ハプニングの可能性を育む。「洗濯機のある喫茶店」が目指す理想の公共空間―森下両国・喫茶ランドリー
人が集まる場のヒミツ

ハプニングの可能性を育む。「洗濯機のある喫茶店」が目指す理想の公共空間―森下両国・喫茶ランドリー

#コミュニティ #仕事・働き方

人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 連載企画「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントや、その背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々から、「愛される場所」の秘密を紐解きます。


第3回で取り上げるのは、東京都墨田区千歳にある「喫茶ランドリー」。もともとは築60年を超えた工場だったビルの1階部分をリノベーションし、2018年にランドリー機能を備えたカフェとしてオープンした人気のお店です。オーナーの田中元子さんは、独学で建築を学び、現在は株式会社グランドレベルの代表取締役として、空間やまちづくり、コミュニティデザインブランディングを手がけています。


田中さんが喫茶ランドリーにおいて大切にしているのが、「私設公民館」というコンセプト。老若男女が自由に過ごせる居心地のいい空間は、どのようにしてつくられているのでしょうか? お話をうかがうと、新しい場づくりへのチャレンジ精神と、身のまわりの社会課題を解決したいという熱意に溢れていました。

コペンハーゲンのランドリーカフェから受けた衝撃

喫茶ランドリーはコインランドリーにカフェ機能を加えた「ランドリーカフェ」という形態だそうですが、なぜこのようなコンセプトにしたのですか?

田中

私が「ランドリーカフェ」というコンセプトに出合ったのは、2016年、デンマークのコペンハーゲンを旅行したときでした。一見するとカフェなのですが奥のスペースには数台の洗濯機がさりげなく置いてあって、お茶を飲みにきた人もいれば、洗濯をしにふらっと立ち寄る人もいる。幅広い年代かつ、さまざまなライフスタイルを送っている人たちがひとつの空間に居合わせているのを見て、「いいな」と思ったんですよね。店内の掲示板には近くで開催されるイベントの情報が貼り出されていて、近隣の住人が情報交換をしている様子も見てとれました。


おそらくこれは、コペンハーゲンではなんてことはない、あたり前の風景なのでしょう。私はその様子を素敵だと感じると同時に、そう感じること自体が日本特有のものかもしれないとも思ったんです。

喫茶ランドリーオーナーの田中元子さん。日本にいると「どうしてそんなファッションをしているんですか?」とよく聞かれるそう。「ただ好きな服を着ているだけなのにね。海外では、見た目で人の印象を決められることはあまりないので、そういった環境の自由さをひしひしと感じます」とのこと

「素敵」と思うことに違和感を持った、ということでしょうか。

田中

もともと私は、日本におけるパブリックスペースのあり方にずっと疑問を持っていました。例えば「公園」ひとつとってもそう。TVコマーシャルなどで描かれる公園は、笑顔の家族連れが青々とした芝生で戯れているイメージだけど、実際の公園はもっと多様な人が利用していますよね。また、公共の施設であるはずの「公民館」も、誰もが気軽に利用できる場であるかといえば、そうはなっていないと思います。


どんな人も訪れていいし、何も気にせず自由に過ごせる公共の場って、じつは日本にあまりないんじゃないか。そう考えたときに、コペンハーゲンで訪れたランドリーカフェのような場をつくることが必要ではないかと思い至りました。それが、「喫茶ランドリー」。自分では「私設公民館をつくる」くらいの意気込みがありました。

喫茶ランドリー。外から店内の様子がよくわかるよう、道に面した既存の壁を取り払い広くガラス張りの設計にしたそう

違う経験、価値観で生きる人たちが、同じ感覚を共有できる場所でありたい

—誰もが気軽に立ち寄れる場所をつくりたいと思って喫茶ランドリーを立ち上げたのですね。もともと飲食店で働いた経験はあったんですか?

田中

飲食店なんて初めての経験でした。最初は自分ですべてやらなきゃと思っていたから、料理もできないのにホットドックをつくってお客さんに提供して、その中途半端な出来に呆れられたこともありましたね(笑)。様子を見かねたお客さんが知人を紹介してくれたりして、徐々に喫茶ランドリーで一緒に働いてくれるスタッフが増えていきました。

喫茶ランドリー第一号スタッフのさおりさん。元子さん曰く、「現場で一番リアルなものを見ていて、誰よりもこの空間とお客さんのことを知っている裏番長的存在です(笑)」

誰もが気軽に訪れられる「私設公民館」であるために、どのようなことを意識していますか?

