親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
仕事や趣味など、気兼ねなく取り組めるその人だけの空間、ワークスペース。それは、その人の考え方や行動様式が、色濃く反映される場所でもあります。「ワークスペースの美学」は、自分自身の心地よいライフスタイルを実践している方にご登場いただき、そこに至った経緯や魅力、結果として得られたものなどについて伺うインタビュー連載です。
22回目のゲストは、女流棋士の佐々木海法(ささきみのり)さん。日本将棋連盟の関西本部所属で、高校2年生で女流棋士としてデビュー以来、学業と並行して研鑽を積んできました。現在は女流棋士一本で活躍し、さらに将棋の魅力を世の中に広く伝える活動にも意欲的です。
そんな佐々木さんは、自身のワークスペースで普段、どのように過ごしているのでしょうか? 緊張の時間から解き放たれてほっとひと息つく時間や、お休みの日の過ごし方などについてお話しいただきました。
ひたむきに将棋と向き合う日々
―佐々木さんは、高校2年で女流棋士になったそうですね。学業との両立で大変だったと思いますが、今、佐々木さんはどのような毎日を過ごされているのですか。
平日は月に10日ほど、他の女流棋士の方々と集まって研究会に参加しています。研究会での棋譜は、できるだけその日のうちにPCに落とし込み、この手で良かったのか、もっと良い手はなかったか……などと振り返りをしています。
週末は、将棋の普及のためのイベント出演や講演の登壇のお仕事が多いですね。大会の審判もよくさせていただいます。

女流棋士・佐々木海法さん。まずはご自宅の離れでお話を伺った
—平日も週末もお忙しそうですね!その中で将棋の対局は、どれくらいありますか。
私はまだまだ少ないです。少ないときで月1回、多いときで4~5回くらいですね。
部屋にいるときは座布団の上で、将棋盤を使って棋譜並べをしたり、椅子に座って詰将棋をしたり。パソコンの将棋ソフトで研究も行なっています。

正座には慣れているけど……。
―どのくらいの時間を、このワークスペースで過ごしますか。
日によってまちまちですが、4時間か5時間くらいでしょうか。ときには椅子に6時間くらい座っていることもありますね。で、座りっぱなしは体に負担がかかってしまうので、途中立って部屋の中をウロウロしています。
私、長時間座りっぱなしだと腰に負担がかかっているように感じるんです。「そういうものなんだ」と半ば諦めて、違和感があれば立って伸びをするくらいでした。だから、椅子を気にしたこともまったくなかったです。
―棋士の方は、普段正座の姿勢の時間も多いですよね。その状態は負担にはならないでしょうか?
私は実家がお寺なので、正座に慣れていて、長い間その状態でもほとんど足がしびれないんです。だから、正座自体がつらいと思ったことすらなくて。
でも、無意識のうちにどうしても背中が丸まってしまうんですよね。そのせいかわかりませんが、腰にも負担がかかっているように思えて。腰痛のタイミングで対局があるときは、相手の方に一言お断りして、一手指すごとに立ち上がっていたくらいです。

—いまではワークスペースにオカムラのコンテッサ セコンダを導入されていますね。
ある日、対局が行われた会場の事務所にあったのがコンテッサ セコンダでした。何気なく座ってみたら、すごく体にフィットする、今まで覚えたことのない感覚があって。そのとき初めて興味を持ち、導入を決めました。

—そんな佐々木さんにとって、コンテッサ セコンダの使い心地はいかがですか?
まだ使い始めて1ヶ月なので、心地良く感じられる椅子に座ることそのものが新鮮ですね。
やはり、預けた体をきちんと支えてくれる心地よい感覚がいいです。背もたれが背骨の曲線に沿うので、おのずと良い姿勢でいられるよう意識できているように思います。

開放感のある図書室のようなワークスペース
—やはりこのワークスペースで一番驚いたのが、壁一面に並ぶ大量の本です。まるで図書室ですね。
家族みんな、本が好きなんです。うちは両親と兄弟の5人家族ですが、将棋関係のものはもちろん、小説など、ここには家族が読む本すべてが収まっています。私は東野圭吾さんや、伊坂幸太郎さんの作品をよく読みますね。
また、家族全員で遊ぶボードゲーム類もこの部屋に収納されています。子どもの頃から、ゲーム機よりボードゲームなどで遊ぶようにと言われてきて。これは両親の教育方針ですね。

