親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
ビジネスコミュニケーションの中でも難度の高い「頼む」というアクション。要望をうまく伝えられない、相手の顔色が気になってお願いがしづらい……そんな悩みを抱えている人も少なくありません。
相手に受け入れてもらえるお願いの仕方、言葉選びのコツはあるのでしょうか? 世界累計259万部を突破した『伝え方が9割』の著者で、これまでに500社の企業で講演をした佐々木圭一さんに教えてもらいましょう。
頼み方はセンスではなく、技術
「コミュニケーションが苦手」という人は共通して、「私にはセンスがないので」とおっしゃいますが、頼み方はセンスではなく技術でうまくなることができます。
日本人とアメリカ人を比べてみると、アメリカ人の方が頼むのが上手というイメージがあるかもしれません。実はアメリカでは小学校3年生からコミュニケーションの授業があり、中学校では週に3回も行われているのだとか。学生の頃から体系的に学んだ結果が、「アメリカ人はコミュニケーション上手」というイメージと結びついているのでしょう。
つまり、適切なコミュニケーションの方法を身につけられれば、頼みごとが上手になれるということ。ここから頼み方の技術を学んでいきましょう。
人に何かを頼む際にネックになってくるのが「断られたらイヤだ」という不安や恐怖に似た感情です。この不安を乗り越え、お願いできるようになるには、これまで「ノー」と断られていたお願いを「イエス」に変える技術を身につけることです。どれも生活の中で活かせるものばかりですので、まずは伝え方の「7つの技術」があることを知っておきましょう。

