親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
仕事や趣味などに気兼ねなく取り組むことができるその人だけの空間、ワークスペース。持ち主の考え方や行動様式が、色濃く反映される場所でもあります。
「ワークスペースの美学」は、自分自身の心地よいライフスタイルを実践している方にご登場いただき、そこに至った経緯や魅力、結果として得られたものなどについて伺うインタビュー連載です。
第2回目のゲストは、数多くの世界大会で入賞実績を持つ、競技プログラミングの第一人者・高橋直大さん。現在は、競技プログラミングコンテストの運営や開発を手がける「AtCoder(アットコーダー)」の代表として、業界を牽引する存在です。「ほぼ在宅ワーク」となって久しい高橋さんに、家での仕事を快適にするコツや、長年愛用されているというオカムラ社製品「Cruise & Atlas(クルーズ&アトラス)」との出会いについてうかがいました。
仕事柄、もともとリモートワークと相性が良い。しかし「出社ゼロ」には課題も
—高橋さんの現在のお仕事について教えてください。
プログラマーと経営者の二足のわらじで働いています。プログラマーというのは、コンピューターに対する動作命令を書いていく仕事です。いわゆる、「コードを書く」というやつですね。例えば、コンピューターに膨大な量の計算をさせようというときに、どういうふうに命令すれば計算時間を短縮できるのか、その最適解を考えていくようなイメージです。
一方、自分が経営する「AtCoder」では、競技プログラミングコンテスト(※)の運営や開発を主な仕事としています。ぼくはプログラマーとしてキャリアをスタートさせましたが、近年では経営がメインの仕事になりつつあります。
※さまざまな分野のプログラミング技術を競うコンテスト。コンテストの特性ごとに、学生から社会人まで幅広い年齢の参加者が集い、個人や団体で技術を競い合う

プログラマーと経営者、二つの顔を持つ高橋直大さん
—高橋さんは、ここ3年ほど、ほぼ在宅ワークをされているとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
うちの会社は仕事柄、自分も含めて、もともと在宅ワークをしている人が多かったんです。競技プログラミングコンテストはウェブのサービスなので場所に縛られませんし。
あとは、コンテストを開催するのが大体土曜の21時くらいなので、その時間に会社にいるとなると大変じゃないですか。コンテストを中心に仕事をしていくと、自ずと在宅で仕事をするほうが効率良かったんです。
—コロナ禍以降はフルリモートの会社も増えましたが、最近ではまた出社を始める会社も増えつつあるように感じています。「AtCoder」さんはいかがですか。
ぼくも最近は週2で出社するようになりました。在宅でも大体の仕事はどうにかなるのですが、出社がゼロになってしまうと社員たちとの日常のコミュニケーションが極端に減ってしまって。情報伝達の面で効率が悪いなぁと感じたんです。
もっとも、社内会議などを行う場合は社員一人ひとりの希望を優先し、リアルでもオンラインでもどちらでも参加可ということにしています。ただ、対面でのコミュニケーションに飢えていたのか、最近は会社に来て参加する社員もけっこう増えている印象がありますね。

疲労困憊のプログラマーを救った相棒は「Cruise & Atlas」
—高橋さんが在宅ワークを快適にするために、何かされている工夫があれば教えてください。
オフィスと家とで仕事をする環境が違うことが、ちょっとしたストレスや仕事上のロスを生んでいると思うんです。なので、可能な限り働く環境を同じにするようにしています。
具体的には、ぼくにとっての「仕事の友」である机と椅子を、会社も自宅もオカムラさんの製品「Cruise & Atlas」で統一していますね。モニターも会社とほぼ同じ仕様のものを使用しています。

これまでにない低い着座位置と理想的なリクライニングにより、高い集中力を提供する革新のエルゴノミックメッシュチェア「Atlas」と、使う人の姿勢になめらかに対応するクリエイティブデスク「Cruise」は、身体の仕組みや特性の研究から生まれた「低座・後傾」という独創的コンセプトで開発された
—「Cruise & Atlas」とはどのようにして出会ったのでしょうか。
15年ほど前、当時大学生だったぼくはプログラミングコンテストにバリバリ出場していたのですが、肩・腰・首の凝りが本当にひどくて。週に2~3回は接骨院に通っているくらいでした。このままではマズイと思い、体に合う椅子を探すことにしたんです。
オフィス家具の展示会に行き、時間をかけていろいろな椅子に座ってみたのですが、ダントツで楽だったのが「Cruise & Atlas」でした。自分の体にすごく合っていたのでしょうね。実際、このセットを導入して以降、接骨院には一切行かなくなりましたから。
—何か決め手となるポイントはあったのでしょうか。
いろいろな姿勢を取りやすかったのが良かったです。特に、ここまで後傾させることのできる椅子はなかなかありませんから。

ぼくは「NewsPicks」のプロピッカーとして、社会問題などについてコメントをする立場ということもあり、SNSでの情報収集は欠かせません。ツイッターを閲覧するときなどはリラックスした状態でいたいので、椅子を深く後傾した状態にして臨みます。
一方、プログラムを組むときはぐっと集中したいので、リクライニングを浅めにして画面に向き合います。そうした切り替えがスムーズに行えるのが、長年愛用している最大の理由ですね。一般的なオフィス家具だとデフォルトの体勢が決まっているものが多いのですが、「Cruise & Atlas」はまったく違う姿勢をどちらか優位ではなくそれぞれきちんと取れるところが素晴らしいです。

