業界の危機を知って始動! 日本で唯一のそうめん研究家・ソーメン二郎さんが奔走するそうめんの復権活動
となりの偏愛LIFE

業界の危機を知って始動! 日本で唯一のそうめん研究家・ソーメン二郎さんが奔走するそうめんの復権活動

#カルチャー #キャリア

日々をいきいきと過ごしている人=さまざまな「好き」を探求している人にお話をうかがう連載企画「となりの偏愛LIFE」。第25回のゲストは、そうめん研究家・ソーメン二郎さんです。


日本で唯一のそうめん研究家として、歴史から美味しい食べ方まで、そうめんの知識を幅広く持つソーメン二郎さん。研究活動に勤しむかたわら、実は、イベントの企画などを行うイベントプロデューサーとしても活躍しています。


そうめん研究家・ソーメン二郎が誕生した理由は一つではないようです。親戚が奈良県でそうめんの製麺所を営んでいるという彼のルーツ、ふとよぎった「専門家になりたい」という願望、そうめん業界を取り巻く現状……。


加えて、今回は「そうめん研究家」の立場から忖度なしにそうめんの未来について語っていただきました。愛と冷静さを兼ね備えたソーメン二郎さんの研究報告に注目です。

そうめん業界の危機を知り、「ソーメン二郎」を名乗るように

普段はイベントプロデューサーとして活動しているにもかかわらず、そうめん研究家になったきっかけを教えてください。

ソーメン二郎

イベントプロデューサーを20年ぐらいやってきて、イベントを通じて経済評論家や軍事評論家などさまざまな専門家の人たちと仕事をしてきました。そんななか、「自分がもしなるとしたら、なんの専門家なんだろう?」とぼんやり考えるようになったんです。


で、僕は親戚が奈良県の三輪そうめん屋なので、そうめんについて調べていくことにしました。そうしたら、そうめん業界は絶滅危機のような状況に陥っていることを知って。


生産している職人の多くは70~80代と高齢化していて、跡を継ぐ人がいなければ廃業なわけです。実際、ここ10年で手延べそうめん製麺所はどんどんなくなっています。そこで、「そうめん業界をバックアップするポジションだったら、東京にいる自分でもできるな」と思い立ったんです。2014年のことでした。


そんな気持ちを友人の編集者に打ち明けると、翌日には記事を書いてくれていました。そこで「専門家を名乗るなら名前を考えないと」という話になり、「じゃあ、『ラーメン二郎』ならぬ『ソーメン二郎』にしよう」と。

そうめん研究家・ソーメン二郎さん

ソーメン二郎が誕生した後、具体的にどんな活動をしていきましたか?

ソーメン二郎

まず、SNSやブログでそうめんのレシピや歴史的な話、製麺所を訪ねたリポートなどを発信し始めました。そうしたら、すぐに全国のテレビやラジオから出演依頼が寄せられました。活動の一年目から『あさイチ』(NHK)や『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ)などに立て続けに出させてもらい、多い年は夏だけで77本のテレビとラジオに出演しました。一日にテレビで自分を4回見るような状況になって、「これは想像以上にすごいな」と。


それから、レシピ本を出したり、ミツカンさんの新商品であるめんつゆのプロモーションでご一緒したり、いろんなお話を一気にもらうようになりました。だから、今はソーメン二郎に食わせてもらっている感じです(笑)。


見渡すと、料理研究家の人はたくさんいるのですが、僕の競合みたいな人はいないんです。そうめんのゆで方や歴史的な背景の話って、誰もしていないんですね。製麺所の職人さんもいるけど、その人たちがメディアでそうめんを語ると自分の製麺所の宣伝に聞こえてしまいますから。

ああ、たしかに。

ソーメン二郎

だから、僕はメディア側にとってもちょうど良い塩梅のおじさんなんだと思います。そうめんの話はもちろん、イベントプロデューサーとしての経験を活かして仕切りまで全部1人でできるので、そこにニーズがあったみたいです。

100年後もそうめん文化が続くかといったらクエスチョン

頻繁にメディアで取り上げられるラーメンやそばほど“そうめん好き”を公言する人は少ない印象です。なにか、理由はあるのでしょうか?

ソーメン二郎

基本的にそうめんは大衆家庭料理なので、人の家に行かないと実態がわかりません。すごく、表に見えにくい食文化なんです。


また、外食としての専門店が東京にはほとんどないんですね。現時点(2025年6月)では10店舗くらいでしょうか。東京はそば文化なのもあり、そもそもそうめんの製麺所がない。だから、おいしいそうめんの存在を知らない人も多いんです。


一方、地方に行くと、製麺所の近くにはそうめん屋さんが軒を連ねています。僕が生まれた奈良県・桜井駅の近くにはそうめん屋さんが30軒ぐらいありますね。関西の人たち、とくに奈良県から西の人はみんな、幼い頃から三輪そうめん、揖保乃糸(いぼのいと)、小豆島そうめん、島原そうめんなど、おいしいそうめんを食べていますよ。

今後、そうめん文化はどうなっていくと予想していますか?

