親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探究している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第20回のゲストは、国内外1000枚以上の顔はめパネルで撮影を行ってきた、顔はめパネル愛好家の鎮目博道さんです。
テレビプロデューサーやライターのお仕事をしながら、国内外の顔はめパネルを探し歩いている鎮目さん。行った先に顔はめパネルがなかったり、偶然顔はめパネルを見つけたり、コロナ禍で撤去されていたり……。そんな顔はめパネルの探求について「恋愛と似ているんですよね」と語り、刹那的なところも魅力なんだとか。
今回は都内屈指の顔はめスポットである浅草を巡りながら、鎮目さんの顔はめパネルへの想いと楽しみ方を伺います。
写真を撮る時に変な顔をするのはDNAが影響していた?
―ダジャレみたいで恐縮なのですが……顔はめパネルにハマったきっかけを教えてください。
鎮目
ハハハッ! きっかけは、パネルに顔をはめている写真をSNSに投稿したことです。僕の写真で笑ってもらえたのが嬉しくて、投稿を続けていました。するといろんな方から「〇〇に顔はめパネルがあったよ」と情報が集まってくるんですよね。これは無下にできないと、全国各地を巡るようになりました。
どんどん周囲の期待も高くなり、顔はめパネルを見つけると撮影せざるを得ないカラダになってしまったんです。「これは一生はめ続けなければいけないな」と。

顔はめパネル愛好家・鎮目博道さん
—もともと面白いことをするのが好きだったのでしょうか?
鎮目
こう見えて人見知りなんですよ。でも目立ちたいという厄介な性格でして(笑)。修学旅行などの集合写真で、前には出たくないけどちょっとおちょけたくて(※)、こっそり変な顔をする子どもでした。
—幼い頃から片鱗があったと。
鎮目
それが……たまたま外国航路の船員だった祖父のアルバムを見ていたら、ある発見をしまして。写真が全部「変な顔」だったんです。「あ、変な顔するDNAを受け継いでいたんだ!」と驚きました。
—すごい遺伝ですね! ちなみにこれまでどれくらい顔はめをしたのでしょうか?
かねだ
7〜8年前に数えた時には500枚あったので、現時点で1000枚はゆうに超えていると思うのですが、正確な枚数は把握していません(笑)。撮影した写真は一応ハードディスクに保管していますが、最近はInstagramにも投稿しているので収拾がつかなくて。

鎮目さんのInstagramアカウントには、たくさんの顔はめパネルの写真が並ぶ
鎮目
撮影したはずなのに、どこに保存していたのかが自分でもわからない写真も。あと、顔はめパネルっていつの間にか「あったはずなのに、ない」ものも多いんです。
あるはずが、ない。刹那的な顔はめパネルの魅力
―「あったはずなのに、ない」ですか?
イベント限定だったり、コラボで作られたりしているパネルも多いので、常設されているわけではないんですよね。だから、役目を終えたら撤去されてしまったり、この前までピンクだったのに黄色にリニューアルされている! みたいにデザインが変わっていたりすることも。ちなみにコロナ禍で観光地の顔はめパネルは、結構減ってしまいました。
―確かに、感染対策で撤去されてしまったところは多そうです。
観光地に行くと顔はめパネルで記念撮影をする方は多いと思うのですが、行く地域やタイミングによっては設置されていないこともあります。新潟県上越市へ行った時、観光案内所で「高田城には顔はめパネルがあるよ」と聞いて向かったら、どこにもない、ということもありました。
―地元の情報なのに?
はい。観光案内所の従業員さんに総出で「あそこにあるかも?」「こっちにあるはず」と記憶をたどっていただいたのに……です。
僕も諦めきれないので、高田城内をあちこち探していたら、休憩所にブルーシートでぐるぐる巻きになった怪しい物体を発見して……シートの上から手で形をなぞってみたら、穴らしきものがある!と。
―—おおー! それは顔はめパネルですね!
―あと2日早ければ……。
もうこれはどうしようもない。作業員さんに、「ここは桜の名所だからまた春においで」と言ってもらえて、リベンジを誓いました。
ちなみに「ないと思ったら、ある」ってこともあるんですよ。僕は車の免許を持っていないので、旅行中は公共交通機関を利用するのですが、最寄り駅から目的地まで2キロ歩くことも。仕方ないので歩くのですが、そこで偶然見つけるんですよね。もう疲れを忘れて「あった〜!」と叫びながら駆け寄っちゃいます(笑)。

顔はめパネル探しって、恋愛に似ていると思うんです。いくら探しても見つからない日もあれば、運命の出会いをすることもある。好きな気持ちが強すぎても両思いにはなれるわけではないし、突然姿を表して片思いされてしまうこともあるんです。
―確かに「あるのに、ない。ないのに、ある」って恋愛映画のキャッチコピーにもなりそう(笑)。事前に情報収拾すればそんな苦労もないのでは? なんて思っちゃうのですが……。
自分のルールとして、ネットの情報は参考にしないようにしているんですよ。事前に探して見つけても、感動が薄れちゃう。地元の人や友人・知人からの情報提供のみ、受け入れるようにしています。
自分の直感で巡り合うのが楽しいんですよ! もう何年もやっていると、「この商店街怪しいな」とか「この角を曲がるとありそう」って嗅覚が働くようになりますから(笑)。
浅草は顔はめパネルの聖地? 楽しみ方を学ぶ
―ここからは実際に浅草を歩きながら、顔はめパネルの楽しみ方を教えていただきます。
浅草はお祭りも多くて、どこかラテン気質な街。商店街も多いので、いろんなところに顔はめパネルがあります。顔はめって陽気な気持ちじゃないとやらないですよね? 元気な街には、顔はめパネルが多いのかもしれません。
浅草は観光客も多いですし、陽気な気分にもさせてくれるので、「これまで顔はめをしたことない、恥ずかしくて避けてきた」なんて人にもおすすめです。
―どうやって探しているのでしょうか?
過去の記憶とニオイですね。
―ニオイ!?
うまくお伝えするのが難しいのですが、「なんかありそう」を感じるんですよね。商店街の軒先とか角を曲がってすぐとか……。