田中

「あなたを迎え入れたい」という姿勢をすごく大切にしています。例えば、お店づくりを始めた当時、この地域には若い母親たちが多いことに気づきました。彼女たちの話を聞いてみてわかったのが、この辺りにはパートナーの仕事の都合で引っ越してきたご夫婦がそれなりに多いこと。

店外には、お店を利用しない人も座れるベンチが設置されている

田中

彼女たちは、友人や知り合いが少ないなかで、子育てに時間を取られて外にゆっくり出かけるのも難しいし、地域の人と接する機会も多くない。そのような状況が続いていると、精神的に辛いんじゃないかなって思ったんです。


子どもを持つ若い母親たちが落ち着ける場所ってどんな場所だろうと考えて、大きなテーブルを設置し、編み物や裁縫に必要な道具を置きました。そこに裁縫やものづくりが得意な人が来てくれたら、ワークショップを開いてもらったりして、交流のきっかけがつくれるんじゃないかと考えました。


その大きなテーブルでは、お仕事をされている方や学生さんが仕事や勉強をしてもらってもいいし、本を読むために使ってもいい。みんなが違う経験、価値観で生きているけど、ほっとする感覚を共有できる場所を、手探りでつくっています。

古着を販売するスペースがあったり、自由に読める本がところどころに置かれたりしている

スキル、スペック、ノウハウじゃない。大切なのは、記号化された店員にならないこと

開かれた場所であるためには、お客さんとの距離感も重要だと思います。接客で意識していることはありますか?

田中

マニュアルをつくらないことですね。いっしょに働く仲間を採用するときも、自分なりの方法で自由に接客してほしいと言っています。忙しくて手が回らないときがあったら、お客さんに素直に伝えてもいいと私は思っています。そこから生まれる交流も、きっとあるでしょうから。


いつでも同じメニューや同じ挨拶、同じ雰囲気で安定してサービスを提供するお店はほかにもあります。ルールに縛られずのびのびと働いている様子は、お客さんの目にも気持ちよく映るだろうし、スタッフ自身の幸せにもつながっているんじゃないかな。

喫茶ランドリーは森下の本店以外に2店舗ありますよね。多店舗展開をするうえでは「私設公民館」のコンセプトを浸透させていくことは、難しい部分もあるのではないでしょうか?

田中

直営のお店と、私たちがプロデュースしたお店が全国にいくつかあります。どのプロジェクトでも、現場に立つ人にはまずは本店に来ていただいています。いい意味で「こんな感じでいいのか」と実感してほしいんですね。大事なのはスキルやスペック、ノウハウではなく、好きなことを楽しくやっているということがお客さんに伝わること。それを、喫茶ランドリーで働く人には理解してもらって、自分が「店員」という記号化された人間ではないと自覚した状態で店に立つことが大事だと考えています。

持ち込み企画は断らない。思いもよらないハプニングを楽しむ

―イベント開催にも力を入れているとうかがいました。

田中

まず開店当時は、自分たちではイベントごとをあえて企画しないことにしました。その代わり、喫茶ランドリーはオープンな場所なので、お客さんからの持ち込み企画を大切にしています。開業してから5年経った今日に至るまで、さまざまな方がひっきりなしにイベントやいろいろな使い方を提案してくれています。基本的に、どんな企画も受け入れる姿勢です。

―これまでに印象に残っているイベントは何ですか?

田中

VTuberのイベントですね。洗濯洗剤のタイアップ企画として店内に大きなモニターを設置して、そこに映し出されたVTuberとコミュニケーションできるというイベントでした。当時、私はVTuberのカルチャーをまったく知らなくて、仕組みからしてわからなかったので、断ろうとしたんです。


でも、企画を持ち込んだ方の熱量に負けて、「わかんないけど、やってみるか!」と。いざフタを開けてみると、これがおもしろくて。VTuberが店内の洗濯機の近くにいるお客さんに「あなたの服におうから、洗っていってね」と語りかけるんですが、お客さんが洗濯機に服を入れてキャラクターと楽しそうにお喋りしている様子を見て、私も嬉しくなりました。

洗濯洗剤のイベントの様子。VTuber「月ノ美兎」が洗濯機になった「MOE-T WASHER MK-1」を体験するために、たくさんの人たちが集まった(写真提供:グランドレベル)

―違う経験、価値観の人たちが楽しさや嬉しさを共有する。先ほどの話ともつながりますね。

田中

最近では、お客さんでもあるミュージシャンの方がライブを開催してくれることもあります。ライブには、お子さんを連れた大人たちもいて。こうやって、私ひとりでは思いもよらなかったことが自然に発生するのがとても面白いなと感じます。

ワークショップ、トークショー、マーケット、アート展など、これまで喫茶ランドリーを舞台に行われた数々のイベント(写真提供:喫茶ランドリー)

お客さん同士の出会い 、満員御礼のイベント。偶然が生まれる可能性を最大にする

喫茶ランドリーが幅広い層のお客さんで賑わうようになった要因として、何が大きかったと思いますか?

