「ゲーム」よりも「人」が楽しい。住職×ボードゲームジャーナリストの小野卓也さんが語る、ボードゲームにしかない魅力
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「ゲーム」よりも「人」が楽しい。住職×ボードゲームジャーナリストの小野卓也さんが語る、ボードゲームにしかない魅力

#アイデア・工夫 #カルチャー #ライフスタイル #仕事・働き方 #家族・友達 #趣味・遊び

山形県長井市にある曹洞宗・洞松寺の33代目住職でありながら、日本で唯一の「ボードゲームジャーナリスト」として活躍する小野卓也さん。1996年から世界のボードゲーム情報サイト「Table Games in the World」を運営し、住職のお務めの合間を縫いながら毎日記事を更新しています。


暇つぶしとして遊んでいた学生時代から、ボードゲームジャーナリストを名乗る現在までの約30年間、ボードゲーム熱が冷めることはありませんでした。その背景には、「ゲーム」から「人」に対する楽しさへのシフトチェンジがあったと言います。一体それはどういう意味なのでしょうか?


今回は小野さんにボードゲームの思い出や魅力、住職・ジャーナリストの二足のわらじでの働き方などをうかがい、「好き」を探求し続けるためのヒントを探りました。

「ボードゲームジャーナリスト」と「住職」 異色の二足のわらじを履く小野さんの生活

—小野さんは「ボードゲームジャーナリスト」というあまり聞き馴染みのない肩書きをお持ちですが、そう名乗ったきっかけは何だったのでしょうか?

小野

2002年にドイツのボードゲームイベントの取材に行った時に、ジャーナリストとして取材許可証を申請したことがきっかけです。


当時、趣味のウェブサイトでボードゲームの情報発信をしていたところ、ボードゲーム関係の雑誌を発行している出版社から「一緒にドイツに取材に行ってくれませんか」と頼まれまして、取材チームの一員として参加することになりました。


その際に取材許可証が必要だったのですが、申請用紙の所属欄に「フリージャーナリスト」の項目があったので、そこにチェックを入れたんです。「こういうのをジャーナリスト活動っていうんだ……」と、その時初めて認識しましたね(笑)。

住職でボードゲームジャーナリストの小野卓也さん

「ボードゲームジャーナリスト」として、日々どのような活動をされているんですか?

小野

普段は、ボードゲーム情報サイト「Table Games in the World」の運営を行っています。ここでは2005年ごろから、国内のボードゲームカフェのオープンや海外のボードゲームリリースなどの情報を毎日発信しています。


あとは、出版社などからの依頼で、海外のボードゲーム情報の翻訳記事やボードゲームにまつわるコラムを執筆したり、ボードゲーム関連の書籍の出版をしたりすることもあります。

『Table Games in the World』では、毎日1本以上記事を更新されていますが、住職との両立は大変ではないですか?

小野

そうでもないですよ。一般的に住職は四六時中坐禅を組んだり、お経を読んだりしているわけじゃないので、ある程度時間の融通は利きます。空き時間をうまく活用すれば、ウェブサイトの更新くらいは何とかできちゃうわけです。実際、うちくらいの比較的規模が小さいお寺だと専業の住職は少なく、何かしら複業をされている方のほうが多いですね。


もちろん、お葬式や法要などで1日のスケジュールの大半が埋まり、記事執筆の時間があまり取れない日もあります。そうした日を除けば、どちらが本業なのかわからないくらいには、時間を割けています。

活動の一環として、宿泊イベント「お寺でボードゲーム」も実施されていますが、企画したきっかけは何だったのでしょうか?

小野

地元の観光局から「滞在型観光」として提案を受けたことがきっかけです。滞在型観光とは、複数の観光地を駆け足で見て回るのではなくて、一箇所に滞在して地元住民との交流を楽しむものです。


イベントの内容はシンプルに、泊まりがけでひたすらボードゲームをするだけ。午後から集まって軽くレクチャーした後にボードゲームで遊んで、夜ご飯とお風呂を済ませたらまた寝るまでボードゲーム。朝は自由参加でお経を読み、ご飯食べたらまたボードゲームで遊んで、解散という感じです。


新型コロナの影響で現在は一般募集を受け付けておらず、知り合いの紹介などで開催しています。コロナ前は全国のボードゲーム好きが、聖地巡礼みたいな感じでいらっしゃっていましたね。

たしかにボードゲーム好きなら、小野さんに会いたい人も多そうですね!