壁に敷き詰められた本たち。ちょうどこの上は吹き抜けになっている
—デスクの位置がお部屋の中央というのも、あまり見ないかもしれません。
この部屋は天井が吹き抜けになっていて、開放感があって気持ちがいいので、それを堪能できる配置にしました。だからデスクも、壁に向かうより広い空間を見渡せるような置き方にしています。ヘッドレストに頭を乗せて天井を見上げると、リラックスできて疲れが吹き飛びます。

ヘッドレストに頭を預けると、目線の先には高い天井がある
—こうした自分の空間に対するこだわりは、昔からありましたか。
なかったですね。高校の頃は、勉強も家族の集まるリビングでしていたくらいで、部屋づくりへの関心はほとんどありませんでした。
意識するようになったのは女流棋士になって、自分のPCを持つようになった頃からでしょうか。研究のためにPCの前に長時間座るようになり、もっと広い場所で作業したいと思うようになってから、今のワークスペースを整えていきました。
—写真には映っていませんが、グランドピアノが置いてあります。今も弾かれますか?
いえ。以前習っていましたが、今は母や弟が弾くのを聴くくらいです。ピアノやサッカー、水泳などいろいろやっていた習い事も、中学に上がる頃までに辞めて、将棋一本に絞りました。それほど将棋がおもしろかったんですよね。
—将棋をはじめたのは、いつ頃ですか。
はじめは、父と兄が将棋を指しているのを隣で見ていました。すぐに自分もやってみたいと始めたのですが、相手をしてくれる父は、娘の私にも容赦してくれなくて(笑)。
負けん気に火がついて、すぐに夢中になりました。兄にも、将棋を始めた弟にも負けたくなくて指し続けて、やがて研修会に入り、高校2年で女流棋士になりました。

—今は女流棋士としてのご活動に専念されていますね。
そうなんです。昨年、関西大学政策創造学部を中退してからは、将棋一本で暮らすようになりました。在学中はレポート提出やテスト勉強に追われていて、今なら月に10回ほど出席できる平日の研究会も、2~3回しか出られなくて。対局前にテスト勉強などなかなか集中できませんし、テストと対局が重なる日もあり……。学業と将棋との両立に限界を感じて、将棋を選びました。
おかげで、ずいぶん心に余裕が生まれました。将棋に専念できる環境が整って、自分の選択は間違っていなかったと思っています。
愛犬チョコに癒されながら、より強い女流棋士を目指す
―先ほどから、取材中にちょこちょこと足元を走り回るワンちゃんがかわいいですね。
「チョコ」です。チワワのブラックタンで、2026年2月14日に6歳になったばかりの女の子。バレンタインデーに生まれたからチョコです。かわいくないですか? 私の一番の癒しです。

―じゃあオフの日は、チョコちゃんと遊んで……。
はい、そうですね。あとこだわりと言えるかわかりませんが、ここでYouTubeを見ながらストレッチで体をほぐしたり、長風呂をして体を温めたり。将棋や新幹線移動で長時間座ることが多いので、体のケアはかなり意識しています。
―心と体をしっかり整えて、対局に臨むわけですね。佐々木さんには目指す先輩女流棋士の方はいらっしゃいますか。
いまとてもお世話になっている、加藤桃子さんです。タイトルも数多く獲得されておられて、練習対局で指していただくのが恐れ多いほど強い方です。
例えばPCの将棋ソフトが示す手は、そのときの最善の手かもしれません。でも、自分が実際にその局面でその手が指せるか、そのとき自分はどう判断するか、誤った手を指すことも当然あるわけですが、加藤さんはご自身の膨大な経験に基づいた戦い方を、優しく教えてくださいます。その言葉一つひとつにきちんとした裏付けがあり、将棋に向き合う姿勢がとにかくかっこいい。尊敬しています。

―理想の先輩女流棋士ですね。そんな佐々木さんの目標を教えてください。
今は、もっとたくさん対局をこなすことが目標です。ただ、対局はトーナメント戦を勝ち上がっていかなければ数が増えないので、今は自分の勝ち筋を探り、経験を積み重ねること。そうして少しずつ力をつけて、強い女流棋士を目指します。


取材・執筆:國松珠実 写真:衣笠名津美 編集:桒田萌(ノオト)
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