親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探求している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第19回のゲストは、全国の展望台・展望タワーを巡り、その記録を発信し続けている“タワーマニア”のかねだひろさんです。
IT企業に勤務する傍ら、これまでに47都道府県400以上の展望施設を訪れ、東京タワーだけでも5万枚以上の写真を撮影。その記録は単なる趣味の域を超え、街の歴史を見守り、失われゆく景色を残す活動へと発展しています。
かねださんがこれまで訪れたタワーの中でも「特に思い入れが強い」という東京タワーを舞台に、展望台・展望タワーの魅力、そして景色を記録し続ける意味について伺いました。
毎日見ても飽きない、私だけの東京タワーの楽しみ方
―タワーマニアとしては、展望施設に訪れたとき、どんなところにテンションが上がるものですか?
かねだ
第一に、エレベーターの扉が開いた瞬間がすごく大事だと思っています。東京タワーの場合、エレベーターを出た正面に皇居や永田町、大手町・丸の内エリアなど、日本の政治と経済の中心地が広がっているわけです。展望台のファーストビューには、「その街の何を最初に見せたいか」という思いが詰まっている。だから、その瞬間の「わっ」ていうインパクトがすごく大切なんです。

—なるほど、確かに建築物である以上、作り手たちの意図がありますもんね。では、かねださんにとって、東京タワーはどのような思い入れがある場所なのでしょうか?
かねだ
私が東京で働き始めたのが、20年くらい前でした。その頃は茨城県から通っていたんですけど、会社に着いて窓の方に目を向けると、いつも東京タワーが見えたんです。
だから、仕事中に疲れたときも、ふと窓の外を見ると東京タワーがいつもあって。そんなふうに、当時の私をいつも見守ってくれていた存在だったんですよね。今では、東京タワーに通いたいがために、近所に引っ越してきてしまいました(笑)。

展望台/展望タワーマニア・かねだひろさん
—「通う」というと、どれくらいの頻度で来るものなんですか?
かねだ
週末などはよく来ますし、コンビニに行くときはわざわざ東京タワー内の店舗に来ることもあります。近所なので、見るだけなら毎日見ていますね。あと、誕生日には毎年必ず東京タワーに来ています。
—へえ、それはなぜですか?
かねだ
「自分が生まれた日に、この街はこんな景色だった」「今年の私はこんな風景を見ているんだ」って、この場所から見える東京の姿と一緒に、自分のことを考えるのが好きなんです。
「自分はこういう街で形作られているんだなあ」ということを改めて認識するための儀式というか。自分探しの旅に出る人のように、私は東京タワーからの景色を見ることで、自分を見つめている、という感じでしょうか。
東京タワーの西側から眺めた景色。2013年9月(1枚目)と2024年9月(2枚目)。
同じ景色だが、ビルが新しくできるなど変化がある(どちらも提供写真)
—自分の住んでいる街を見つめることが、自分自身を見つめることに繋がるというのは、少し分かるような気がします。
かねだ
誕生日だけではなく、落ち込んだときも東京タワーに来ますね。何かモヤモヤや悩みを抱えているとき、東京タワーから自分の住んでいる街を俯瞰して見下ろすと「まあ、いっか」という気持ちが自然と生まれてくるんです。そうやって、事あるごとに東京タワーに訪れる生活なので、長いときは一日中いることもあります。
—でも景色は変わりませんよね。素朴な話、飽きることはないんですか?
かねだ
飽きるなんてとんでもない! 季節によっても、時間帯によっても景色は変わりますからね。景色や街の様子を見るなら昼間ですが、この圧倒的なビル群による夜景も素敵なんです。
東京スカイツリーみたいにすごく高いと街が小さく見えますけど、東京タワーのメインデッキの高さ150mだと、人々の暮らしぶりまでよく分かる。夜になると、景色を構成する建物たちの窓の明かりがついて、その光の数だけ人生があるんだなって思うとワクワクしちゃいます。

