親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探求している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第22回のゲストは、カラーコーンの魅力を発信し続けている“日常探検家”おかだゆかさんです。
街で毎日のように見かけるカラーコーンを好きになり、感情移入しているというおかださん。インタビュー中は「カラーコーンと対話する」「カラーコーンの様子を見に行く」など、ちょっぴり不思議な言葉が飛び交いましたが、彼女の想いを聞くうちに、カラーコーンに偏愛を注ぐ楽しさが見えてきました。
加えて、カラーコーンの魅力を啓蒙するための秘訣や人並み外れた努力についても教えてくれたおかださん。キーワードは「新しい視点を持つ」です。
「カラーコーンって感情移入しやすい」と気づく
―カラーコーンに魅了されたきっかけを教えてください。
おかだ
美術大学に通っていた2012年に、授業で「ルールを決めて、なにか写真を撮り、それにタイトルをつけてTwitterに投稿しましょう」という課題があったんです。そこで「毎日できたほうがいいから、通学の行き帰りに撮れるものでやってみよう」と、カラーコーンを撮るようになりました。
そしたら、「カラーコーンっていっぱいある。そして、感情移入しやすい」ということに気づいたんです。たとえば、傾いているカラーコーンを見て「がんばっているな」とか、前日には右にあったのに今日は左にカラーコーンが動いていると「必死に動いてきたのかも!」と思ったり(笑)。
そこから「このカラーコーンはなんて言っているのかな?」と考えるようになって、「がんばっているよ」などタイトルをつけて発信するようになりました。

日常探検家・おかだゆかさん
―おかださんが感情移入するだけでなく、カラーコーンの感情も読み取るようになったんですね。
おかだ
でも、次第に「私の側が『がんばっている』と思っているから、カラーコーンがそう言っているように感じるんだ」ということに気づいて、衝撃を受けたんです。まあ、当たり前のことなんですが(笑)。自分の見方次第でがんばっているように見えたり、元気がないように見えたり、カラーコーンの言っている内容が違って聞こえると気づいた瞬間、「おもしろい!」と思いました。
たとえば、このカラーコーンは「白と黄色でそれぞれの意見を持っているけど、なんとかわかり合おうとしているな」と感情移入できます。

おかだ
あと、これは赤坂で見たカラーコーン。

—うわ! これは同情してしまいますね……。
おかだ
これは2年前に撮ったんですが、最近会いに行ったらまだ赤坂にいたんです。そもそも、カラーコーンはなにかの目的で人が置いたものなので、その場にずっといるパターンが多いんですね。その結果、こんなに朽ち果てたり……という物語も見られるので、その街に行くと「あのカラーコーン、今どうしているかな?」と定点観察することもあります。
カラーコーンが浮かべている表情を見てほしい
―おかださんのカラーコーンに対する偏愛はSNSの投稿から始まりましたが、今はどんな活動をしていますか?
基本的には日常で会った好きなカラーコーンを写真に撮り、タイトルをつけてSNSに投稿しています。そして、ときにはペイントを使って顔をつけます。
―なぜ顔をつけているんですか?
私にはカラーコーンの表情が見えるんですけど、カラーコーンに感情移入し慣れていない方だと「どう思っているかわからない」ということもあるじゃないですか? だから、こんなふうにコップが上に乗っかっているカラーコーンに表情を描きました。「水分補給は大事だね」って。

あと、これは「お腹に力を入れて、まっすぐ前を向く」という感じで目をつけています。

―このカラーコーン、がんばってますね!
これは、表参道駅内にあったカラーコーンです。乗り換えするたびに「今日も姿勢をピンとさせてがんばっているな」と思っていたんですが、最近行ってみたらもういなくなっちゃっていたんです。テープで固定されていたので、動くことはないと思っていたんですけど……。
―推しは推せるときに推せ、という感じですね。
本当、そうだと思います(笑)。
撮影のときは絶対に触らないと決めています。誰かが置いたまま朽ち果てていたり、テープでぐるぐる巻きになっていたり、カラーコーンには置いた人の意志があるからです。つまり、もとからカラーコーンには表情があるので、後からシチュエーションをつくらなくてもいいんです。
―おかださんの投稿を見ていたら、我々もカラーコーンの表情が見えてきそうです。
最近は私のほうも“表情が見えてほしい欲”が強くなってきまして。昨年は、広島市内の横川で開催された、横川まちの芸術祭×広島市立大学の「いちだい地域共創プロジェクト」関連プログラムで、子どもたち向けにワークショップを実施しました。

