親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
「今日も瞬く間に一日が終わってしまった……」「時間を無駄にしている感覚がある……」と感じるビジネスパーソンは少なくないはずです。常に何かに追われているような感覚、それは一体なぜなのでしょうか?
この問いに「『時間がない』のは錯覚です」と切り込むのは、統計学とマーケティングリサーチの専門家であり、『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』(KADOKAWA)の著者、サトマイさんです。
佐藤さんは、古今東西の時間に関する知見と豊富なデータに基づき、私たちが時間に追われる根本的な原因や、無駄な時間の使い方をなくす具体的な方法を、書籍やYouTubeチャンネルで発信しています。
時間に追われる毎日から解放され、本当に大切なことに時間を使えるようになるために――。サトマイさんが、そのための具体的な方法を教えてくれます。
「時間がない」と感じるのは、目的意識のない行動が一因
時間がないと感じるのは、現代を生きる多くの人に共通する感覚かもしれません。しかし、OECD(※)の調査結果によると、先進国では労働時間の短縮傾向が続いており、余暇として活用できる時間は増加しています。日本も例外ではなく、1970年代と比較すると労働時間は大幅に減少しており、近年ではOECD加盟国の平均労働時間を下回る水準です。
※OECD……ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関
客観的には自由に使える時間が増えているにもかかわらず、なぜ私たちは依然として「時間がない」と感じてしまうのでしょうか?
その理由として挙げられるのが、「時間の使い方の変化」です。具体的にどのような時間の使い方が、私たちに時間がないと感じさせてしまうのか……その基準の一つは「行動に明確な目的や主体性があるかどうか」です。目的がなく、ただ何となく行う行動は、時間の浪費に繋がりやすいと言えます。
代表的なものとして、スマートフォンやSNSの利用があります。ちょっとした空き時間ができると、片手で容易に操作できるスマートフォンに無意識のうちに手が伸びてしまいませんか? かつては運動や趣味、仕事に充てていた時間が、知らず知らずのうちに情報収集へと置き換わっているのではないでしょうか。
また、SNSを漫然と眺めていると、次々と新しい情報が洪水のように押し寄せてくるため、脳の処理能力が追いつかず、「なんとなく忙しい」という感覚に陥りやすくなります。
「スマホやSNSを眺めていたらあっという間に時間が経っていた」という経験の積み重ねが、結果的に「時間がない」と錯覚してしまうことに繋がりやすいのです。
ただし、情報を収集する行為そのものが問題なのではありません。強調しておきたいのは、目的意識のないコンテンツの閲覧こそが、時間を無駄にしているという感覚を抱かせやすいということです。
つまり、本来取り組むべき本当にやりたいことや、じっくりと味わいたい体験を犠牲にして、無意識の逃避行動に時間を費やしてしまうことこそが、「時間がない」と感じる大きな理由の一つなのです。

そして、時間の浪費は、お金の無駄にも繋がりやすいという側面も無視できません。健康を犠牲にするような長時間労働やストレスフルな仕事で得たお金を、健康を取り戻すために高額なサプリメントやパーソナルトレーニングなどに費やすといった「あべこべな行動」は、まさにその典型と言えるでしょう。
時間の浪費の裏に隠れている「死・孤独・責任から逃げたい」心理
ここまで「時間がない」と感じる理由について、私なりの考察をお伝えしてきましたが、「じゃあ目的意識なくスマホやSNSを見るのをやめよう」と決意し、実行できるでしょうか? あべこべな行動を断ち切ることはできるでしょうか?
おそらく多くの人は、頭では理解できてもやめられないはずです。その訳をもう少し深堀りしてみたいと思います。
時間を浪費してしまう理由、その根底には「自己欺瞞」があります。自己欺瞞とは「自分自身に嘘をつくこと、騙すこと」と言い換えることができます。人間は「死」「孤独」「責任」から目を背けるために、さまざまな形で自分自身に嘘をつきます。言い換えれば、「回避行動」です。その回避行動を正当化することに時間を使っていると私は見ています。
代表的な事例としては、「死」の不安から目を背けるために、目の前のことに没頭することです。たとえば、ビジネスパーソンであれば、ライスワーク(生活のための仕事)に没頭することで時間を消耗してしまいがちです。生きるために仕事をしなければいけないわけですが、視野が狭くなり本当にやりたいことと向き合わないまま「いつか時間ができたら」「お金が貯まったら」と決断を先延ばしにしてはいないでしょうか?
これは、自分が死なないという前提で生きているからこそです。しかし、本当はやりたかったことを先送りした結果、目的のない行動で気を紛らわしてしまい、もっと早く行動しておけばよかったと後悔することは少なくありません。
また、「孤独」の不安から目を背けるために、「誰かに必要とされている」「愛されている」という確証を得ようと、SNSでの「いいね」の数や他人の評価を気にしてしまいます。これは、孤独から目を背け、繋がりを求めるための行動ですが、必ずしも心の充足に繋がるとは限りません。
そして、「責任」から目を背けるために、「親が決めたから」「会社が言っているから」といった理由をつけて、自分の行動の責任を他者に委ねてしまうことがあります。例えば、本当は行きたくない会社の飲み会に、会社の付き合いだからという理由で行くのは、自分の決定する責任を放棄していると言えるでしょう。
これらの回避行動は、多くの場合無意識に行われています。まずは、自分が何から目を背けようとしているのかに気づくことが、時間の浪費を減らし、より主体的な生き方を送るための第一歩になると強調したいです。

