親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探求している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第10回のゲストは、ミュージアムグッズ愛好家として、書籍の出版やイベント・グッズ企画などに携わる大澤夏美さんです。
「メディア」としての役割を持つミュージアムグッズに魅了されて
— 「ミュージアムグッズ愛好家」という肩書き、とても稀有ですし魅力的だなあと感じます。そもそも、ミュージアムグッズのおもしろさや魅力は、どういった点にあるのでしょうか?
ミュージアムグッズ愛好家の大澤夏美さん
大澤
今回は、大澤さんがグッズの取材でも訪れたことのあるアーティゾン美術館内のミュージアムカフェをお借りしてインタビューを実施。大澤さんイチオシのアーティゾン美術館グッズを伝授してもらった。「右手のポストカードは最近収蔵された中村彝《向日葵》のポストカード。美術館に新しく収蔵された作品もこまめにグッズ化されているので、訪れるたびに新しい出会いがあって楽しいです」と大澤さん
—そもそも、どうしてミュージアムグッズに魅了されるようになったのでしょうか?
—ミュージアムグッズへの視点が広がったり、深まったりしたことで、興味関心に拍車がかかったのですね。
「仮」で名付けた肩書きが、いつしかハマり役に
—では、「ミュージアムグッズ愛好家」としての活動を始めた経緯についても教えてください。大学、そして、大学院卒業後、すでにミュージアムグッズ愛好家を名乗るようになっていたのでしょうか?
いえいえ、全然。片鱗もありませんでした。北海道大学大学院卒業後は、学生時代の専攻とはあまり関係のないIT企業に就職して、システムエンジニアとして働いていましたから。その後も、採用人事を経験したりと、不思議なキャリアを歩んでいたように思います。
—学生時代は、博物館学に夢中だったと思うのですが、就職先としての選択肢には……?
「好き」を仕事にしたいという意思はあったので、いろいろと検討はしていました。ただ、博物館が好きで好きでたまらない人間が集まる環境に身を置いたからか、「このままでいいのだろうか?」と、視点が凝り固まってしまうような不安を抱くようにもなっていたんですよね。
—不安、ですか。
—では、そうした思案の結果、「ミュージアムグッズ愛好家」という肩書きに……?
大澤さんが初めて出したリトルプレス『ミュージアムグッズパスポートVol.1』。ミュージアムショップや作家へのインタビュー、札幌市内で購入できるグッズの紹介など盛りだくさんの内容である
—このリトルプレス、一冊目とは到底思えないクオリティですよね。文章、デザイン、写真、あらゆる要素の完成度が高すぎるくらいです。
博物館に興味のない人と向き合うために、愛を持った第三者でありたい
—現在の活動の一つである書籍執筆の活動も、リトルプレスをつくった経験があるからこそ実現できているものなのでしょうか?
初の商業出版である『ミュージアムグッズのチカラ』(国書刊行会)。担当編集者から「好きなようにやってください」と後押しを受け、大澤さんの理想を詰め込んだ書籍になったという
—書籍やリトルプレス、そしてほかの活動も含めて、博物館にまつわる「伝道師」ではあるけれども、どこか一歩引いた立ち位置でもある、という印象を受けています。その絶妙なバランスが、無二の仕事を生み出すのかなと感じましたが、大澤さんのなかで意識している点はありますか?
—なるほど。強い思い入れがあるからこそ誰よりも前のめりに取り組めるけれど、大衆を見つめる視点も忘れない……。そのバランスを見極めるのはすごく難しそうです。
“ミュージアムグッズ愛好家”だからこそ生まれた葛藤
―一方で、付かず離れずの距離感だからこそ、じれったさを感じる瞬間もありませんか?
―今回の取材では「偏愛」と「付き合い方」をキーワードにお話を伺ってきました。大澤さんにとって、ミュージアムグッズは紛れもない偏愛の対象であるけれど、距離やバランスの取り方をうまくコントロールすることで、持続可能な偏愛で在り続けているようにも感じられますね。
大澤 夏美(おおさわ・なつみ)
大学在学中に博物館学に興味を持ち、会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を開始。主な著書に『ミュージアムグッズのチカラ』シリーズ(国書刊行会)、『ときめきのミュージアムグッズ』(玄光社)、『ミュージアムと生きていく』(文学通信)。
HP: http://momonokemuse.starfree.jp
取材・執筆:詩乃 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト) 撮影協力:アーティゾン美術館
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