これらの技術は、相手に心地よく頼みごとを受けいれてもらうためにも活用できるものです。具体的に、7つの技術は、こんな心地よさにつながります。
① 相手の好きなこと…頼みごとが、メリットと一致している
② 嫌いなこと回避…頼みごとを聞くことが、メリットに変わる
③ 選択の自由…選択肢があるので、能動的に選ぶことができる
④ 認められたい欲…社会的欲求を満たすことができる
⑤ あなた限定…特別な価値を感じることができる
⑥ チームワーク化…味方だと感じることができる
⑦ 感謝…喜ばれることをしていると感じることができる
例えば、面倒な企画書を作ってもらいたいときに「企画書を作ってくれない?」と伝えるだけよりも、「④認められたい欲」の技術を取り入れた頼み方をすることで、了承してもらいやすくなります。「企画書づくりが得意なあなたに、お願いしたい」という気持ちを込めてみましょう。
▼ 相手が心地よく受け入れられる、頼み方の例
「〇〇さんの企画書ってクライアントに刺さるんだよ、お願いできないかな?」
「相手の心地よさ」を想像して頼んでみる
「頼み方」を紹介する前に、どんな頼み方が相手を不快な気持ちにさせるかを知っておきましょう。自分の求めることや頭の中に浮かんだことをそのままコトバにしてしまうと、相手は心地よさを感じられないことがあります。
例えば、忙しそうな人と打ち合わせの日程調整をしたいときに「早く返信してください」と自分の頭の中のコトバをそのまま伝えたら、相手はどう思うでしょうか? ただでさえ忙しくて気分が悪いのに、より不快な気持ちにさせてしまうかもしれません。
こんなときは、相手の頭の中を想像して相手のメリットと一致する頼み方をしてみましょう。これは7つの技術の「①相手の好きなこと」を活用したものです。
▼ 「相手の好きなこと」を想像した頼み方の例
「今度の打合せ、〇〇さんの都合を優先したいので、早めに候補を出していただけませんか?」
「自分の都合を優先してくれる」と思えば、早く日程調整できる可能性も高まりますね。ちなみに7つの技術を使った伝え方は、対面でも文面でも効果があります。
しかし、対面と比べると文面でのコミュニケーションは温かさや感情が削ぎ落とされているような感覚も……。相手が関係性の近い人ならば、以下の例のように、コトバの感情を30%増しにすることを意識してみましょう。
▼ コトバの感情を30%増しにした例
「書類をご確認くださいっ。」
「書類をご確認ください!」
「書類をご確認くださいねーー。」
クライアントや上司など、感情を30%増しにしにくい相手には、「本当に」「とても」「たいへん」「非常に」「誠に」など、感謝を強める表現を使うこともおすすめです。加えて、あえてひらがなを使うのもよいでしょう。漢字に比べてやさしい印象を与えてくれます。
▼ 上司やクライアントに向けて、コトバの感情を30%増しにした例
「書類をご確認いただけると、たいへん助かります。」
シチュエーション別で使える、頼み方の技術とは?
ここからはより実践的な頼み方の技術をご紹介していきましょう。以下に、ビジネスシーンと、プライベートの「頼む場面」を挙げてみました。
ビジネスシーンでよくある「頼む場面」
いつも忙しそうな上司に、書類のチェックをお願いしたいとき
→「①相手の好きなこと」の技術を活用!
✕ 「書類のチェックをしてください」
◎ 「書類のチェックをお願いしたいのですが、5分だけお時間いただけませんか?」
ポイント! 短時間で手間をかけない「5分だけ」を提示しています。
ホウレンソウがおろそかな部下に対して、注意を促したいとき
→「①相手の好きなこと」の技術を活用!
✕ 「なんでも相談して」
◎ 「普段からコミュニケーションをとっていると、〇〇くんの評価がしやすいんだ。なんでも話してほしい」
ポイント! コミュニケーションを取ると相手にもメリットがあることを明確に伝えるようにしましょう。
部下に(期待を込めて)新しい仕事をお願いしたいとき
→「④認められたい欲」「⑥チームワーク化」の技術を活用!
✕ 「新しい仕事をお願いしたいです」
◎ 「〇〇さんには期待しているんだ。新しい仕事もお願いできない? 私も新しい案件を抱えているんだけど、一緒にがんばってみようよ!」
ポイント! どうしてお願いしたいのか、相手の気持ちを汲みながら伝えるのがコツ。「あなただけでなく、自分もがんばるよ」というところもコトバにしてみましょう。
同僚にタイトな日程で仕事を頼みたいとき
→「⑤あなた限定」の技術を活用!
✕ 「○日までに対応してください」
◎ 「ほかの人ではなく、作業が早い〇〇さんにしか頼めないんです。○日までに対応していただけませんか?」
ポイント! なぜ〇〇さんでなければいけないのか、理由も伝えています。
こだわりが強い相手に、修正や訂正を頼みたいとき
→「⑦感謝」と「③選択の自由」の技術を活用!
✕ 「修正してください」
◎ 「ご作成ありがとうございます! お手数おかけして恐れ入りますが、修正していただきたい箇所がありまして、火曜日の午後と、水曜のお昼、どちらであれば、ご対応いただけますでしょうか」
ポイント! 冒頭で素直に⑦感謝を伝えれば、相手も心地よいものです。また前向きに選んでもらえる状況にするため、選択を促しています。
忙しい時期に有給を取りたいとき
→「②嫌いなこと回避」「③選択の自由」の技術を活用
✕ 「有給を取らせてください」
◎ 「忙しくなる前に有給を取りたいのですが、進行に合わせるなら8月後半と9月前半、どちらが良いでしょうか?」
ポイント! ストレートに要望を伝えるよりも、相手が回避したい問題と時期を組み合わせて相談することで、受け入れられやすい状況にできます。
プライベートでよくある「頼む場面」
パートナーや友人に対して、時間通りに集合することを頼みたいとき
→「④認められたい欲」「①相手の好きなこと」「③選択の自由」の技術を活用
✕ 「時間通りに来て」
◎ 「〇〇と話すと楽しくて、いつも時間が足りなくなっちゃう! ちょっとでも長く話せるように、早く来てよ〜!」
◎ 「今度の待ち合わせだけど、〇〇駅に17時と20時だったらどっちがいい?」
ポイント! 相手のメリットになることを想像して伝えることがポイントです。人は選びたい本能があるので、集合時間を相手に決断してもらうのもよいでしょう。
子どもに対して、家事のお手伝いを頼みたいとき
→「③選択の自由」「⑦感謝」
✕ 「お手伝いして!」
◎ 「私はトイレ掃除するから、◯◯は、お風呂掃除か、お皿洗いか、どっちかやってくれると助かるな。ありがとうね」
ポイント! 選択できることで、相手はお願い事を受け入れやすくなります。身近な人だからこそ、感謝は忘れずに伝えていきたいですね。
まずは3ステップで練習を積もう
たくさんの例をご紹介しましたが、最初の一歩で大切なのは、相手のことを想像して頼むこと。そこを繰り返し練習することで、伝え方の基本が身につき、頼むシチュエーションでも自然とコトバが出てくるようになるでしょう。
①自分の頭の中をそのままコトバにしない
②相手の頭の中を想像する
③相手のメリットと一致するお願いをする
はじめは、この3ステップを一段階ずつ意識するのを習慣にしてください。はじめての料理を、いきなり「えいや!」と感覚でつくると失敗してしまうように、コトバもいきなり勢いで発するとヘンテコなものになります。慣れるまでは、手順を踏むことを習慣づけることで、伝える力を高めることができます。
いきなり対面で頼むのが難しいと感じたら、メールやチャットツールなど文面で頼むことから始めましょう。テキストであれば、時間をかけて良い伝え方を考えられるので、おすすめです。

相手も自分も心地いい頼み方でよりよい関係性を築こう
現在は全国で講演を行うようになりましたが、私はもともとコミュニケーションが苦手でした。しかしご紹介したような伝え方の「技術」を発見してから、私の人生は一転します。
繰り返しになりますが、伝え方や頼み方はセンスではなく技術です。AIの普及により、人間にしかできない「コミュニケーション」の重要性が高まっている今だからこそ、相手も自分も気持ちいい頼み方ができるコミュニケーションを心がけてみましょう。
相手の顔色をうかがって伝えることに苦労している方も、できる技術から生活の中に取り入れてみてください。身に付けたその日から、人生に効きはじめるはずですよ。
佐々木圭一
コピーライター/株式会社ウゴカス代表
『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)は世界累計259万部を達成。日本で最も有名な現役コピーライターのひとりとして知られている。上智大学大学院を卒業後、1997年博報堂に入社し、2014年にはクリエイティブ ブティック「ウゴカス」を設立。2017年にはドキュメンタリー番組『情熱大陸』にコピーライターとして初めて出演。現在までに500社の企業で講演を行うなど、日本のコミュニケーション能力をベースアップさせることをライフワークとしている。
執筆:つるたちかこ アイキャッチ・図版:サンノ 編集:モリヤワオン(ノオト)

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