花屋という「場」が生む、新たな出会いの輪。心地のよいコミュニケーションの中で―羽根木・malta
人が集まる場のヒミツ

花屋という「場」が生む、新たな出会いの輪。心地のよいコミュニケーションの中で―羽根木・malta

#コミュニティ #仕事・働き方

人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。


第4回で取り上げるのは、東京・羽根木を拠点とする花と緑のアトリエ「malta(マルタ)」。京王井の頭線・新代田駅から徒歩約4分、表通りからは奥まった閑静な住宅街という立地ながら、ナチュラルで温かみのある世界観に魅せられたお客さんで日々賑わいを見せています。また、近隣のお店を巻き込んでのマルシェの開催など、街に根ざした活動も盛んで、地域コミュニティのハブとしての顔も。しかし、オーナーの布山瞳さんによれば、オープン当初は店舗営業にまったく重きを置いていなかったとか。そんなスタンスが変化していったきっかけや、malta流の心地よいコミュニケーションの在り方、「お店」という場の持つさまざまな可能性についてお話をうかがいました。

「好きなもの」「できること」を見てもらうために

布山さんは2010年にフローリストとして独立され、当初はご自宅をアトリエとして活動されてきたそうですね。2017年に、実店舗「malta」を開店した理由は何だったのでしょうか?

布山

以前は、ショップディスプレイを手がけたり、ファッションショーやウェディング会場などをお花や緑で装飾したりする会社で働いていました。独立後は、私の自宅でスタッフ数名と同様の仕事をしていたのですが、案件が少しずつ増えてきてキャパ的に収まらなくなってしまったんです。加えて、独立した年に出産したんですが子どもも大きくなってきたので、生活と仕事をひとところにまとめるのはそろそろ限界だなって。

手狭になった仕事場を広げるためという事情があったのですね。

布山

同時に、お家にこもっていると出会える方が限られてしまうことも少し気にかかっていました。仕事は知り合いからの紹介だったり、そこからつなげてもらって、みたいなケースがほとんどで、特に営業に行って新規開拓したりしていたわけではないので。これからのことを考えたとき、自分たちがどういうものを好きで、どんなものをお客さまに提供できるのかを、必要以上に語らずとも、ただ「見て」いただくだけで伝えられるような場所があってもいいのでは、と思い至ったんです。

「malta」店主・布山瞳さん

立地に、世田谷・羽根木の閑静な住宅街を選んだ理由は何だったのでしょうか?

布山

このお店、じつは私の自宅の近所なんですよ(笑)。お散歩をしているときに偶然この物件を見つけて、「あ、ここいいんじゃないかな」って。このあたりは、周辺と比べても特に緑が深くて、通りの雰囲気が好みだったんです。お店ではお花や緑を扱うので、外の自然とシームレスにつながっている感じが出せるのもいいな、って。建物のまわりに土の部分がしっかり残っていて、雨の日はちょっとぬかるむこともあるのですが、自然のなかで自由に遊んでいた幼少期の記憶が呼び覚まされる感覚もあって、自分の性に合っていたんだと思います。

購入は一輪からでも。雑貨屋巡り感覚で楽しめる花屋として

—お店づくりでこだわったポイントを教えてください。

布山

私はその時々の流行りを追うより、もっと長い目で見て、自分の「好き」であったり、「これは本物だな」と感じたりするものを大事にしたいと常々思っています。つまり、「これは売れるだろうから」というような商業的な理由から無理して流行に合わせるのはなく、自分が傍に置いていて心地よいと感じるもの、自分が自然体でいられるようなものをお店には並べたいと考えました。

—扱っているお花や緑を拝見すると、落ち着いたシックな色味のものが多く、布山さんの「好きな感じ」がお店全体から伝わってきます。どのようなお客さまがいらっしゃいますか?

布山

ご近所にお住まいの方や、近隣でお仕事されている方が多いですね。でも、店のことを調べて遠方から来てくださる方も少なくありません。お洒落な若い方から素敵なご年配の方まで、年齢層も幅広いです。

お客さまは、お店のなかでどのように過ごされていますか?

