自分の心を導いてくれたのは、いつだって本の中の言葉だった。書評家・三宅香帆さんが「本を読むこと」を仕事にした理由
となりの偏愛LIFE

自分の心を導いてくれたのは、いつだって本の中の言葉だった。書評家・三宅香帆さんが「本を読むこと」を仕事にした理由

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日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探求している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第8回のゲストは、「書評家」として活動する三宅香帆さんです。


書評家として活躍する三宅さんは、本を心の拠り所としながら、自分の「好き」を軸にした生き方を実践しています。かなりの本好きとして知られる三宅さんですが、実は社会人になりたての頃には好きだったのに読めなくなった本があったのだとか。


三宅さんが自分の「好き」とどう向き合って書評家の道を選んだのか、そして読書をまっすぐに楽しみ続けられている秘訣について伺いました。

書評家の仕事を通して、「批評」へのイメージを変えたい

—書評家とは、どのような仕事なのでしょうか?

三宅

本の批評や解説、紹介をする仕事ですが、一言で表すならば「本の魅力を伝える仕事」です。例えば、本を読んで「面白かった」と感じたとき「この本は何で面白いのだろう」「次はどんな本を読んだらいいだろう」と悩むことはありませんか?


そんなときに本の面白さを解説したり、「こういう本もおすすめですよ」と次に読む本を紹介したりする存在が書評家だと思っています。

書評家の三宅香帆さん

なるほど、本のコンシェルジュみたいですね。

三宅

確かに! 本の解説者兼案内人のようなイメージだと分かりやすいかもしれませんね。私はもともと、書評家が書く批評を読むのが好きだったので、馴染みのある仕事ではありました。


批評を通して他の人の作品に対する解釈を知ることで、同じものを読んだはずなのに「こういう読み方があるんだ」という発見があって。その瞬間、世界の見え方が変わるのがすごく好きなんです。

—最近はドラマや漫画など、あらゆるコンテンツにおいて「考察」がブームとなっていますが、批評は考察とは別のものなんですか?

三宅

考察は、作者が仕掛けた謎を解くことだと思っています。ミステリー作品などが分かりやすい例ですね。一方、批評は作者も分かっていないような謎を解くことです。


私はよく書評を書く中で、面白かったシーンや気になったことについて言及するのですが、意外と作者にとっては無意識に描いてることが多くて。「なぜいつも、このようなキャラクターを描くのか」「なぜこういう舞台が多いのか」という問いに対して、自分なりの解釈で読み解いていくことが批評の楽しさですね。

—「批評」というと、どこか作品を評価したり、批判したりするイメージがあったので意外でした。作品をどう読み解くか、といった解釈の話なんですね。

三宅

やっぱり「批評」という言葉に対して、苦手意識を持っている方は多いですね。私にとって、批評は解説みたいなものなので、批評という言葉のイメージを変えていきたいなと思っているところです。

—三宅さんは著書である『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、好きを言語化するための文章術を発信していますよね。それはやはり、もっといろいろな人が作品に対する批評を発信できるようにしたいという思いがあるんですか?

三宅

そうですね。私が文章を書くときのモチベーションには「この本を読んでくれる人が増えたら、本の話をできる人が増えるかも」という気持ちがありまして。いろいろな人の批評を読みたいから、そのために本について話せる人を増やしたい、という感覚ですね。

大量の本が収蔵されている三宅さんの自宅の本棚(ごく一部)

本の話を共有できず、孤独を感じていた頃の自分に向けて書いている

—子どもの頃から、他の人と本の感想を共有し合うことが多かったんですか?

三宅

それが、そんなことはないんです。私が読書にハマり始めたのは、小学校高学年から中学生くらいなんですけど、中学校に上がると一般小説を読む人が一気に減ってしまって。みんな漫画かライトノベルを読むようになりました。


私も漫画やライトノベルは読んでいましたが、それよりも有川浩さんや恩田陸さん、伊坂幸太郎さんなどの小説を読む方が楽しくて。当時はその楽しさを共有できる人があまりいなくて、孤独感もありましたね。


自分と同じくらい本を読んでいる人たちと初めて出会えたのは、大学で文学部に進学してからです。

—その頃には、もう書評家の道は考えていたんですか?

三宅

いえ、大学も国文学の勉強がしたくて入っただけでしたし、「書評家になろう」と思っていたわけではなかったんです。


きっかけは、院生時代にアルバイトしていた書店のブログでした。そのブログ上で本の紹介をする記事を書いたところ、バズってたくさんの人に読まれたんです。そしたら出版社から「その記事をもとに本をつくりませんか」と連絡が届き、書評の本を出すことになりました。

—それが最初の著書『人生を狂わす名著50』(ライツ社)ですね。

三宅

もともと「本に関わる仕事」をしたいとは思っていたんです。ただ、どういう形が自分に合っているのかが分からなくて、大学時代は本に関わる仕事をするための手段を探す時間でもありましたね。図書館や出版社、大学院に残って古典の研究者になるなど、いくつか道を考えていたものの、どれも決め手に欠けていて……。


でも、1冊目の本を出したときに「書評だったら、自分が一番好きな『本を読むこと』がそのまま仕事になるんだ」と気付いて、副業OKの会社で兼業として書評の仕事をすることを選びました。当時は「こういう道もあったんだ」とすごく安心した記憶があります。

書評家への一歩を踏み出すきっかけとなった初著書『人生を狂わす名著50』。全国の書店員から「書評の概念が変わった一冊」「こんな私小説みたいな書評は初めて」と数多くの声が寄せられた

—書評家の批評が好きだったと言ってましたもんね。過去が未来へと接続した感じがあります。

三宅

中高時代、書評の本やインターネットで読む知らない人の読書ブログを通して、本の感想や解釈などを共有してもらっていたんです。


だから書評家として活動している今は、本の話ができず孤独を感じていた中高時代の自分のような人に向けて、文章を書いている気がします。私の本を読むことで、孤独じゃないと感じてほしい、と言ったら少しおこがましいかもしれませんけど。

自分の気持ちを言語化してきたのは、いつだって本の中の言葉だった

—大人になるにつれて、好きなことを好きでい続けることは難しいと感じる機会が増えました。三宅さんは本を好きでいるために、何か意識したことはありますか?