後悔しない時間の使い方をするために必要な「自分軸の価値観」
では、後悔しないためには時間をどう使えばいいのでしょうか。これは、かれこれ数千年前から論考が繰り返されていますが、古今東西の知恵をもとに次の3つの提言に絞りたいと思います。
◆変えられないことに悩み続けるのではなく、変えられることに集中する
過去の出来事や他人の行動など、自分でコントロールできないことに時間と思考を費やすのではなく、自分でコントロールできる行動や選択に意識を向け、主体的に行動しましょう。
◆外発的動機だけで動き続けるのではなく、内発的動機を大切にする
お金、名声、地位など、外部からの評価や報酬だけを目的に行動し、内発的な喜びや価値観を無視してしまうのではなく、自分の価値観や興味に基づき、心の底からやりたいと思えることを行う。外発的な動機だけでなく、内発的な動機を重視しましょう。
◆苦痛を避け、楽な選択ばかりをするのではなく、苦痛を成長の糧にする
困難や挑戦から逃げ続けるのではなく、ストレスや困難を避けずに受け止め、そこから学びを得て自己成長につなげましょう。ちなみに、苦痛が全くない状態は成長を妨げ、老化を促進するとも言われています。
これらを実行するための下準備として、自分の価値観を導き出すことが重要です。一般的な「価値観」は好みや趣味といった意味合いで使われることが多いですが、ここで定義する価値観は「自分が主体的に実行できる日々の行動規範」です。つまり、具体的な行動を表す動詞で表現できるものが価値観です。
まず、価値観は強いこだわりや執着とは異なります。自分の価値観が本物かどうかを検証するポイントとして、自分が大切にしていることを他人に押し付けていないことが重要です。たとえば、挨拶を大切にしている場合、挨拶をしない人にイライラしたり、挨拶すべきだと感じたりするかもしれません。それは、価値観というよりは執着に近いと言えます。
価値観は他人に強要するものではなく、あくまで「自分はこれがいいと思っているから」と軽く握っておけるものです。
そのような価値観を見つけるためには、まず自己内省を繰り返し、深く考えることを習慣にすることが重要です。たとえば、日記を活用し、どのような瞬間にやりがいを感じるのかを記録することは、価値観のヒントとなる共通点を見つける上で役立ちます。
やりがいとまではいかなくても、日々の行動の理由を深掘りすることも有効です。たとえば、「なぜか行列に並びたくなる」という行動の背後にある理由を考えることで、「単なる流行への興味」ではなく、「知的好奇心を満たしたい」といった隠れた価値観が見えてくることがあります。
ちなみに、私は週1回×5年間、これが自分の価値観ではないかというものに基づいた目標を設定して週報に書き、行動して定期的に見直すというPDCAを繰り返してみました。その結果、これだという価値観を見つけ出すことができました。この週報の内容は、以下のとおりです。
・今週やったこと
・上手くいった事
・上手くいかなかった事
・ロールモデルと比較して何が足りないのか/優れているのは何か
・何を改善できるか/できないか
・上手くいった時の状況を他の場面でも再現できるか/できないとしたら、それはなぜか
・来週やること(目標)
無駄時間を削減! 生産性を向上させる時間管理と心の習慣
ここまで、時間の浪費に気づき、「死」「孤独」「責任」からの回避行動を抑制するためのメソッドをお伝えしてきましたが、定量的に時間がない人には、タイムマネジメントの手法として「タイムボクシング」をおすすめします。これは、イーロン・マスクやビル・ゲイツも実践していると言われており、1.5倍の生産性を得られるといわれている手法です。
具体的には、1日のタスクを書き出したうえで、時間割を作り、いつ何に取り組むかを具体的に決めるというものです。運動や食事といったプライベートな時間も含めて時間割を作成し、その通りに行動することがポイントです。それによって何をすべきか迷う時間をなくし、タスクに集中できる環境を作ることができます。
タイムボクシングを実践することで、思ったよりも時間がかかるタスクを把握できるので、自分の時間の見積もりの甘さに気づき、修正することができます。より現実的な時間配分ができるようになります。これは、自分の直感的な時間の感覚と実際の作業時間のずれを認識し、修正していくプロセスとも言えます。
面倒だと感じる人もいるかもしれませんが、まずは1週間ほど試してみることで、その効果を実感できるはずです。生産性が向上する成功体験を得ることで、習慣化しやすくなります。

サトマイさんのタイムボクシング(『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』(KADOKAWA)より)
さらに、生産性を高めるためには、マインドフルネスや十分な休息も重要です。仕事中の無駄な時間、例えば次に何をすべきか迷ったり、どうすれば良いか考え込んだりする時間を減らすためには、瞑想などが有効です。
瞑想は集中力を高める効果が科学的に証明されており、始業前に短時間でも行うことで、無駄な思考を減らし、より効率的に仕事に取り組めます。通勤時間や休憩時間など、普段何気なくスマホを見ている時間を瞑想に充てるのも良いでしょう。
時間がない感覚から解放され、本当に大切なことに時間を使うためには、人生の羅針盤となる自分自身の価値観を深く理解すること、そして有効な時間管理術を採用することがポイントです。
最終的にどのような人生を歩み、どのような最期を迎えたいかは個人の価値観によって異なりますが、自分にとって本当に大切なものを見つめ、それに沿った生き方を追求していくことこそが、時間を浪費せず、後悔のない人生を送るための道標となるはずです。
佐藤舞(サトマイ)
合同会社デルタクリエイト 代表
桜花学園大学客員教授
株式会社IBJ社外取締役
データ分析・活用コンサルタント、ビジネス統計学の専門家。データの活用を通して意思決定コストを削減し、組織力をあげることを得意とする。YouTubeチャンネル「謎解き統計学 | サトマイ」を運営。チャンネル登録者数は約41万人(2025年3月現在)。
ライター:末吉陽子 アイキャッチ・図版:サンノ 編集:モリヤワオン(ノオト)

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