生きることは書くこと。作家・北方謙三さんが過ごす3つのワークスペースと、作品に向き合う信念とは
ワークスペースの美学

生きることは書くこと。作家・北方謙三さんが過ごす3つのワークスペースと、作品に向き合う信念とは

#キャリア #仕事・働き方 #在宅ワーク
Contessa Ⅱ(コンテッサセコンダ)

仕事や趣味などに気兼ねなく取り組むことができるその人だけの空間、ワークスペース。その人の考え方や行動様式が、色濃く反映される場所でもあります。「ワークスペースの美学」は、自分自身の心地よいライフスタイルを実践している方にご登場いただき、そこに至った経緯や魅力、結果として得られたものなどについて伺うインタビュー連載です。


28回目のゲストは、作家の北方謙三さんです。かつてはハードボイルドの旗手として、最近では「水滸伝」シリーズを筆頭に歴史小説の大家として、56年にわたる壮大なキャリアを誇る北方さん。2024年から新たに「新羅記」シリーズを立ち上げるなど、78歳という年齢を感じさせない活躍を続けています。


そんな北方さんが、現在拠点としている3つのワークスペースで愛用しているコンテッサ。作家という職業において、椅子選びは仕事の能率や身体のケアに重要な影響を及ぼす大切なテーマです。北方さんのワークスペースに対するこだわりと仕事観をお聞きしました。

3つの拠点を10日ごとに巡る独特のワークスタイル

北方さんは川崎市のご自宅、三浦の別荘、そして都内のホテルの3箇所を拠点にしていることで知られています。なぜこういう働き方になったのでしょうか。

北方

それが、よくわからないんですよね。かれこれ40年くらい前から、およそ10日ごとに居場所を変えるスタイルがルーティン化していて、気がつけばこうなっていたとしか言いようがないんです。ただ、少なくとも自宅に関しては、10日以上いると家族に煙たがられるという理由もあります(笑)。

―三浦の別荘では、船も所有されています。これは趣味と仕事、両方の拠点でもあるわけですね。

北方

そうですね、釣りをやるために船で沖へ出るんです。本来は出航前の準備に2時間、戻ってきてからのメンテナンスにもう2時間と、けっこうな時間を取られてしまうのですが、いまは時間を買う意味で専属のクルーを1人雇っています。だから魚が釣れた時は、シャワーを浴びてすぐにそれを捌いて調理するという、釣り人としていいとこ取りをさせてもらっています。

作家・北方謙三さん

多趣味な印象がありますが、料理もされるんですね。

北方

煮込み料理ばかりですけど、けっこう昔からやっています。食材だけでなく、鍋にいろんなものをぶち込むんですよ。「あの野郎、憎たらしいな」とか「あの女、俺を振りやがって」とか、そういう負の感情もすべて一緒に煮込んで処理しています(笑)。

―なるほど(笑)、いいストレス発散法になっていると。そして本日お邪魔しているのは川崎市内のご自宅ですが、この広々としたワークスペースは、昨年末に完成したものだそうですね。

北方

以前はもっと手狭な別の部屋で仕事をしていました。この部屋は応接間として使っていたのですが、ほとんど使わずデッドスペースになっていたので、昨年末に改装したんです。囲炉裏があるので、冬場は炭を燃やして鉄瓶をぶら下げて、白湯を飲むのが日課です。

作業机の対面にある囲炉裏

文学賞の選考委員を離れ、さらに読書が楽しくなった

こうしてワークスペースを新しくしようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

北方

仕事柄、読書量が多いので、すぐに本が山積みになってしまうんですよ。作家仲間からも次々に新刊が送られてきて、それがまた、迷惑なことに面白そうなものだから、ついつい手が伸びる。結果として身の回りに本が増えて……と、悪循環に陥ってしまうわけです。僕はいまでも原稿用紙に手書きのスタイルなのですが、本をかき分けなければ原稿用紙が広げられない有様だったので、さすがにどうにかしなければと思ったんですよね。

このワークスペースを構想する際、意識したことは何でしょう。

北方

たいしたことは考えていなくて、囲炉裏はもともとありましたから、余計な家具をどかして、執筆用のデスクと後ろの書棚を新たに設えたくらいです。前の部屋よりも書庫が少しだけ遠くなり、本を取りに行くのが面倒になったので、原稿が捗るようになりました(笑)。

部屋には、北方さんが直々に目利きした絵画や、旅先で購入したコレクションが並ぶ

—作家の方には、自分が書き手になってから読書量が減ったと嘆く人が少なくありません。しかし、北方さんはまったく読書量が衰えていない様子ですね。

北方

もともと本当に読書が好きでしたからね。むしろいまが一番、読書が楽しいですよ。というのも、僕は最盛期には14の文学賞で選考委員を務めていましたが、その大半を辞めたのが大きいです。義務で読まなければならない立場から解放されてすっきりしています。

3年前には、直木賞の選考委員を退任されたことが話題になりました。

北方

直木賞というのは他の賞と違い、ある種の権威が付いてきます。でも自分の中で、作家は社会的権威と相反するところにいなければならないという思いと、こういう社会的な賞は誰かがきちんと選考しなければならないという思いが、ないまぜになって葛藤しました。そこで3年前、「23年もやったんだから、もういいでしょう」と辞めさせてもらうことにしたんです。おかげでとても身軽になりました。