布山

パッと入って、パッと買って帰られる方よりは、ゆっくりと店内をご覧になられる方が多い気がします。花や緑を選ぶことを楽しんでいらっしゃる、といいますか。なかには、ご自宅の部屋の写真を持参されて、「この雰囲気に合うお花を見繕ってもらえますか?」というようなご依頼もあります。


お花というと、女性のお客さまが多い印象を持たれる方もいるかもしれませんが、うちはけっこう男性の方も多いですね。置いてある花にそれほど甘さがないので、雰囲気的に入りやすいのかもしれません。例えば、インテリア好きの男性のお客さまから、「一輪差しを買ったので、このデザインに合う花を1本ください」なんて注文をいただいたこともありました。


最近では、お散歩のついでとか、街歩きのコースに花屋を組み込んでくださる方も少なくありません。わざわざうちのことを調べて来てくださる方のなかには、カフェ巡りや雑貨屋巡り感覚で、花屋をハシゴされている方もいらっしゃいます。お花の楽しみ方も、多様になってきているのかもしれませんね。

「外仕事>店舗営業」からの転身と、コロナ禍で知ったコミュニケーションの大事さ

お店に、老若男女さまざまなお客さまが集まる理由は何だと思いますか?

布山

あまり積極的にガンガンいくような接客をしないところ、かもしれないですね(笑)。私を含めてフローリストというのは基本的に裏方気質なので、アレンジメントしたお花を評価してもらえるのは嬉しいですが、自身が派手なスポットライトを浴びるのは苦手というタイプが多いんです。その塩梅が、もしかしたらお客さまにとっての「居心地のよさ」につながっているのかもしれません。


……と、いまでこそmaltaらしいコミュニケーションみたいな自己分析ができるようになっていますが、じつはオープン当初は、店舗営業に重きを置いていなかったんです。

ショップディスプレイをはじめ、外でのお仕事が中心だったわけですね?

布山

はい。最初の頃はアトリエ——つまり、私たちの作業場としての意味合いが大きかったこともあり、外での仕事があるとスタッフ総出で店を空けてしまっていました。当然、そのあいだはクローズにしていて。

では、現在の営業スタイルになったきっかけは何だったのでしょうか?

布山

新型コロナウイルスの影響が大きかったですね。イベントなどの自粛が続いた関係で、外での仕事が激減してしまって。でもそのおかげで、初めて店と向き合うことができました。感染を心配してお店のなかに入りたくないお客さまのために、「お散歩セット」というお得なお花のパックをつくって外売りしたり、ご近所さまには対面ナシでお届けする配送サービスを始めたり。

コロナ禍も工夫を凝らして、お客さまに花を届けていたんですね。

布山

あの鬱々とした自粛ムードのなかで、「花を選ぶ」という行為が皆さんにとって少なからず気分転換になったようで、たくさんのご注文をいただきました。配達の際、扉越しにちょっとお話ししたり、温かい気持ちのこもったお手紙をいただいたり……あの日々は、私自身がコミュニケーションの大事さを身をもって知ると同時に、自分の足場であるところの「店」を見直す大きなターニングポイントだったように思います。

maltaの店舗を、自然と人とつながれる「場」に

―maltaが「お店」として機能するようになって以降、布山さんのお仕事にはどのような変化が生まれましたか?

布山

本当にたくさんの出会いがあり、そこから新しい仕事が日々生まれ続けています。お店でお花を買ってくれたお客さまが常連になってくださって、さらに「今度、結婚式があるので、会場の飾りつけをお願いできますか?」とご依頼いただくことも多くあります。

布山

また、このエリアにはお洋服のデザイナーさんがたくさん事務所を構えていらっしゃるのですが、「展示会会場に飾っているお花がちょっと悪くなってしまったから、直してもらえませんか?」とご相談にいらっしゃったのをきっかけにおつき合いが始まり、以降の展示会でうちにお花を頼んでくださったり、お家用にもお花をお求めいただいたりするようになって。


