「なんかヤバい」出合いを求めて。瀬川信太郎さんが郷土玩具をディグり続けるワケ
となりの偏愛LIFE

「なんかヤバい」出合いを求めて。瀬川信太郎さんが郷土玩具をディグり続けるワケ

#カルチャー #趣味・遊び

日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探究している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第16回のゲストは、福岡市中心部にあるアパートの一室で郷土玩具専門店「山響屋」を営む瀬川信太郎さんです。


過去には大阪で雑貨店勤務、DJを経験。ひょんなことから「だるまの絵付け」の仕事を始めたことをきっかけに、郷土玩具の世界にどっぷりハマることになったのだとか。


瀬川さん目線での郷土玩具の魅力、仕入れのこだわり、店を始めてからのご自身の変化などたっぷり語っていただきました。

偶然の出合い。なんか面白いのが出てきた

—瀬川さんの郷土玩具愛につながる「だるまの絵付け」は、どんな経緯で始めたのですか?

瀬川

大阪の雑貨店で勤務していた時に、自分の店を持ちたいと思うようになり、開業資金を貯めるため働き詰めの生活をしていました。でもそれだけでは心が乾くので何か好きなこともしようと、趣味で絵を描いてSNSに載せたり友人にプレゼントしたりといったことをしていたんです。


そんなある日、自分の好きな音楽アーティストが出演するイベント会場に向かいました。着いてから気づいたんですが、それはだるまの絵付けをしているグループの周年記念パーティで。しかもその中に偶然、働いていた雑貨店のお客さんもいたんです。お祝いの意味を込めてだるまを一つ注文し、それを受け取りに行ったら「絵を描いているのなら、私たちと一緒にやらない?」と誘われたのが始まりでした。

山響屋店主・瀬川信太郎さん

—そんな偶然からのスタートだったんですね。

瀬川

それで、だるまの絵付けをしながら雑貨店で働いているうちにお金が貯まって、地元に近い福岡に物件も見つかり、「さて、何の店をしよう?」と考えた時に……。

—え、そこは決めていなかったんですか。

瀬川

そうなんですよ(笑)。で、だるまの絵付けをしていたからそれに関連するものが良いかなと思って、とりあえず「九州 だるま」「福岡 だるま」などのキーワードを調べていたんです。そしたら、「郷土玩具」というジャンルがあると知って。

—なるほど。そもそも、郷土玩具ってどういうものなんですか?

瀬川

容易に入手出来る素材を使って、それぞれの地方の信仰や風俗習慣を人形で模したものです。


それで今度は「郷土玩具」で調べたら、なんだか面白いのがたくさん出てきました。こういうものを集めて売る店にしたらいいんじゃないか、と思ったのが始まりです。

—郷土玩具のどんなところに魅せられたんですか?

瀬川

まずビジュアルが面白いじゃないですか。そして、買い付けに行って作り手の方に話を聞くと、その土地との関係性とか、由来とか、知れば知るほど興味深いんですよ。


郷土玩具を紹介する本も出ていて、チェックはしてるんですけど、たいていそれぞれの作り手の代表作くらいしか載っていなくて。でも実際には、一人の作り手がいろいろな種類の作品を生み出していて、その人の王道とは違うニッチな作風のものもあったりする。そんな中から、自分が「ヤバい」と感じるもの、きっとみんなも「ヤバい」と思うだろうなというものを探してくるのが、もう楽しくて。

「だるまとか招き猫とか、縁起物をよく選びます。縁起が良いって、それだけでテンションあがりますよね」と瀬川さん

「行って買う」と決めている。自分なりの「ヤバい」を求めて

―瀬川さんはわざわざ現地に買い付けに行っているのですね。今の時代、インターネットで注文して配送してもらうなどで、もっと楽に仕入れることもできそうですが……。

瀬川

それはなんか違うと思うんですよ。僕も普段の生活ではネットショップを活用しますが、自分が好きなものに関しては、作られている土地に自分の足で行って手にする良さ、嬉しさを味わいたい。それに、行けばどんな環境でどんな人が作っているのかわかる。だから自分の店で扱うものは「行って買う」と決めています。


