親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。
第15回は、東京都中野区・新渡戸文化学園内にある「VIVISTOP NITOBE」。平日は学園の授業を受ける場として機能し、放課後は児童や生徒たちが思い思いの活動に取り組みながら場を活用、土曜午後は学外の子どもたちや保護者にも「オープンデー」として無料で開放されている共創空間です。
この場を生み出したのは、小学校の図工の先生を経て、現在はVIVISTOP NITOBEのチーフクルーを務める山内佑輔さん。そのキャリアから子どもたちに有益な“学び”を提供しているかと思いきや、「僕はここで教育はしていない」と山内さんは断言します。
では、彼はここをどんな場所にしようと考えているのでしょう? こちらの固定観念をことごとくひっくり返す山内さんのお話に、目から鱗が落ちっぱなしでした。
子どもに対する「教えてあげる」という関係性を壊したい
—VIVISTOP NITOBEはどういう場所なのでしょうか?
山内
さまざまな工具がありますが、決して子どもたちに「つくることを背負わせる」場所ではありません。物づくりしてもいいし、お化粧したり恋愛相談をしたりするためだけに来てもいい。ここを訪れた人たちからは、「前向きな溜まり場」という素敵な言葉をいただきました。
—ここは、学びの場ではない?
山内
学びの定義にもいろいろありますが、一般的に学校のなかでは先生がねらいをもって学びを提供することが多いですよね。授業は別ですが放課後やオープンデーにおいて、ここで僕はそれをしたくない。この場所で僕は先生ではないんです。誰かが目的を持って「これを学びなさい」と旗を振っているわけではない。
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VIVISTOP NITOBE チーフクルー・山内佑輔さん
—つまり山内さんは、ごく一般的な授業やワークショップのようなことは行わないということですか?
山内
「体験を子どもに提供するようなワークショップはやらない」ということを頑張っているんです。たとえば以前、子どもたちと一緒に本屋さんをつくったんですね。古本事業者さんから焼却予定の本1000冊を提供してもらい、それをもとに営業しようと。
自分たちが好きなものを選書し、「じゃあ、屋号を決めようか」「屋台と授業はどうつくる?」「売上はどこに寄付する?」ということを考えていくんですが、僕はそれらの正解を知りません(笑)。
―山内さんも本屋をやったことはないですからね。
山内
そう、誰もやったことがないということがポイントなんです。だから、みんなで一緒に考えていける。
似たようなケースで駄菓子屋さんをつくったことがあって、「駄菓子をどう調達すればいいか?」という話し合いになったんです。僕はその方法をなんとなく想像できるけど、大人が先回りして「こうすればいいんだよ」と教えるのではなく、子どもたちからアイデアが出るのを待ちながら一緒に話し合いに参加する。そしたら、やっぱり誰か知っているんです。「卸しの駄菓子屋さんがあるよ」と一人が言い出すと「マジで!? 調べよう、調べよう!」って。
―子どもたちからそんな情報が出てくるんですか!
山内
出ます、全然出ます。それを僕は信じている。変に大人が先回りして「こうだよね」と言わなくてもいいことがきっとたくさんあるはずで、言わないほうが本当におもしろいことになったりもします。
―でも、子どもたちだけに任せると「そっちに行ったら良くないことが起こる」という方向へ進むことはないですか?
山内
そのとき、僕は「嫌だ」って言いますから。
―同じ目線に立って「嫌だ」と言う。
山内
指導者じゃないから「ダメ」という言い方じゃないです。同じメンバーとして「嫌だ」って言う(笑)。だから、大人と打ち合わせしているのと一緒。みんな、子どもと対峙すると「教えてあげなきゃ」「保護してあげなきゃ」と思っちゃうけど、僕はその関係性を壊したいと思っているので。
子ども“が”本屋や駄菓子屋をつくると、主体は子どもで指導者は大人になります。だけど、子ども“と”お店をつくる場合は、「大人だって主体なんだ」というところがすごく大事になってくるんです。
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「あれをやってみたい!」という気持ちはどう生まれるのか?
―VIVISTOP NITOBEには、個性的な椅子がたくさんあります。これらは子どもたちがつくったそうですね。
よく「子どもたちがこんな椅子をつくるなんてすごいですね」と言われるけど、そのたびに「違うんですよ〜」と答えています(笑)。このクオリティは子どもだけでは出せないけど、大人からこんなアイデアは出てこない。一緒にやるから、こんなおもしろい椅子ができるんです。
僕もこの場に椅子は欲しかったし、それは子どもたちも一緒。見ている方向が一緒だからチームになれるんです。僕がやらせているわけでも、子どものために良い教育をしようと思っているわけでもないです。
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「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」にて、新渡戸文化小学校の5年生が制作した椅子が、実際にVIVISTOP NITOBE内で使用されている(画像提供:VIVISTOP NITOBE)
―VIVISTOP NITOBEがスタートした頃には、フロア内は椅子がない未完成な状態だったとか。
大人が最初に全部揃えたら、提供する形になっちゃうじゃないですか? そうではなく、この場所を一緒につくっていきたいんです。だから椅子も机もないという状況にして、お互いが不便みたいな(笑)。そこから「つくるか?」「つくろう」となるのはすごく自然なことですよね。「なんで、全部大人が決めちゃうの?」って思うんです。
教育だとしょうがない部分もあるんですよ。到達目標を決め、評価しなければいけない。でも、極論を言うと僕はここで教育をしていないんです。
―山内さんは教育をしていない!?