小野

そういう物好きな方もいらっしゃって(笑)。

消去法で始めたら「沼」に。果てのない「究極のボードゲーム棚」づくりに至るまで

—小野さんとボードゲームの出会いを教えていただけますか?

小野

学生時代、時間は有り余っていたけれど、外で遊ぶお金はなかった。テレビゲームをしようにも、寮生活ではテレビを独占できなかったり、酒を飲もうにもあまり強くなかったり……消去法で、長い夜を過ごすには寮の友達とボードゲームだ、ということになったんです。


それで適当に買ってきたボードゲームで遊んだところ「結構面白いじゃん」と感じて。一つ遊んで、面白かったからまた次買って遊んで……と繰り返していたら次第にボードゲームが増えていきました。そうなったらもう沼で。寮を出てからも、友達を呼んで徹夜でボードゲームをやるのがずっと続きましたね。

—当時、ボードゲームのどんなところに魅力を感じていたのでしょうか?

小野

純粋に一つのルールの上で、みんな公平に楽しめるところに魅力を感じていました。加えて、勝つために研究したり戦略を練ったりと、単純に「ゲーム」としての面白さもありました。


これは当時、ドイツから日本にボードゲームが入り始めていた影響も大きかったと思います。日本のボードゲームは子ども向けの知育ゲームやワイワイ遊ぶパーティゲームが多かったので、ルールさえ分かれば誰でも遊べるけど、戦略性も兼ね備えたドイツのボードゲームは魅力的でした。

小野さんをボードゲーム沼に導いたドイツ生まれのゲーム「カタン」。毎回マップが変わるユニークさと、ちょっとした選択が勝敗を分ける絶妙なゲームバランスに惹かれたとのこと

—小野さんはボードゲームにおいて、「コレクターにならない」ように気をつけているそうですね。ボードゲーム沼に入ってしまったら集めるのも趣味になりそうですが、そう考えているのはどうしてですか?

小野

まずは、家族の手前ですね(笑)。妻や子どもの理解を得るため、なるべく物は増やさないようにしています。それでも増えますけどね、どうしても……。


あとは「良いものだけを精選して揃えた棚は美しい」という美学です。“悪貨は良貨を駆逐する”と言いますか、棚に一つ面白くないと思うゲームがあると、「もうこの趣味飽きたのかな」と思いはじめてしまいそうで。ボードゲームを楽しいと思い続けるためには、見た時に常にワクワクする棚であってほしいんですよね。

厳選された約700個のボードゲームのみが並ぶ、小野さんのボードゲーム棚

このボードゲーム棚の中身は、入れ替えをしているのでしょうか?

小野

そうですね。ボードゲーム用語で「デッキ構築」というものがありますが、究極のデッキ(=ボードゲーム棚)を作るために、「これまた遊びたいな」と思えるか、定期的に自問自答して入れ替えています。


「これは面白かったけど、もう遊ぶ機会がないかもしれない」と思ったものは、年に一回フリーマーケットに断腸の思いで出品していますね。

「ゲーム」から「人」の楽しさへ。ボードゲームの先に見えた、人と通じ合う魅力

小野さんが感じる、「偏愛」を仕事にする魅力を教えてください。

小野

複業的な観点で言うと、それぞれの仕事がお互いに役立つことでしょうか。


お寺としては今、人と繋がるためのチャンネルを持つことが大事なんです。以前は地域の方が何もなくてもお寺に足を運ばれていましたが、今はむしろ何かがあってもいらっしゃらない。そんな「寺離れ」が進んでいる中で、ボードゲームはお寺と人を繋ぐきっかけの一つとして機能しています。

まさに「お寺でボードゲーム」は、普段お寺に来ない人にとって新鮮な体験になりそうですよね。

小野

ボードゲームがなければ、絶対に出会わなかったような人と出会えましたね。そういう出会いは仕事と趣味が混ざっているところにしか無いんじゃないかなと思います。仕事オンリーだとそこでの繋がりはすごくドライなものになりがちですし、趣味オンリーだと関わる人数も少なくなりそうですから。


ボードゲームには「誰でも、どこでもできる」という強みがあって。スポーツはできる人が限られてしまうし、ボウリングやカラオケなどはお店に行かないとできない。ゲームの戦略を考えるのが苦手な人もいると思いますが、実は「考えないゲーム」もあります。その人その人に合わせて選んでいけば、どんな人にも合うゲームは必ずあるんです。