ソーメン二郎

ぶっちゃけ、100年続くかといったらクエスチョンです。さっき言ったように職人さんの高齢化、プラス跡継ぎがいないという問題がある。日本の若い人の人口も減っていますからね。


実は、そうめんの製麺所って冬しか稼働しないんです。冬は冷たく乾燥した空気がそうめんの水分を飛ばしてくれるため、コシの強い麺をつくることができます。一方、夏は湿度が高くてそうめんづくりに適していない。つまり、そうめんがほとんど夏しか販売されないのは、11~2月の時点で夏に売る分のそうめんをつくっているからです。あらかじめ、夏に売り切るそうめんの量は決まっており、収入は当然少ないので、兼業で農業をやっている方も多いです。

そうなんですか!

ソーメン二郎

今では日本人のなり手がいないので、外国の方々が技能実習生として働いているという話もあります。寮をつくって、バスの送迎をして、お金もめちゃくちゃかかっている。でも、人がいないからやらざるを得ないんです。


今、ひやむぎはほとんど流通していませんが、50年後はそうめんもそうなっている可能性があるかもしれませんね。

「ちなみに、そうめんは太さが直径1.3mm以下、ひやむぎは1.3〜1.7mm、それ以上になると、うどん。原材料はいずれも小麦粉・塩・水のみです」とソーメン二郎さん

そうならないためにも、この記事ではそうめんの良さを発信できればいいなと思っています。改めて、どんなところがそうめんの魅力でしょう?

ソーメン二郎

実はそうめんって、すごく伝統的な食べものなんですね。三輪そうめんには1200年の歴史があります。もともとは宮中で貴族が食べていたもので、鎌倉時代や室町時代は天皇陛下への献上品でした。


その後、豊臣秀吉が姫路城に入った頃にそうめんを食べたそうです。そして、「こんなおいしいものは皆さんも食べなさい!」……と言ったかどうかはわかりませんけど(笑)、秀吉が市民にそうめんを解放しました。それが、のちの揖保乃糸(いぼのいと)。このような経緯で大衆的な存在になったそうめんですが、もともとは高級料理だったんです。


あと、アトラクションとして楽しむこともできます。ラーメンもそばも流さないけど、どういうわけか流しそうめんだけは存在する。これについて研究してみたところ、「近代以前の沖縄地域で流しそうめんをしていた」と書かれている文献を発見しました。


薩摩藩のお役人たちが侵略の目的で沖縄に来て、戦争が起こりそうな状況になったけれど、そこで琉球王朝側が薩摩の人たちをおもてなししたんです。それが、実は流しそうめんだった。

接待で、流しそうめんを行っていた!

ソーメン二郎

日本には「水に流す」という文化があるから、そうめんを通じて仲良くなったと言えるかもしれませんね。コミュニケーションツールとしての魅力は、そうめんが持つ一番すごいところだなと思います。

そうめんのおいしいつくり方とNG行為

そうめん文化の裏側や歴史をうかがって、もっとそうめんを楽しんでみたくなりました。そうめんをおいしく食べるコツがあれば、教えてください。

ソーメン二郎

そうめんは1束50gなので、それに対して×10倍ぐらいのお湯を用意してください。つまり、3束は150gなのでお湯は1.5リットルです。


大きめのゆったりした鍋にたっぷりのお湯が沸騰しているところへ、そうめんを入れる。その後、かき混ぜたりする人が多いですが、その必要はありません。お湯を沸かしたら、そうめんは対流するお湯に乗って自然に回っていくので。

それは、水量が多いから?

ソーメン二郎

そう。水量が少ないとそうめんが寝たままくっついてる状態になり、ゆでムラが起こります。


パッケージにはだいたい「ゆで時間・2分」と書いてあります。その時間でゆがくと、小麦のでんぷんとグルテンの化学反応がちょうどおいしい塩梅になるんです。


そして、ざるに麺をあける。そうめんは製造工程で植物系の油が使われているから、ここで油を落としてほしいんです。水を流しながら麺をゴシゴシもみ洗いして、ぬめりを全部とってください。


その後は氷水でしめてから、ギュッと絞って水分をぐーっと押し出します。そして、麺をざるやお皿に乗せて食べる。めんつゆもしっかり冷やしておくとベターです。


これだけで「うわ、今までと全然違う!」という感じになります。

たったこれだけで、そんなに違うんですか! 逆に、「これはやっちゃダメ」というNG行為はありますか?

