を展開。2020年『みんなの複合文化市庭 うだつ上がる』を美馬市脇町の“うだつの町並み”にオープン。2024年投資型不動産会社「株式会社風土創研」を設立。同年、同じ町並み内に「あがるどーなつ/うだつぱん」オープン。  

TTA+A 高橋利明建築設計事務所 HP:http://takahashi-aa.net

みんなの複合文化市庭 うだつ上がる HP:https://www.instagram.com/udatsu_agaru      

CREDIT

ライター:重藤貴志 撮影:塚田百合 編集:桒田萌(ノオト)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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