2024年に横川まちの芸術祭×広島市立大学の「いちだい地域共創プロジェクト」関連プログラムで実施した「日常探検LABO〜カラーコーンから街を見てみよう!工作&まち探検編〜」資料
―「日常探検LABO」という名前がいいですね。おかださんの肩書にも入っている「日常探検」には、どんな思いが込められているんですか?
日々生活していると、毎日に追われて、夕焼けがきれいなことや植物の鮮やかさなど身の回りの素晴らしさを見落としがちです。だからこそ、ワクワクを見つけていきたいと思い、「日常探検」と名付けました。
このワークショップでは、まず、「新しい視点でカラーコーンが見えるようになるよ」と、参加者が作った眼鏡をかけてもらいました。新しい視点を持つおもしろさを伝えたかったんです。その状態で1時間くらい歩き、「カラーコーンMAP」というものを作りました。
そしたらみんな、カラーコーンがどんどん見えるようになっていって、すごくおもしろかった。遠くを指さして、「あそこにもカラーコーンがあるよ!」なんて教えてくれたり。それに、対象が同じものなのに、「このカラーコーンはなにを言っている」という受け取り方がそれぞれの子どもたちでまったく違ったんです。
―おかださんの見え方を当てはめるのではなく、それぞれの新しい目線が生まれたんですね。
はい。カラーコーンを好きになったばかりの頃、勝手に私は「みんな、同じように見えているはず」と思っていました。でも、だんだん「人によって見え方が違うんだな」と、カラーコーンから教えられてきたと思います。


街歩きの様子(画像提供:おかだゆかさん)
日常を探検しながら、カラーコーンの背後にある人や街の情報を想像する
—カラーコーンの魅力として、特にどんなことが挙げられますか?
日常の近くにいるということです。用途がたくさんあるものなので、気づいていないけど、ただ街を歩くだけでもカラーコーンは身近にあふれています。だから、どこに行っても毎日楽しめると思います。
特に、役に立っていない“疲れている系”のカラーコーンがいいですね(笑)。たとえば、こういうボロボロで朽ち果てている感じです。

まだ首の皮一枚残っているし、よく見ると近くに吸い殻が落ちています。こんな状態は、“がんばってるな感”が強くていいなと思います。
あとは、代官山に憧れているカラーコーンがあって。高さが180cmもあるんです。

—大きい! 高い!
これは、ある会社が置いたカラーコーンなんですが、建物のルール上、看板が置けなかったのでその代わりにカラーコーンを置いたそうです。
最近また見に行ってみたら、このカラーコーンのとなりに、小さいカラーコーンがいたんですよ。まるで親子みたいで。私にも子どもが生まれたので、自分を重ね合わせて勝手に感動してしまいました(笑)。

カラーコーンには所有者が絶対にいるので、一つひとつのカラーコーンから人や会社や街の情報が想像できます。だから、「感情移入する」という楽しみ方はあくまで私のやり方で、「誰がなんのために置いたのかな?」と分析したり、定点観察してみたり、やり方はさまざまで正解はないと思います。
“伝える力”を強化するためにPRの会社に就職
—日常での遭遇だけでなく、「あそこにおもしろいカラーコーンがある」と情報収集したうえで見に行くことはありますか?
基本的には、日常のなかで出会うカラーコーンを愛でています。でも、友だちが「このカラーコーン、いいよ」と連絡をくれることはあります。カラーコーンには製品ごとの特徴があまりなく、教えてくれたカラーコーンがすごく貴重ということはなかなかないのですが、連絡をくれたこと自体がうれしいです。
私は大学時代にカラーコーンを好きになり、その頃はどちらかというと“変な人”と思われていました。カラーコーンの魅力を周りに話しても「そうかな?」みたいな反応が多かったので、どうやって伝えればカラーコーンを見る視点を持ってもらえるかを考えるようになったんです。
たとえば、大学の卒業制作ではカラーコーンを使った作品を出展しました。カラーコーンの魅力を伝えようと思ったら、もう作るしかないじゃないですか(笑)。そういった私の作品として、2014年には「六本木アートナイト」というイベントで六本木ヒルズやドン・キホーテの前にさまざまなカラーコーンを設置しました。たとえば、赤に光ると怒った顔になる……という感じで、表情が変わるカラーコーンです。