三宅

それこそ就活をしていたとき、「頑張らないと本を好きでい続けることはできないだろう」と思ったことがありまして。私の場合は「大人になっても本を好きでいるために、本を読むことを仕事にした」に尽きますね。書評家になったら、周囲から「本をよく読む人」というイメージを持たれますよね。今でも本を読み続けられている理由としては、それが大きい気がします。


忙しくて本が読めなくなったという人は多いと思いますが、私の場合は忙しくとも「これが仕事だし」と本を読む言い訳が常にあるので。

逆に「頑張って」でも本を好きでい続けようと思えた原動力は何だったんですか?

三宅

昔から悩みがあっても人に相談することがなくて、その代わりに本を読んでいました。いつも本の中で出合う他者の言葉によって、自分の気持ちを言語化してきたんですよね。


作者と読者が一対一で向き合えることが、本の良さだと思っていて。本を通して誰かと繋がって、自分の世界の解像度が上がる瞬間を大事にしたいと思ったんです。

本を読みたいけど読めない人こそ、まずは書店へ

―「最近本を読めてない」という人が、また読書を楽しむために効果的な方法はありますか?

三宅

即効性が期待できるのは、書店に行くことですね。書店の何が良いかと言うと、ジャンルごとに棚が分かれていること。「昔、このジャンルをよく読んでたな」「読みたい本があったんだよな」などと思い出して、好奇心や本を読む気力が戻ってくるかもしれません。

―本を読むことを習慣づけるためのコツはありますか?

三宅

私はスマホに電子書籍アプリを入れることをおすすめしてますね。タイムラインをすべて眺めたはずなのに、意味もなくSNSをだらだらと見てしまう時間ってありませんか?


そういうときに、とりあえず電子書籍アプリを開く習慣をつけると、本を読む感覚が思い出しやすいです。

—なかなか気乗りしない作業とかも同じですよね。取り掛かり始めれば、意外と進められるというか。

三宅

あとは、本を読むために喫茶店に行くのも良いですね。近所に空いている喫茶店があれば、帰りに寄って本をぼんやり読むとか。本を読むために喫茶店で過ごすと決めていればスイッチが入りやすいですし、会社でもなく家でもないという空間がいつもとは異なるリラックス状態をつくってくれると思います。

今回の取材は、三宅さんがよく立ち寄るという「ジュンク堂書店 池袋本店」内のカフェで実施。「書店に行く」と「喫茶店に行く」という2つの習慣に結びつくスポットである

本と人間関係は同じ。疎遠になってもまた巡り会える

—社会人になると、本を読む時間がとれないという声をよく聞きますが、三宅さんは本が読めなくなった経験はありますか?

三宅

読書ができなくなったというより、特定のジャンルの本が読めなくなった経験はあります。会社員時代に古典や海外翻訳の本が読めなくなって、自分でも驚きました。社会人になると、自分の文脈から離れたものに時間を使うことが難しくなるのかもしれないですね。

—自分の文脈、ですか?

三宅

例えば、仕事に関係するものや、自分の生活に関係があるものですね。自分の文脈上のものであれば、むしろ解像度が上がって、取り組みやすくなると思います。一方で、自分の文脈から離れるものだと、「それに時間を使っていいのかな」と消極的になってしまうのかなと。

2024年4月に上梓された『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)。本書では労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿っている

—なるほど。社会人になると、人生の中での仕事の比重が一気に高まり、どうしても仕事を中心とした考え方になってしまう人が多い気がします。

三宅

ただ、私の場合はその変化も楽しんでいましたね。会社に入ったら、読める本が増えるかなとか。実際、社会人になると忙しくなって使える時間は減るんですけど、ビジネス本に関しては読みやすくなりました。


同じように、結婚や出産を経験することで、読める本が増えそうだなとか、環境や出来事によって読める本のジャンルが増えていくことにワクワクしてしまいます(笑)。

—そういうふうに考えると、昔好きだったジャンルの本が読めなくなることに不安を感じにくくなりそうです。

三宅

人生を長期的に見たら、読める本は増えているのかもしれないですね。私も会社を辞めたらまた古典や海外翻訳の本が読めるようになりましたから。


本の一番良いところは、いつでも読めることです。映画のように上映期間が決まっていたり、芸能人のようにあるとき急に引退・卒業したりもしない。だから、そのときの自分の文脈に合わせて、無理せず本を読んでいったらいいと思うんです。人間関係と同じです。一時期だけ疎遠になることがあっても、また巡り合うときはきっと来ますから。

PROFILE
川村健一

三宅香帆(みやけ かほ)

書評家

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院在学中に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)にてデビュー。卒業後はIT企業との兼業を経て、2022年に独立。最新の著書に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)


X:https://twitter.com/m3_myk

CREDIT

ライター:早川大輝 撮影:栃久保誠 撮影協力:ジュンク堂書店 池袋本店(MJブックカフェ) 編集:野阪拓海(ノオト)

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★★★★☆

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PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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