ソーメン二郎

ゆでたとき、白い泡が吹きこぼれるじゃないですか? そのとき、みんなびっくり水(差し水)をして抑えるけど、あれが1番やっちゃだめです。


昭和初期にかまどで小豆をつくっていた頃、かまどでは温度調節できないから吹きこぼれたら水をかけるしか対応法はありませんでした。びっくり水は、その時代の名残。でも、今は吹きこぼれたら火をちょっと緩めればいいだけですから。

ガスコンロは調整できますもんね。

ソーメン二郎

びっくり水を入れてしまうと、お湯の温度が急激に下がります。そうすると、でんぷんとグルテンの化学反応がマックスになるはずが、ゼロになっちゃうんです。おいしさに到達しなくなる。そうめんからすると「びっくりするのは俺のほうだよ!」と(笑)。だから、びっくり水は入れないでください。

ソーメン二郎が選ぶ“絶品そうめん”5選

ソーメン二郎さんおすすめのそうめんがあれば教えてください。

ソーメン二郎

そう言われると思って、めずらしいやつを持ってきました!

ソーメン二郎

まず、奈良県桜井市の三輪山勝製麺さんがつくっている『手延タイガース麺』。阪神百貨店に卸しているもので、阪神タイガースのチームカラーである黄色と黒をつけています。でも、決してただのおもしろそうめんというわけではなく、油を使っていないという特徴があります。


そうめんを伸ばすときに麺と麺がくっついちゃうと作業しにくいので、普通は麺に油を塗ります。でも、乾燥させると酸化臭が残ってしまう。そうめんのパッケージを開けると、ツーンとしたにおいがするじゃないですか? 実は、小麦のにおいではなく油が酸化したにおい。酸化した油ほどおいしくないものはありません。

―てっきり、小麦のにおいだと勘違いしていました(笑)。

ソーメン二郎

さっき「もみ洗いしてください」と言ったのは、その油のぬめりを取るためです。でも、『手延タイガース麺』はくず粉をまぶして、めんが滑るようにつくっているので、おいしさがとんでもなく違ってくるんですね。

ソーメン二郎

続いては、これも三輪山勝製麺さんがつくっている『平そうめん』。江戸時代に奈良県の郡山で最初につくられたのが、平麺のそうめんで、「平らになるだけでこんなにおいしく感じるの!?」というくらいほかの麺とは食感が違います。「平たい麺ってすごくおいしいな」ということで、『平そうめん』は生まれました。


こちらも製造工程で油ではなく葛粉を使っているため光沢があり、小麦本来の風味が味わえます。

ソーメン二郎

次は、『ケンカしないそうめん』。愛媛の五色そうめんの子ども用につくられたもので、ピンク色は梅、緑色は抹茶、白は普通の味です。四国・松山に行くと、魚の鯛を煮た汁で食べる「鯛そうめん」が有名ですが、そのつくり方でこのそうめんを食べるとすごくおいしい。

ソーメン二郎

これは宮城の白石温麺(うーめん)のハーフサイズです。普通のそうめんは長さ19cmですが、これは半分の9cmで、ちょっと太め。これも油は使われていなくて、短いサイズだから喉越しがいいです。つるんと入って、すごくヘルシー。あんをかけて野菜を入れて食べるのがスタンダードです。

―絶対、おいしい!

ソーメン二郎

最後の『中華そうめん』は僕がプロモーションをお手伝いしているもので、小諸そばを作っている星野物産さんのそうめんです。かんすいを使ったコシのある細い中華麺で、食感はそうめんに近いです。


普通のそうめんのように食べてもいいし、豚骨スープに入れて食べるだけでもおいしいです。

「日本ソーメン学会」略して「そ学会」を設立

最後に、そうめん文化を盛り上げるために、新たに取り組もうとしていることがあれば聞かせてください。

ソーメン二郎

今、一番やりたいのは海外に向けてそうめん文化を伝えていく活動。あと、国内に手延べの製麺所が900軒あるので、そこをなるべく多く回ってサポートしていきたいです。


加えて、2025年5月末に「日本ソーメン学会」略して「そ学会」をつくりました。僕が「そうめん文化考」の講義をしている文教大学国際学部の先生と一緒に立ち上げた機関で、そこでは「ソーメン検定」を実施したり、そうめん業界の人たちをつないで論文を書いたり、研究発表の場にしていこうと思います。

イベントプロデューサー、そうめん研究家に続き、また肩書きが増えますか!

ソーメン二郎

はい。これからは「そ学会会長」にもなります(笑)。

PROFILE

ソーメン二郎

そうめん研究家

そうめん発祥の地と言われる奈良県桜井市出身。本家が三輪そうめん製麺所の家系で、生まれたときからそうめんと深い関わりを持つ。そうめん食文化の復興のために、メディアを通じてそうめんの魅力を発信中。著者に『ラク旨!無限そうめんレシピ』(扶桑社)。「テリー植田」の名前で、イベントプロデューサーとしても活動中。


ブログ「ソーメン二郎のそうめん道」:https://plaza.rakuten.co.jp/somen26/

ウェブサイト「そ道」:https://somenjiro.com/

日本ソーメン学会:https://somenlove.com/

CREDIT

取材・執筆:寺西ジャジューカ 撮影:栃久保誠 編集:モリヤワオン(ノオト)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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