ある展望タワーとの出合いが、旅の目的を変えた
―そもそも、展望台や展望タワーにのめり込んだきっかけは何だったんですか?
2010年に新潟市のレインボータワーと出合ったことがすべての始まりでした。当時は「青春18きっぷ」を使って、行ったことのない街を目指すのが趣味で。どこまで行けるのかチャレンジしたくて、青森や山口、九州の門司港などに行っていました。ただ、初めての街でも「この街に来た!」という実感がなかなか持てなかったんですよね。
そんな時、新潟に7色で色分けされたタワーを白いキャビンが回転しながら上下昇降するという、アトラクションのような展望タワーがあることを知り、面白そうだと思い行ってみたんです。それがレインボータワーとの出合いです。
新潟市にあったレインボータワー。2018年に解体された(提供写真)
タワーから新潟の街を一望したら、想像していた新潟とは違い都会的だとか、平坦な地形に街が広がっているとか、川が流れていて綺麗だとか、街の全体像が見えて。そのときに初めて「この街に来た」という実感を持てたんです。
レインボータワーから眺める景色(提供写真)
―その体験がきっかけで、展望タワー巡りを始めたんですか?
最初は街を知るための手段として、展望タワーを探していただけでした。全く知らない街でも、高いところから見ると、その街の個性が分かる。だから、新しい場所に行くたびに、高いところから街を俯瞰して見下ろすようになったんです。
ところが、タワーについて調べているうちに「このタワー、かっこいいな」「この形、面白いな」「ここ行きたい!」という気持ちが先走るようになって、気が付いたら旅の目的が展望タワーになっていました(笑)。
—その流れから、全国の展望台・展望タワーを巡るまでになったバイタリティに驚きます。展望台を通して、全国の街を回ったことで何か変化はありましたか?
街の見方が変わりました。地上で歩いている時も、ついつい「ここ、上からはどう見えるんだろう」って考えてしまいます。でも、一番の変化はどの街にも必ず魅力があるって気付けたこと。
展望台は、その街を見てほしいという思いがなければ作られません。だからこそ、そこからの景色には、その街の人々の思いが詰まっているんです。
それぞれの街の「らしさ」が詰まった、展望施設の魅力
―かねださんの思う、展望台巡りの魅力とはなんですか?
展望台って、実はその土地の歴史や文化とも深く結びついているんですよ。たとえば、茨城県にある港公園展望塔は県の花であるバラをモチーフにしていたり、海辺にあるタワーは潮風に強いガラス張りだったり。建物の設計にも、その土地ならではの理由があるんです。
バラをモチーフにしたという茨城県・港公園展望塔。2025年2月現在、老朽化により立ち入り禁止になっている(提供写真)
―街の個性がデザインや構造に表れていると知ると、展望施設を見るときの視点が変わりますね。
あとは、同じ展望台でも季節や時間帯で全く異なる表情を見せてくれるところも魅力ですね。
北海道・函館の五稜郭タワーなら、秋は紅葉が、冬は雪に埋もれた五稜郭のライトアップが絶景です。札幌のさっぽろテレビ塔では、春の夕暮れ時になると空がピンク色に染まって、雪が溶けていく様子や街が春めいていく変化を感じられます。
五稜郭タワーから眺められる紅葉(提供写真)
展望台では、その土地でしか見られない特別な景色との出合いがあります。だから何度行っても新しい発見があって、飽きることがない。それに、展望台からの景色って「今この瞬間」でしか見られないものなんですよ。同じ場所に立っても、その瞬間の空の色も、街の様子も、二度と同じものには出合えない。
だから私は、そういう一期一会の出合いを求めて、また次の展望台に行きたくなる。展望台巡りの魅力は、そういうところにあると思います。
「もう二度と見られない」からこそ、残したい風景
—かねださんは展望台を巡るだけではなく、写真を撮影し、発信をし続けることにもこだわっているように感じます。
そうですね。きっかけは、新潟のレインボータワーとの別れでした。2018年の取り壊しが決まった時、「あの時の景色、なんでちゃんと残しておかなかったんだろう」と強く後悔したんです。
レインボータワーのおかげで私は人生が変わったのに、その景色は当たり前ではなくて、見たいと思ったときにまだ見られるとは限らない。そう考えたら、今ある展望台の姿と、今だから目にすることができる景色をもっと残しておきたいと思ったんです。

実は2011年の東日本大震災の時も、たくさんの展望施設が被害を受けて。そこから、耐震性の問題で運休や営業を終了する展望台も出てきました。
展望台がなくなるということは、そこからの景色も永遠に失われるということなんです。でも、写真として残しておけば、いつかその場所にこんな展望台があって、こんな景色が見えていたんだって、誰かに伝えられる。レインボータワーの取り壊しのときには新潟に通って、タワーが取り壊される様子を記録し、ファンブックとして一冊の本にまとめました。
―タワーがなくなることは止められないですが、せめて新潟にこんなタワーがあったことをたくさんの人に知っていてほしい、と。
今残っている展望台も同じです。私の発信をきっかけに行ってみたいと思う人が増えれば、それだけ展望台という文化が存続していくかもしれないじゃないですか。私は展望台や街の長い歴史の、ほんの一瞬を見ているに過ぎません。でも、その一瞬一瞬の記録が、きっと未来につながっていくと信じて、これからも記録を続けていきます。
だからみなさんにも、自分の街の展望台に気軽に行ってみてほしいですね。きっと「こんな場所があったんだ」「上からは景色がこんな風に見えるんだ」という新しい発見が必ずあると思います。意外と身近なんですよ、市役所の展望フロアだったり、デパートの屋上だったり。でも、その景色は移りゆくものだから、今この瞬間にしか見られないものなんです。その時その場所でしか見られない景色を、ぜひ楽しんでください!


かねだひろ
展望タワー・展望施設マニア
2011年より日本全国の展望タワー、展望室、展望台をまわっている。2018年の新潟のレインボータワーの解体をきっかけに、展望タワーや展望台の魅力を発信。著書に『日本展望タワー大全』(辰巳出版)がある。
X:https://x.com/towerup_tw
HP:https://towerup.themedia.jp/
取材・執筆:早川大輝 撮影:藤原葉子 編集:桒田萌(ノオト)

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