よくここへ来る子に「なんでこの場所を気に入ったの?」って聞くと、「ワークショップが嫌いだから」って言うんです。僕はワークショップが好きなので残念なのですが、最近のワークショップで多いのはあらかじめ手順が決まっていて「これをつくろう」みたいな構成にしているところも少なくありません。そうするといい感じの物づくりにはなりますが、短時間でいい感じにするためには段階的で効率的なものにせざるを得ないんです。それを「嫌い」と言う子が、この場所にはよく来ています。「もっと自由にさせてくれ」って。
だから、ここでは別に具体的なスキルを子どもに授けたいわけではないんです。スキルを獲得するなら講座をやったほうがいいけど、そういう場にはしたくない。じゃあ、なにをするか? ここはマインドセットやコミュニケーションを大事にする場所であってほしい。
なので、「人が集まる」「交流を持てる」「居心地がいい」という環境に意識が向いています。そういう場じゃないと、「あれをやってみたい!」という気持ちやおもしろいアイデアは生まれてこないので。
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取材中、服飾の制作をしているという新渡戸文化中学校の生徒がやってきた。近況について談笑する山内さんとクルーの竹山さん
―「あれをやってみたい!」という気持ちがどのように生まれるのか、具体的に教えていただけますか?
去年の夏、ある中学生が虫を捕まえてきたんです。で、その虫が快適でいられるように木の枝を集めて机の上に置いていたんですね。そしたら、隣の子がその枝を削り始めた。単純に、削る行為がおもしろかったみたいです。すると、削っていた子が「この枝、削るとめっちゃいい匂いする」と言い出し、今度は枝を削って匂いを嗅ぐことが流行りだしました。
そうこうしているうちに「火で燻したら、もっといい匂いが出るんじゃない?」という意見が出てきて、子どもたちが「ねえ、コンロない?」と僕に聞いてきた。「あるよ。じゃあ、外で燻すか」ということになったけど、火気を使うから外に削った木を運ばなければならない。
「なにかお皿ないかな?」と言ったら、「これを割ってお皿にすればいい」と竹を見つけてきた子がいました。そこから、子どもたちが「もっと竹ない?」と聞いてきたので「あるよ」と長い竹を渡したら、別の子が「これで流しそうめんをやりたい!」と言い始めた。
―ハハハハ、急に(笑)。
そしたら、それを聞いた高校生が「俺もやりたい」と加わってきて、翌週に「流しそうめんをつくる」に共感した中高生の小さなコミュニティが生まれました。それで、みんなで竹の節を削っていたら、今度は高校生が「竹加工、おもしろい」と竹で刀づくりを始め、竹に興味が向き、今度は放置竹林の問題に取り組む「竹プロジェクト」になっちゃったんです。
―虫がいなくなっちゃいましたね。
で、今はあそこに飾ってある竹灯りとか竹製のペーパーナイフやピアスづくりが展開されています。ここは、そういうことが生まれる場所なんです。
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竹プロジェクトでうまれた竹灯り
―すごいですね。虫からまったく別のものづくりが始まってしまいました。
やっていることがオープンだと「あれ、いいな」とやってみたくなり、うごめいていく。人との出会いが偶発と共創を起こすんです。
思いつきを口にしやすくするための空間づくり
―あのドームもすごいですね。
あれは以前、知り合いのデザイナーに紹介してもらったことがあったんです。その後、インスタレーション(空間全体を作品として表現する芸術)をやりたい高校生と出会って。「じゃあ、おもしろそうだからこのドームを使って展示するか」と、買ってつくりました。
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―子どもたちから「あれに興味がある」と言われたら「あるよ」とツールを用意できるのは素晴らしいと思います。
それが、ここでの僕の役割です。子どもたちの興味や思いつきに対し、ある物は「ある」、ない物は「ない」と言う。欲しければ、どこに行けばゲットできるかを考える。とにかく、思いついたことは1回やってみる。まず、動いてみるということが大事なのかなあと。
―「流しそうめんやりたい」など思いついたアイデアを言い出しやすいように、空間づくりで意識していることはありますか?
