親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
仕事や趣味などに気兼ねなく取り組むことができるその人だけの空間、ワークスペース。持ち主の考え方や行動様式が、色濃く反映される場所でもあります。
「ワークスペースの美学」は、自分自身の心地よいライフスタイルを実践している方にご登場いただき、そこに至った経緯や魅力、結果として得られたものなどについて伺うインタビュー連載です。
3回目のゲストは、色鉛筆画家の安部祐一朗さん。「生物」と「宝石」を融合した独特の作風で、大きな注目を集める21歳のアーティストです。15歳のときから毎日のように絵を描き続けてきた安部さん。いまでも1日15時間は机に向かうといいます。それだけに、ストレスなく作業できる環境づくりはマスト。最近では天板の上下昇降&傾斜機能付きデスク「REGAS(リーガス)」を導入するなど、投資を惜しまず在宅ワークの最適解を模索し続けているのだとか。安部さんの仕事部屋を訪れ、そのこだわりやリーガスの使い心地についてうかがいました。
自分にしか描けない絵を模索し、たどり着いた作風
—安部さんといえば、「生物」と「宝石」をかけ合わせた作風で知られています。なぜ、この2つのモチーフで描こうと思ったのでしょうか?
絵を描き始めたのは中学生の頃です。当時から練習として生物の絵をよく描いていました。上達していくにつれ、作品にオリジナリティーを出したいと考えたときに選んだモチーフが宝石。もともと宝石も生物も好きでしたし、この2つを組み合わせたら、ぼくにしか描けない作風を確立できるのではないかと思ったんです。
安部さんの作品
—実際、安部さんの絵はいまにも動き出しそうな生物の生命力と、宝石の無機質な美しさが見事に融合しています。
ありがとうございます。ただ、構図やモチーフを決めるのは未だに難しくて、どの生物と宝石をどう組み合わせるか、いつも悩んでいます。机の上で考えるよりも、動物園や水族館で生き物を眺めているときなんかに思いつくことが多いかもしれません。だから、週2日くらいは絵を描かない日を設けるようにして、なるべく外へ出かけるようにしています。そういう時間もないと、なかなかアイデアが湧いてこないので。
—現在、作家としてどのようなお仕事を手がけられているのですか?
個展用の絵など自分の作品以外に、最近は企業からイラスト制作のオファーをいただくことも増えてきました。例えば、ジュエリーブランドからのご依頼で宝石と猫を融合させた作品を描き下ろしたり、博物館の宝石の特別展示のイラストを描いたり。また、昨年は初めての著書の出版や、「生物×宝石」のカプセルフィギュアが発売されるなど、仕事の幅が広がってきました。自分の絵がカプセルフィギュアで立体化したのを見るのは、なんだか不思議な感覚でしたね。
色鉛筆画家の安部祐一朗さん
1日15時間は机に向かう。絵を描くことが生活の一部に
—絵はご自宅で描かれているのでしょうか?
基本的に在宅ワークです。15歳で絵を描き始めた頃から、ずっと実家の自室で制作しています。去年までは学生でもあったので、特に制作の時間を決めず、思い立ったときに机に向かっていました。でも、いまはこれが完全に仕事になったこともあって、きちんとスケジュールを立てるようになりました。
—では、現在の1日のスケジュールを教えてください。
朝9時くらいに起きて、10分くらいでメールの返信をしてから描き始めます。それからは基本的に、食事以外はぶっ通しで作業をしていますね。だいたい深夜の2時くらいまで机に向かっています。
—つまり、毎日15時間くらいは描いていると。よく集中力が持ちますね。
もちろん、ずっと描いていると集中力が落ちるので、ところどころ休憩は挟んでいます。休憩は15分と時間を決めて、タイマーが鳴ったら必ず作業に戻るようにして。スマホのタイマーを使うと、そのままSNSや動画を見始めてしまって戻れなくなるので、スマートスピーカーに声をかけて時間を測るようにしています。
ただ、絵を描くこと自体は苦ではないので、基本的にはずっと机に向かっていられます。もはや生活の一部になっているというか、ご飯を食べたり、お風呂に入ったりすることと同じような感覚で絵を描いているようなところはありますね。
作業風景
—15歳からずっと描き続けていると、もはや「生活の一部」になってしまうんですね。
そうですね。当時からほとんど遊ぶことなく、毎日のように机に向かっていましたから。あえて絵を描かない日をつくるようになったのも、わりと最近です。
—ちなみに、気分転換になるような趣味はありますか?
学生の頃はそれこそ、絵を描くことがテスト勉強の合間の気分転換になっていました。でも、いまはそれが仕事になってしまったので、別の趣味をつくろうとギターを始めたんです。弟にプレゼントしたアコースティックギターがあるんですけど、彼よりぼくのほうが弾いてますね(笑)。
あと、最近はMIDIパッドコントローラーを買って、適当に音を出して遊んでいます。休憩中にこういうものを触って、絵からパっと離れられる時間をつくることも集中力を保つためには大事なことなのかなと。
「リーガス」で、作品のクオリティーが大きく向上
—ずっと自室で仕事をされているということですが、作業環境にはこだわるほうですか?