—ご使用されている「Cruise & Atlas」は、見る限りかなり年季が入っていますが、これはもしや……。
はい、大学時代に買ったものがまだ現役なので、もう15年選手です。にもかかわらず、まったくガタがこないからすごいです。
機能面ではまったく不満がないのですが、強いて言えば、よく触れる手元部分など、特に摩耗しやすい部分だけパーツが交換できる仕組みになっていたら嬉しいな、とかは思ったりします。オカムラさんからすれば、そろそろ新しいのを買ってくれよ、という感じかもしれませんが(笑)。でも、大事な仕事のパートナーとして、まだまだ一緒に働いてもらうつもりです。これからもよろしく、ですね。

ゲーム、音楽、アニメ……エンタメの力でリラックスすることも仕事の効率化に
—「働く環境を同じにする」というお話がありましたが、とはいえ、家だと気が散ることもありますし、誘惑も少なくないと思うんです。そういうなかで、仕事に集中するコツはありますか?
ぼくは経営者なので、ちょっと働き方が特殊ということはありますが、最終的に必要な仕事ができてさえいれば、多少脱線することがあってもいいのではないかと考えています。
正直、仕事中にゲームしてしまうこともときどきあるんです(笑)。でも極端な話、10〜18時まで働くのを基本とするなら、昼間に3時間ゲームをしてしまっても21時まで働けばその分をカバーできますよね。

—少しばかり遊んでしまっても、それによって気分が変わって後の仕事が捗るなら、結果オーライですもんね。
そのとおりです。それから、ゲームではありませんが、エンタメ的な要素を仕事に導入することで、むしろ効率化を図ることができる場合もあると思います。
例えば、働いていれば積極的にやりたくない仕事というのも絶対に出てきます。イライラすることだってあるでしょう。そういうときにはYouTubeで音楽をかけて気分を上げたり、Netflixでアニメを流してリラックスしたりしています。
—でも、音楽の歌詞に気を取られたり、アニメのストーリーに集中してしまったりはしませんか?
なので、歌詞のない、いわゆるインスト曲を選ぶこともあります。でも歌詞有りでも問題ないケースもあって。何百回と繰り返し聞いてきた馴染みの曲だと、もはや空気のような存在になっているので意外と大丈夫なんです。同様にアニメも初見の作品は無理ですが、ある程度見尽くした作品を選べば適度に自分を緩めてくれる効果が期待できます。

そうやってリラックスした状態で仕事ができれば、少しくらい働く時間が長くなったとしても、自分の場合は全然苦になりません。もっとも、労働時間が長すぎるとやはりパフォーマンスは低下してしまうので、あくまで「モチベーションを高く保てる範囲で」ということには注意しています。
リモートワークはこれからどうなる? 高橋さんが予想する働き方の未来
—かつては、日本企業の多くが出社を前提に回っていたと思うんです。でも、いざコロナ禍でリモートワークを導入せざるを得なくなったら意外にもあっさりと受け入れられ、いまはそれがスタンダードな働き方の1つになっています。そうした現状を踏まえ、高橋さんは「未来の働き方」についてどのようにお考えですか。
具体的にどうなっていくかは、正直なところまだわかりません。いまオンライン上でのコミュニケーションを目的とした仮想空間「メタバース」のビジネス利用がよく話題になっていますよね。
ゆくゆくは全部ネットに移行していくんじゃないか、といった予想も耳にしますが、自分としては「それはちょっと違うかな」と。リアルな場でのコミュニケーションの効率性には無視できないものがあり、これからも完全になくなることはないと考えています。

とはいえ、いろいろなものが電子の世界に移っていくことは間違いないでしょうし、それは「コミュニケーション=対面」の時代から、電話、そしてインターネットへと移り変わってきた歴史を見れば明らかです。
なかには、いまの在宅ワークに苦手意識を持っている人もいるかもしれませんが、オンライン上でのコミュニケーションを前提とした、この流れ自体は止められないと思います。であれば、端から「無理」と諦めてしまうのではなく、少しでも心地いい時間が増えるように仕事環境を整えたり、あるいは仕事以外で楽しめる時間を増やしたり、ちょっとずつでも適応する努力はしていったほうが幸せになれると思うんですよね。
1988年、東京都生まれ。Imagine CupやTopCoder Open、Google Hash Codeなどの、プログラミングコンテストの世界大会において多くの入賞実績を持つ。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科在学中、2010年に、プログラミングコンテストを開催する企業であるAtCoder株式会社を創業。著書に『最強最速アルゴリズマー養成講座』などがあり、競技プログラミングの第一人者として業界を牽引。NewsPicksでは、「【実録】あなたの知らない、「日本の天才」が集う場所」などに出演。
ウェブサイト:http://chokudai.net/
ライター:辻本力 撮影:鈴木渉 編集:井戸沼紀美(CINRA.Inc,)

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