事前に情報収集はしますが、現地で手に取ると「想像よりめちゃくちゃいいじゃん!」というものもありますし「どうしてこんなの作っちゃったの!?」といった、ぶっ飛んだものに出合えることもある。

瀬川

郷土玩具には家電や家具のようなカタログがないですし、作り手に聞いても「なんかいろいろあるよ」と言われるだけだったり。工房に行っても整然としたディスプレイではなく無造作にたくさん飾られていたりするんですが、それを一つひとつ見ていくと、ヤバいものがあるんですよ。DJがレコードをディグる(目当てものを探し出す)ように、山ほどある中から見つける喜びって半端ないんです。

瀬川さんの言う「ヤバい」とは、どんなものを指すのでしょう?

瀬川

自分の感覚でしかないけれど……「キモかわいい」に近い感じですかね。郷土玩具は小さかったり、丸みがあったり、パッと見でかわいらしいものがたくさんあります。でもかわいいだけではなく一癖も二癖もあるような、ちょっと変化球的なものが僕にとってはドストライクですね。

―たしかに、店内を見渡すとそういうものが多い気がします。

棚の左から「ヅッキャンキャン」(長崎県/古賀人形)、「ごん太」(福岡県/津屋崎人形巧房)

瀬川

例えばこれは「ヅッキャンキャン」。古賀人形といって長崎県長崎市中里町(旧 古賀村)の郷土玩具のひとつなんですが、長崎の古い方言で肩車を意味するんだそうです。肩車がヅッキャンキャン、って意味わからんじゃないですか。ヤバいですよね。


こちらの「ごん太」は、赤ちゃんのおしゃぶりとして作られたんだそうです。この顔、正面から見るのか、上から見るのか、下から見るのかで表情が変わりまして……って雑学は置いておいて、とにかく見た目がキモかわいくて最高ですよね。ヤバいです。

画面中央の少年をかたどった郷土玩具が「鼻ホジホジ」(宮崎県/コヨリ人形)

瀬川

それからこの「鼻ホジホジ」もヤバくないですか。宮崎に江戸時代から続く佐土原土人形の後継者育成プロジェクトが以前あって、そこで作り方を学んだ作家さんが作った人形です。こういう「新しい」ものだって、ここから何十年と続いて「その土地のもの」になっていく。それならもう郷土玩具と呼んで差し支えないかと。

「山響屋」が入る雑居ビルの2階では、現役郷土玩具作家の個展も。

取材時は張り子作家の松崎大祐氏による「お父さんは張り子屋さん」が開催されていた

―郷土玩具というと、なんだかこう学術的なイメージを持っていましたが、もっと感覚的に捉えてもいいのですね。

瀬川

そう、単純に「なんかかわいい」「わからないけどヤバい」でいいんですよ。そう感じるのであれば、もう好きになっているということですし。

「面白い」は身近にある。行って、見て、話せば感じること

―瀬川さんが営む「山響屋」のコンセプトはありますか?

瀬川

「郷土玩具を知ってもらう場所」でありたいと思っています。開業した頃は郷土玩具が身近に全然なく、自分から探し求めて行かなければ買えないものでした。でも、福岡市中心部というみんなが来やすい立地にこうして集めておけば、郷土玩具ってこういうものなんだ、こんなに種類があるんだ、ということを気軽に知ってもらえるかなと。

―郷土玩具を広めたい、みたいな?

瀬川

そういうわけでもなくて。でも、こういう店がひとつあると、誰かのきっかけにはなると思うんですよね。知ったらハマる人はきっといるはずなんで。

―「かわいい」「ヤバい」だけでもいいけれど、そこから深く掘り下げていく喜びもありますよね。瀬川さんが郷土玩具を偏愛するようになったからこその楽しみはありますか?