また、それぞれが過ごしたい時間に合わせて選ぶことができるのも大きいですね。家族で夕食を食べてお風呂に入るまでの時間なのか、ガチな人で集まって休日にじっくりやるのか、各々のスタイルに合ったボードゲームがあります。


こうしたボードゲームならでは魅力があるからこそ、どんな人とでも気軽に繋がることができるのだと感じています。

まさに「お寺でボードゲーム」は、普段お寺に来ない人にとって新鮮な体験になりそうですよね。

小野

そうですね。ボードゲームって対面だからこそ、遊んでいるうちに相手の人となりが徐々に分かるようになるんです。コマやカードの受け渡しや駆け引きをする中でお互いの距離感が縮まって、その場の空気感や相手の息遣いを感じられると言いますか。


そういう体験を何度も繰り返すうちに、「人が楽しい」と感じるようになってくるんです。最近はもうゲームが楽しいというよりも、人と一緒に過ごすのが楽しい。


ボードゲームジャーナリストを名乗るきっかけになった、ドイツのボードゲームイベントに毎年参加するのも人に会うためです。ドイツでわざわざ日本語のルールが付いてないボードゲームを買う必要はないので。仕事というよりも同じ趣味を持つ仲間として、通じ合える人に会いに行っているんです。


達人はもはやボードゲームで遊ばないで、ボードゲーム棚の前で何時間でも過ごすらしいです。「このゲームはね……」とか言いながら人と喋るだけ。だんだんとそうなっていくのは、分かる気がします。

小野さんおすすめの協力型パーティゲーム「ファン・ファクツ」をプレイ。「最高級レストランでいくらまで出せる?」など数字で答える質問に対し、プレイヤーが互いの回答を推測し合うゲームです。シンプルなルールながら、参加者の人となりが垣間見えるゲームで「人が楽しい」を実感……!

一緒に遊ぶ人がいてこその趣味だから、仲間は大切にし続けたい

―逆に「偏愛」を仕事にする中で、苦労したことはありますか?

小野

それでいうと、出版社などから依頼された原稿の締め切りのプレッシャーは半端ないですね(笑)。そこは信頼に関わるところなので、たとえお葬式があっても必死にやります。どうしても難しい場合は、ボードゲーム仲間に協力をお願いすることもあります。逆に頼まれることもあるのでお互い様ですね。


それ以外は、ボードゲームでストレスを感じることはあまりないです。「ボードゲーム教えてください」「海外に取材行ってください」と言われれば、喜んで行きます。そこに行くまでの大変さよりも行った後の喜びの方が大きいので。特に、今までボードゲームを遊んでこなかった人たちが「すごく楽しい!」と言ってくれたり、子どもたちが感情を爆発させて喜んだりしているのを見ると、やっていて良かったなと思います。

まさに「ボードゲームを通して人と繋がれる」という魅力が、苦労をかき消してくれているのですね。それでは最後となりますが、今後の展望について教えていただけますか?

小野

遊ぶ人がいてこその趣味ですから、仲間を大切にして、細く長くボードゲームを楽しんでいきたいです。


月に2回、ボードゲームをしに県内外から車で2〜3時間かけて来てくれる仲間がいるんです。もう10年以上の付き合いで、仕事から家庭のことまでよく理解し合っている、家族に限りなく近い存在です。そういう仲間がいるのはとても幸せなことだと思いますし、その関係性が続くのはボードゲームのおかげですね。遠くから足を運んでくれる仲間に充実した時間を楽しんでもらいたいので、精一杯のおもてなしをしたいと思っています。


そんなふうに仲間とともにボードゲームで遊ぶことが、ジャーナリストとして記事を書くモチベーションにもつながっています。自分自身がジャーナリスト活動に熱中するためにも、仲間とのつながりを大切にして、遊ぶことを趣味として続けたいですね。

PROFILE
川村健一

小野 卓也

洞松寺 住職/ボードゲームジャーナリスト

洞松寺(山形県)の住職でありながら、ボードゲームジャーナリストとしてボードゲーム情報サイト「Table Games in the World」を運営。コラム執筆の他、海外製ボードゲームのルール翻訳も手掛ける。2016年、地元の愛好者と共に「やまがたボードゲーム協会」を立ち上げ、放課後児童保育から老人会などで普及イベントを開催。


X:https://twitter.com/hourei

ウェブサイト:https://tgiw.info 

CREDIT

ライター:はらつかう 撮影:伊藤美香子 編集:野阪拓海(ノオト)

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★★★★☆

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PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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