お話をうかがっていると、お洋服をつくるうえで、お花や植物がインスピレーションの源になることもすごく多いそうです。こうした出会いがきっかけとなり、ご紹介したいアーティストさんやお店のポップアップストアをmaltaの店内で開催するなど、新しい試みも始まりました。

―店内では、さまざまなワークショップも開催されているそうですね。

布山

最初の月に陶芸の先生をお招きして花瓶をつくり、次の月には焼き上がった花瓶にお花を生ける、という内容のものや、フォトグラファーの方と一緒に、お花を生けて写真に撮るまでをセットにしたワークショップなどが人気です。最近では、捨てるお花の堆肥化をアートとして楽しんでもらうフラワーコンポストの企画をスタートさせたところです。こうした試みが、また新たな出会いの循環を生んでいるのも、maltaという「場」があるからこそだな、と日々実感しています。

フラワーコンポスト

スケールよりも深化を。地域に根差しながら「本質」を追求する

maltaが初回から参加している「羽根木マルシェ」も人気を集めているそうですが、これはどんな試みなのでしょうか?

布山

やはり、きっかけはコロナでした。時間もあるし何かやりたいと思い、私を含むご近所さん4人でスタートさせたのが「羽根木マルシェ」です。maltaの店舗の大家さんで、この一帯の地主さんでもある方にご相談したら、空き物件やスペースをその日限りで開放してくださったんです。


初めの年はコロナ禍だったので、フードのお店はほとんど出せませんでしたが、本屋さん、インテリアショップ、古着屋さん、ジュエリーブランド、画廊など羽根木を中心としたエリアにゆかりのあるお店が揃いました。この街らしく大人っぽい雰囲気のある、素敵なイベントになったように思います。マルシェはその後も続けていて、これまで4回開催してきましたが、ありがたいことにいまだに大盛況です。このまま、地元の恒例イベントとして定着していったら嬉しいですね。

羽根木マルシェの様子 ©︎chihiro ishino

お店、および地域に目を向けたことで、布山さんのなかでどんな変化がありましたか?

布山

もともと、そこまで人づき合いに積極的なタイプではなかったのですが、maltaという「場」を介すことで、人と自然に、無理せずつながれるようになった気がします。そして、私が無理をしていないからこそ、お客さまも立ち寄りやすく、気楽に声をかけやすい雰囲気が生まれているのかもしれません。

これからもmaltaは、地域の方々、そしてこの空間に心地よさを感じる人たちに愛されていくと思いますが、未来に向けて新たに考えていることなどはありますか?

布山

店の規模を大きくしたくはないな、とは思っています。私自身が完全にプレイヤー気質なので、経営を頑張って2店目、3店目を……みたいな野心を抱くこともないですし、それよりは自分の目の届く範囲をしっかりと見ていきたい。むやみに広くいろいろなことに手を出すよりも、自分のやりたいことに集中して、仕事の中身をより濃ゆく深化させていきたいです。ただ、未来のこととして、いまから楽しみにしていることがひとつあります。


最近、ちょっとずつ陶芸を習っているんです。流行に左右されず、自分の考える「本質的なもの」を掘り下げていくうえで、「土」という、あらゆる生命の根幹に触れることも大きな学びになるはず。いずれ、陶芸の腕を磨いて、自分のつくった花瓶に自分で選んだお花を飾れたら嬉しいですね。

PROFILE
川村健一

布山 瞳(ふやま ひとみ)

「malta」店主

店舗運営、結婚式や店舗装飾、広告撮影、インテリアコーディネートなど幅広く活動する。四季の移ろい、自然が持つ生命の強さと優しさ。花と緑から感じとる季節の美しさ、そこから生まれる余白を大切に、花とグリーンのある暮らしを提案している。


ウェブサイト:https://maison-malta.com/

CREDIT

ライター:辻本力 撮影:タケシタトモヒロ 編集:岩見旦(CINRA.Inc,)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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