展示の様子(画像提供:おかだゆかさん)
—かわいい……。
でも、この頃は「カラーコーンを見る視点のおもしろさ」を自分のなかで分解できていなかったので、「カラーコーンはすごいですよ!」という思いだけで突っ走っていた気がします。
でも、「どうも、カラーコーンの魅力が伝わっていないな」と気づき、伝える力を強化するために大学卒業後はPRの会社に就職しました。
―カラーコーンの魅力を伝えるために!?
最終面接の日は、たまたまカラーコーンを持っていかないといけない別の用事があって、仕方なくカラーコーン片手に面接に行きました。同期の子たちの間では、「なんか、カラーコーンを持ってきた人がいるらしい」と噂になっていたみたいです(笑)。
―そんなふうに伝える力を身につけた今、カラーコーンの発信をする際に意識していることはありますか?
「カラーコーンってめっちゃいいよ!」と、強い熱量で伝えすぎないことです。「カラーコーンに感情移入するとおもしろい!」と強く訴えても、「うん、そうだよね」と共感を得ることはなかなか難しかった。
だから、「日常には意外にカラーコーンが置いてありますよ」など基礎のところから伝えていき、それに対して「変だな」という反応ではなく「おもしろそうだな」と思ってくれた人に「じゃあ、こういう見方もありますよ」と伝えるようにしています。
「推しが街中にいる」という状態になる

取材の後半は、街に出てカラーコーンを探しながら取材を行った
―カラーコーンを偏愛して、良かったことはありますか?
仕事からの帰り道に「カラーコーンに会えるかな」と思っていると、やっぱりカラーコーンに会えるんです(笑)。そんなふうに、街なかで共感できるものがいる生活はすごくいいですよね。
でも、ときには、カラーコーンに興味がなくなることもあります。そういうときは、仕事や日常生活のいろいろなことで自分がキャパオーバーになっている状態なんです。
―なるほど、バロメーターになる。
はい。心の余裕がないと、通勤路の途中で「カラーコーンはいるかな?」という意識になるのは難しいです。でも、子どもたちと一緒にいると「飛行機が飛んでる!」「カラスが鳴いてる!」と教えてくれますよね? それって、私たちが忘れてしまいがちな視点だし、カラーコーンを見る視点と似ていると思います。情報過多な時代だからこそ、毎日遭遇するものを意識的に見るのはいいことなんじゃないかと思います。

「一番左のポールだけ、きれいですね」とおかださん。気が付かなかった……!
あと、SNSでカラーコーンの投稿をし始めたとき、実は自分の気持ちをカラーコーンに乗せて発信していました。すると、「こういうことを考えているんだね」とフォロワーの友だちに真意が伝わっていたんです。振り返ると、あの頃は自分の気持ちを伝えるために投稿していた気がします。
そんなつながりが、今は友だちだけでなく知らない人や街にまで広がっていった。だから、私はXのアカウントを「からーこーんから」という名前にしました。カラーコーンからつながっていく“コーンミュニケーション”という意味です。

あっ……! 「こういうのが一番好き」とおかださんはニコリ
―この記事を読んで、カラーコーンに興味を持つ人がいるかもしれません。その人たちのために、カラーコーンを楽しむコツを教えてください。
今まではカラーコーンに目がいっていなかったと思うので、まずはカラーコーンを気にしてみることが必要だと思います。カラーコーンを見る眼鏡をかけるような感じですね。あとは、「出会いは一期一会」と思いながら歩くのも大事です。
そして、自分が「いい!」と思ったものは絶対にいいカラーコーンなので自信を持ってください(笑)。
―カラーコーンは他人のものさしが関係ない世界ですからね。
別に「このカラーコーンはどこどこのメーカー製だ」という楽しみ方でなくとも、ただ感情移入して見るだけで楽しいはずです。カラーコーンに向き合い、「今日はどうだい?」という感じで接するだけでいいので、ハードルは低いです。そして、この視点を持てば「推しが街なかにいる」という状態になります(笑)。
ただ、私自身はカラーコーンを知ってもらいたい以上に「生活のなかで新しい視点を持つとおもしろいよ」ということを伝えたいと思っています。そのきっかけが、私はたまたまカラーコーンでした。でも、もし皆さんが違うものを観察するなかで「なんか、気になるな」という気持ちになったなら、きっといつしか「あれ? 毎日が楽しい」という生活になっていると思います。

最後に、「がんばっている」カラーコーンとパシャリ
※「カラーコーン」はセフテック株式会社の登録商標ですが、記事内では一般的な呼称として使用しています。
取材・執筆:寺西ジャジューカ 撮影:栃久保誠 編集:モリヤワオン(ノオト)

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