つくったものや工具をすべてオープンにし、子どもたちが「これ、なに?」と聞いてくれれば、そこで僕と会話できますよね。だから、「隠さない」ということは意識しています。実際、ここにはつくりかけのものがいっぱいあるし、ものづくりのプロセスを感じてもらいたいんです。
―こんなふうに置いてあると「なにこれ?」「こういうのがつくれるんだ」と、みんな勝手に気付けますよね。
そう! プロセスが見えていると勝手に気付けるし、気付いてアクションを起こせば誰かとの共創が生まれるかもしれない。そういう願いを込めて、僕はこの場所を楽しんでいます。
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活動と活動がジョイントし、新たなものが生まれる可能性
―VIVISTOP NITOBEは、広いワンフロアの空間が活用されていますよね。
ここは3.5教室分くらいの広さがあるので、最初は空間をパーテーションで区分けして2つの授業を同時展開していたんです。でも、パーテーションで区切ると隣の授業が気になるし、声の張り合いにもなってしまった。でも、パーテーションを外したら「今からしゃべるよ」「向こうが説明し始めたから静かにしよう」と、お互いが気を遣えるようになりました。
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(画像提供:VIVISTOP NITOBE)
―声の張り合いどころか、意思疎通ができるようになったと。
僕が期待しているのは、この場全体で単一の取り組みをしているのではなく、複数の活動が同時に展開され、それが交わることです。たとえば分かりやすく学校の授業を例にすると、奥で小学生が図工の授業を、その隣で高校生が情報の授業を行っていたとします。すると、小学生が「なにやってんの?」と高校生の活動を見たり、高校生も小学生の活動を見て「この子たちのアイデア、すごいな」と言ったりする。そういう関係性をここではあえてつくりたいと思っています。
―小学生たちが「お兄ちゃんお姉ちゃんたちがやってるあれ、おもしろそう」と反応し、活動が思わぬ方向に跳ねるかもしれません。
高校生も小学生のインスピレーションに影響されるので、逆も然りですよね。そんなふうに新たなものが生まれる可能性は取っておきたい。
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―パーテーションを外したことで、共創する可能性が高まったと。空間の広さも重要ですよね。
そういえば、オープンデーでおもしろい気づきがありました。中学1年のメンバーがお母さんと一緒にここへ来たのですが、その子はもしかしたら母親についてきてほしくない年頃なのかもしれません。だから、別々で工作をしていた。
その状況でなにが起きるかというと、お母さんのほうは自分の工作をしつつ、娘が親元から離れてものづくりしている姿を遠くからほほえましく見ているんです。でも、娘は親の目から離れて「自由にできている!」と思っている。
娘を遠巻きに見守る母と自由を謳歌する娘が共存する環境は、この広さだから実現しました。広さはすごく大事だと思います。
ここで過ごした子どもたちが同じ場所を立ち上げる未来
―VIVISTOP NITOBEの今後の目標はありますか?
今、「VIVISTOP NITOBEのような場所をつくりたい」と言ってくれる行政や民間企業はすごく多いんですね。でも、そこでつまずいてしまうのが「人がいない」という問題です。
でも、VIVISTOP NITOBEを活用し、高校卒業後にアルバイトとして手伝ってくれている子たちは、ここがどういう場所なのかよく理解している。ということは、別の機関がこういう場所を立ち上げようとしたとき、その子たちは率先して場所づくりが進められる人材になっているはずです。クリエイティブ環境の人材育成がVIVISTOP NITOBEでできるとしたら、それは素敵なことですよね。
―「VIVISTOP NITOBEのような場所をつくりたい」という動きが増えているのですか?
学校の統廃合や建物の老朽化の都合で、学校の建て替えを計画しているところは少なくありません。文部科学省もこれからの学校のあり方において共創空間の必要性を示しています。また地域にも「多世代が集う居場所づくり」が求められています。そういう関係者の多くがここを視察されては、「VIVISTOP NITOBEのような空間が学校に、地域に、あるべきだ!」とおっしゃってくれます。でも、どこも人材がネックになっている。ここで一緒に過ごすことで同じ感覚が共有できるならば、VIVISTOP NITOBEはすごく希望の持てる場所になると思います。
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山内佑輔
新渡戸文化学園 VIVISTOP NITOBEチーフクルー
大学職員、公立小学校の図工専科教員を経て2020年4月から新渡戸文化学園へ着任、VIVISTOP NITOBEの立ち上げと運営を担当。2021年VIVISTOPでの取り組みで、キッズデザイン賞の最優秀賞である内閣総理大臣賞を受賞。
Instagram(VIVISTOP NITOBE):https://www.instagram.com/vivistop_nitobe/
HP(VIVISTOP NITOBE):https://www.nitobebunka.ac.jp/vivistop/
ライター:寺西ジャジューカ 撮影:塩川雄也 編集:モリヤワオン(ノオト)
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