田中

成功の青写真を描かなかったことかな。こういう人に来てほしいとか、そこで何が起きてほしいとか、地域を活性化するためにこういう仕掛けをしよう、とか。そんなビジョンを私が描いていたら、いまの姿にはなっていなかっただろうなって思います。いろいろな人たちの脳内を具体的に表現できたからこそ、「どんな人が来てもいい場所」と認識してもらえるようになったのでしょう。何より私自身、ずっと楽しくお店を続けられています。毎日、「こんなことが起きちゃうの?」という驚きにあふれているんですよ。

ただ賑わうのではなく、お客さん同士がつながることもありますか?

田中

ありますよ。たとえば、マリンバ奏者が出演するイベントに通りがかったスチールパン奏者が加わって、即興でセッションをしたことがあったのですが、その後、意気投合して一緒に活動するようになったんだとか。お客さん同士で仲良くなって、結婚したカップルもいます。

機能、雰囲気、コミュニケーションのかけ合わせ。それによって喫茶ランドリーに賑わいと人と人とのつながり、そしてハプニングが生まれているんですね。

田中

まさにそう! 喫茶ランドリー以外にも、私たちグランドレベルがプロデュースするお店ではハプニングが生まれています。


例えば、埼玉のパル・オネストという調剤薬局を展開する企業とつくった、カフェ併設のお店。パル・オネストからの依頼は、地域に密着したカフェをやりたいという内容で、当初、担当の方は「ハワイアンな空間」というコンセプトにこだわっていました。でも、調剤薬局はいろんな方がいらっしゃる空間。誰もがくつろげるような小上がりをつくるなど、落ち着ける雰囲気の内装を提案したんです。


実際にオープンしてみたら、老若男女さまざまな方がいらしてくれて。いまでは演歌のライブを定期開催することもあるんですよ。本当に面白い場所になったと思います。

調剤薬局にカフェを併設した「パル・カフェ」(写真提供:グランドレベル)

田中

私自身が予定や計画を立てるのがすごく苦手だからというわけではないですが、ハプニングの可能性を育てたいと思っています。いまの時代はシステム化、テクノロジー化が進んでいて、予期せぬ何かに飢えている人が多いのではないでしょうか。偶然は意図して起こすことはできません。だからこそ、お店や場所をつくるとき、それが生まれる可能性を最大限に引き上げる努力をしたいと思っています。

最後に、今後喫茶ランドリーで起こり得そうなハプニングの可能性を教えてください。

田中

じつは最近までスナックのアルバイトをしていたのですが、そのお店が閉店するにあたり、70歳を超えたマスターも引退することになりました。そこで、私が「うち(喫茶ランドリー)で働きなよ」って誘ったら、快諾してくれて。喫茶ランドリーの3店舗には計14名のスタッフがいるんですが、全員女性なんですね。お店にとって「おじいちゃんが働く」のって、いいチャレンジだと思っています。これを機会にどんな変化が起きるのか、いまからワクワクしていますね。

PROFILE
川村健一

田中 元子(たなかもとこ)

株式会社グランドレベル代表取締役

1975年茨城県生まれ。2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーに、株式会社グランドレベルを設立。さまざまな施設や空間、まちづくりのコンサルティングやプロデュースを手がける。2018年「喫茶ランドリー」開業。2019年「JAPAN/TOKYO BENCH PROJECT」始動。主な著書に『1階革命 』(晶文社)、『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社)ほか。主な受賞に「2018年度グッドデザイン特別賞 グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞」ほか。


Twitter:https://twitter.com/hanamotoko

Instagram:https://www.instagram.com/hanamotoko/

ウェブサイト:https://glevel.jp/

CREDIT

取材・構成:加藤将太 撮影:タケシタトモヒロ 編集:服部桃子(CINRA,inc)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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