筆者にレクチャーしてくれる鎮目さん
ほらっ! ありました! まず大事なのは、この顔はめパネルにどんな顔が合うか? しっかりイメージすること。すぐ撮影するのではなく、どんな顔が合うか想像しましょう。

どんな表情がこの顔はめパネルには合っている……?
―鎮目さんのような変顔をするのは恥ずかしいのですが……。
では、顔はめパネルは世界最小のハリウッドだと思ってください。このパネルでどう演じるか? 主演俳優になったつもりで顔を作りましょう。
ただ変な顔をするのではなく、パネルになりきったのがこの顔なんです。穴の空いている部分が「悲しい顔」だろうと思ったら、「号泣」するくらいの顔にするといいマッチングになります。少し誇張したほうが顔はめ撮影にはちょうどいいですよ。

西参道商店街の顔はめパネル
―なるほど! ただ変な顔をすればいいと言うものではないんですね。今までなんとなくはめていたので反省しました。
正直、僕だって恥ずかしいですよ(笑)。ひとりで旅行している時は、現地の方に撮影をお願いしています。周りに女性しかいなくて「撮影してください」とお願いするのはなかなか勇気がいりますが、「はい、チーズ」の手前から誇張した顔をすると必ず笑ってくれます。
自分がテレビの世界にいたことも影響していると思うのですが、カメラで撮影される人はその世界を演じきらないと逆に恥ずかしいと思っちゃうんですよね。
日本だけじゃない! 世界に広がる顔はめパネルカルチャー
—たくさんの顔はめパネルを見てきましたが、これらは日本発祥なのでしょうか?
聞いた話なのですが、顔はめパネルの特許のようなものは19世紀アメリカで取られているんですよね。海外にもパネルはありますが、物量は圧倒的に日本が多いです。

ヨーロッパのイタリアにも顔はめパネルが。レオナルド・ダ・ヴィンチの故郷であるフィレンツェ(イタリア)には、たくさんモナ・リザがいるそう(提供写真)

韓国の弘大(ホンデ)にある「ラブ・ミュージアム」の顔はめパネル。残念ながら2023年4月に廃業(提供写真)
―海外にもあるとは! 日本の文化だと思っていたので意外な感じがしますね。
日本は多様な顔はめパネルを楽しめる国。都内なら浅草は至るところに顔はめパネルがありますし、鹿児島県には西郷隆盛さんのパネルが多くて、北海道の場合はなぜか小樽にたくさんあるんですよ。
妙にクオリティが高かったり、個人が作っていたり、顔はめパネルを通じて街を観察する楽しみもありますよ。ただ有名な観光地でもないところは、ない! それが面白いんです。

山梨県・石和源泉足湯ひろばの横の長さが11メートルもある顔はめパネル。一度に28人が撮影できる大型パネル(提供写真)

栃木県・宇都宮餃子会 来らっせ本店の石像のような餃子の顔はめパネル(提供写真)
―鎮目さんの写真の中には、1枚に鎮目さんが2人いるものも。どうやって撮影しているのですか?
これは無料の加工アプリ『LINE Camera』を使っています。それぞれの穴から撮影した写真を1枚に組み合わせるのですが、移動中の電車などで揺れに耐えながら加工するので大変です(笑)。2つくらいならいいですけど、最大20個の写真を加工したことがあって……。これはめちゃくちゃ苦労しました。

なんと20回も撮影して合成したというデビルマンに登場した敵役「ジンメン」の顔はめパネル(提供写真)
いつか『Le Kaohamé』を出版したい
―これからやってみたいことを教えてください。
世界中に顔はめパネルを増やしたいんですよね。撮影する人を増やしたいだけでなく、作る人も増やしていきたい。街で最初の顔はめパネルを作るって、勇気がいることだと思うんですよ。でも、その1枚があるだけで楽しい街になる。「作ったよ」とご報告いただければ、喜んではめにいきます!

―顔はめパネルがあるだけで街の歩き方も変わりますし、浅草巡りが本当に楽しかったです。
うれしいです。顔はめパネルって一粒で何度もおいしいんですよ。作る楽しさ、撮影する楽しさ、探す楽しさ、顔はめパネルを通じた出会い……。子どもからお年寄りまで誰もが楽しめるエンターテイメントだと思います。普段、変顔をしない人も「顔はめパネルなら……」と非日常感も味わえますし。顔はめを通じて、新しい視点で街を楽しめるはずです。
もうひとつ夢があって、いつか顔はめパネルの写真集を作ってみたいんです。叶うことならヨーロッパで販売したい。フランス語の冠詞をくっつけて、本のタイトルは『Le Kaohamé』ですかね(笑)。海外の方にも、日本の面白い文化のひとつとして発信していきたいと思います。


鎮目博道
テレビプロデューサー、顔はめパネル愛好家
1969年広島県生まれ。テレビ朝日のディレクターとして報道番組を多数担当。独立後はテレビ・YouTube・その他動画メディアを始めとする様々なメディアでのコンテンツ制作や執筆を行っている。2018年に「第1回顔はめパネルシンポジウム」を開催。これまではめたパネルの数は1000枚を超える。
HP:https://shizume.themedia.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/shizumeh/
取材・執筆:つるたちかこ 撮影:小野奈那子 編集:桒田萌(ノオト)

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