こだわりはあるんですけど、じつは作業環境をしっかり整えられるようになったのは去年くらいからです。それまでは学生だったこともあり、単純にお金がなくて。ただ、当時から作業環境でストレスに感じたことは細かくメモに残すようにしていて、作家活動で収入を得られるようになってからそれを一つずつ解消していったという感じですね。
—安部さんのTwitterでも「制作のためには惜しみなく投資したい」と発信されていましたよね。
逆に言うと、そこくらいしか投資するものがなくて。好きな洋服のブランドがあるわけでもなく、あまりお金を使うタイプではないので。でも、画材や作業環境にはできるだけこだわりたい。良い道具を使うこともそうですし、それを置く場所なども定期的に見直して細かく調整しています。
—その投資の一つとして、REGAS(リーガス)を導入したとのこと。そもそもなぜ購入を決めたのですか?
もともと腰を痛めていたこともあって最初は椅子を探していたんですけど、いろいろと調べていくうちに「この机、いいな」って。昇降式で高さも自由に設定できるし、天板の一部だけ角度を変えることができて、とても作業がしやすそうだなと思いました。
それに、1台のデスクの天板が、斜めに傾けられる作業用のスペースと、水平に固定される部分とで分離しているのもよかったです。よく使う色鉛筆やインク、飲み物などを手に取りやすい位置に置けて便利そうだなと。去年の4月に導入したのですが、年間ベストワンの買い物でしたね。
―実際に取り入れてみて、いつもの作業に変化はありましたか?
作品の完成度が明らかに上がりました。高さや角度を簡単に調整できるので、細かいところまでしっかりチェックしながら描けるようになりました。例えば、鉄筆(てっぴつ)という先の尖った道具で紙を掘るような工程があるのですが、これまでは少し作業してはライトで照らしながらどこまで掘ったかチェックする必要があって、かなり面倒だったんです。結局、チェックを怠りがちになって、クオリティーが下がってしまうことがありました。
でも、リーガスを導入してからはライトでいちいち照らさなくても、少し天板の角度を変えるだけでチェックできるので、作業スピードを落とさずクオリティーを高めることができています。
リーガスを使ってみて感じるのは、オカムラさんの製品って、すごく細かい点までユーザーのことを考えてつくられているということ。かゆいところに手が届くというか、そういう細かいこだわりが、使う側にとってはすごくありがたいんですよ。
—ちなみに、リーガスを使い始めてから腰痛は改善しましたか?
めちゃめちゃ改善しました! 猫背の姿勢で長く作業していると腰を痛めてしまいますが、昇降式なので机を高くし、天板を斜めに傾けることで背筋を伸ばしたまま描くことができます。それによって腰の痛みはかなり緩和されましたし、たまに痛みを感じたときには立って作業することもできるので安心ですね。
つねに作業環境を見直し、ストレス要因を一つずつなくしていく
—ほかに、在宅ワークにおける環境づくりで大切にしていることがあれば教えてください。
ちょっとしたストレスを、そのままにしないということですね。例えば、ペン立てひとつにしても、使いたいペンをすぐに取り出せないとストレスになります。あるいは、あまり高さのないゴミ箱だと、鉛筆を削るときに粉が舞い散ったりもする。ちょっとしたことですが、そういう小さなストレスが意外と集中の妨げになったりしますから。
—ストレスを感じたら、すぐに改善することが大事だと。
そうですね。気づいたら改善するのと、定期的に作業環境を見直して、ストレスの原因を探り、明らかにする時間もつくるようにしています。照明の灯りの色や強さとか、道具の並べ方とか、細かいところまでチェックするんです。
そのうえで、その場で改善できることはすぐに改善し、何かしらのアイテムを導入することで解決できるなら、なるべく取り入れるようにしていますね。そうやって、一つひとつストレスの要因をなくしていくのが、在宅ワークではとても大事なことかなと思います。
2002年京都府京都市生まれ。メイクアップアーティストに憧れ、高校入学時に色の濃淡など勉強の一環として、独学で色鉛筆画を描き始める。2018年SNSに投稿した宝石の色鉛筆画が拡散され、それをきっかけにテレビ番組や、メディアから取材を受け注目を集める。2020年「生き物×宝石・鉱物の融合」をテーマに色鉛筆画を描きはじめ、個展やライブドローイングなど学業と両立しながら活動の幅を広げる。2021年「イラストレーションの日記念オリジナルフレーム切手2021」に採用。「Animelo Summer Live 2021 COLORS パンフレットイラスト」を担当。2022年、国立科学博物館「宝石展」コラボレーション作家。著書に『安部祐一朗の色鉛筆画「生物×宝石」の描き方』(グラフィック社)がある。
ライター:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:原祥子 編集:服部桃子(CINRA.Inc,)
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