瀬川

以前よりも旅行が楽しくなったんですよ。行く前にまず、その土地にはどんな郷土玩具があるのか調べます。郷土玩具が神社やお寺の授与品になっていて、そこでしか手に入らないものも多かったり。そしてそこへの行き方、周辺にあるものなどを調べていると、また別の面白いものが見つかったりもする。ふつうの観光よりも面白さが何倍にも膨れます。帰って来てから飾る楽しみ、それを見ながら旅行の思い出を振り返る楽しみもありますし。

福島県会津若松市の張子細工「起き上がり小法師」(福島県/山田民芸)

行く場所が変われば、また楽しみも変わりそうですね。瀬川さんのお話を伺っていると、郷土玩具の魅力の理由は「土地」に紐づいていることが大きい気がします。

瀬川

郷土玩具ってそもそも、その土地の人が、その土地のものを使って、その土地の人のために作るものですからね。紙が身近にあれば張り子文化が生まれるし、九州では土を使ったものが多いですし。


僕、若い頃は違う文化や違う世界に憧れて、海外に行きまくっていたんですよ。だけど郷土玩具を集めるようになってから「あれ、よその国とか行かなくてもよくない?」と気付いてしまって。

どういうことですか?

瀬川

だって同じ県内でさえ、隣の町に行けば全然違う方言をしゃべっていたり、全然違う風習があったり、なんか知らない物を食べていたり、ヤバいものを作っている人がいたり。すぐ近くでも、ちゃんと行っていろんなものをよく見て人と接したら、こんなに面白い経験ができるんだって気付いたから。

郷土玩具の魅力は、その先に世界が広がっているところ

瀬川さんは作り手に会うことを大事にされていますが、会ったらやっぱり作品の話などをたくさん聞いたりするんですか?

瀬川

いや、ほとんど聞かないですね。「休みの日は何しているんですか?」「普段は何を食ってるんですか?」といったことの方が気になって。

作品そのものよりも、作り手にフォーカスしたくなる、と?

瀬川

そうですね。人形の顔なんかも、作り手の性格やその時のコンディションによって変わるから。僕も絵付けをしていて、イライラした気分の時に描いた顔は「クソだな」と思いますもん。だからそういう日は描かなくなりましたね。


だから作り手の方にも「どういう気持ちで描いているんですか?」「こんなに描いていて飽きたりしませんか?」とか、そんなことばかり聞きます。

店内には瀬川さんが絵付け中のだるまもずらり

瀬川さんはもともと人に興味があったのでしょうか。

瀬川

昔は全然なかったですよ。買い付けに行って、作り手の方と話して、その人のことがなんとなくわかってくると「あー、だからこういう人形ができるのか!」と気付いたりする。それで興味が出たのかもしれません。

―なるほど、作り手の人となりを知ることは、作品の答え合わせにもなるわけですね。郷土玩具も、作り手のことも深掘りする。やっぱり瀬川さんは「ディグる」のが好きだということでしょうか。

瀬川

でしょうね。郷土玩具をディグった先には「人」がいるし、そのまた先には土地、神社や寺、お祭り、盆踊りなど、いろいろな文化や歴史が紐づいてくる。


あとは郷土玩具の写真がレコードのジャケットに使われているとわかればそれも探したくなるし、昔はテレホンカードになっていたり、お酒のラベルに印刷されていたり、そういうものに手を出していたらきりがないほど。郷土玩具だけで完結せず、その先の世界が大きく広がっているところが、郷土玩具のヤバさかもしれません。

店内にある一番大きな郷土玩具「えびすだるま」とのツーショット。

瀬川さんは「縁起物を2つ組み合わせちゃう。そんな郷土玩具の自由さも大好き」とにっこり

PROFILE
川村健一

瀬川信太郎

山響屋 店主

長崎県島原市出身。福岡市中央区今泉にて、九州の郷土玩具を扱う専門店「山響屋」を運営。その傍らで絵師としての活動も継続し、だるまにオリジナルの絵つけを行っている。


山響屋HP:http://yamabikoya.info/

CREDIT

取材・執筆:北村朱里 撮影:横山郁 編集:モリヤワオン(ノオト)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

SHARE

この記事を読んでいる人に人気の記事