部屋の片隅には、北方さんがデビュー時に使っていたという国語辞典も

身体の経年変化にフィットしたコンテッサ

―北方さんにとって、仕事がしやすい環境の条件とは何でしょうか。

北方

それでいうと、作家は条件が整えば原稿が書けるかというと、それは誤解なんですよ。必要なのは環境ではなく、締め切りです(笑)。少なくとも僕は、目先に締め切りが迫ってこないと、火事場の馬鹿力のようなものが湧いて来ないタイプの作家なんです。締め切りが迫りながらも悠長に銀座で酒を飲んでいて、いよいよマズいというタイミングで書き始めると、必死になって思わぬアイデアが生まれたりする。このやり方を半世紀以上続けてきて、一度も原稿を落としたことはありませんから、僕にはこれが合っているのでしょう。

―いまも手書きというお話がありましたが、仕事道具に何かこだわりはありますか。

北方

万年筆を使っていて、基本的には書きやすければ何でもいいんですけど、いまはモンブランの特注品に落ち着いています。軸の太さとか全体のバランスは、この形が一番書きやすいんです。ずっと手書きで原稿をやっていますが、一度も腱鞘炎になったことがないのは、この万年筆が肌に合っているからかもしれません。

―そして椅子は「コンテッサ セコンダ」。3箇所すべての拠点で愛用されているそうですね。

北方

昔は別のメーカーのものを使っていたのですが、早々に壊れてしまって。そこでオカムラのショールームを訪ね、実際にいろいろ試してみたところ、しっくりいったのがコンテッサでした。すっかり気に入って、3箇所すべての椅子をコンテッサに統一したのは、10年くらい前だったと思います。

―椅子もまた万年筆同様、作家業において生命線ですよね。

北方

そうなんですよ。正直、机にはそれほど多くを求めていないんです。極端な話、板が一枚あればその上で原稿は書けますから。でも椅子はそうはいきません。僕は過去に脊柱管狭窄(※背骨を通る神経の通り道が圧迫される病気)を経験しているので尚更です。要は椎間板が飛び出して神経に触っていたのが、どんどん擦り減ってなくなってしまい、おかげで身長が5センチくらい縮みました。椎間板ヘルニアの心配がなくなったのは良かったですけどね。

革張りのコンテッサ セコンダ

そんな身体の変化を経験しながら、コンテッサ セコンダの良さをどこに感じていますか。

北方

まず言えるのは、そういう身体の変化がありながらも、何の違和感もなく座っていられることですよね。普段、手術をしたことを意識することすらないですから。そして、とくにこのコンテッサ セコンダは、身を預けた時の荷重の分散や、包みこまれるような感覚が、非常に完成されていると思います。だから仕事場にしているホテルにも持ち込んでいるわけで、気がつけば僕はコンテッサ セコンダの立派なヘビーユーザーですよね。

同業者の方と、椅子について情報交換をするようなことも?

北方

ありますね。やはり、椅子にはみんなこだわっていますよ。逆に言うと、「座れれば何でもいい」というタイプの作家は、あまりいい作品を書いていない気がします。自分を労る視点は大切ですし、長いスパンで考えれば、自分の身体に合う椅子を見つけるのは大切なことですよ。

「書く」ことは「生きる」こと。「生きる」ことは「書く」こと。

そうした仕事環境へのこだわりの賜物か、キャリア56年にして執筆量はまったく衰えていません。昨年には新たに『森羅記」シリーズを開始し、はや3巻を数えます。御年78歳、現在の仕事観について聞かせてください。

北方

昔に比べればこれでもペースはだいぶ控えめになりましたけど、仕事量についてはとくに思うところはないんです。書きたいものが書ければそれで満足ですし、気がつけば「生きる」ことは「書く」ことであり、「書く」ことは「生きる」ことであるのが当たり前になっていました。つまり、生きていれば勝手に作品は生まれていくんですよ。だから、特別な傑作を書こうとも思っていません。書き上がった作品にいいものがあれば、それを読者がちゃんと評価してくれるはずですから。

鎌倉時代に舞台を求めた『森羅記」シリーズを始め、南北朝時代や中国史など、資料や情報の乏しい時代を題材にすることに苦労はありませんか。

北方

むしろ、資料がないからいいんですよ。その分、創作で補えるわけで、資料にがんじがらめにされた状態で物語を書くのは性に合いません。いまやっている鎌倉時代にしても、作家として十分に楽しめる時代だと思います。

では、アイデアに詰まってしまった時の対処法は?

北方

そういうこと自体が、実はあまりないんですよ。ただ、登場人物に裏切られることは頻繁にあります。「水滸伝」シリーズが最たるもので、全19巻で様々なキャラクターが登場し、そして死んでいきましたが、誰も僕がイメージしていたタイミングで死んでくれなかったですからね(笑)。

つまりはキャラクターが独り歩きし始めたわけで、それは喜ばしいことでもあるのでは。

北方

そうなんですけど、辛いですよ。「水滸伝」シリーズでとある主要人物が死んでしまった時は、周囲からも「なんで彼が死ななきゃいけないんですか!」と散々言われたし、僕も「なんで殺しちゃったのかなあ……」としばらく落ち込みました。登場人物の生殺与奪の権利は、決して作者が握っているわけではないんです。

だからこそ、北方作品にはダイナミズムがあるのでしょうね。そして何より、まだまだ創作意欲が衰えていない様子に感服します。

北方

書きたいものはいくらでもありますよ。でも、それを全部やろうと思ったら、300歳くらいまで長生きしないといけません。何より、先のことを考えるよりも、いま書いているものをきちんと終わらせなければならないですからね。書き始めたからには完結させることが読者との契約なわけで、まだまだ一生懸命、頑張りますよ。

Contessa Ⅱ
[コンテッサセコンダ]
PROFILE

北方謙三

作家

1947(昭和22)年、佐賀県生まれ。1970年に『明るい街へ』でデビュー。作品に、1983年『眠りなき夜』(日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞)、1991年『破軍の星』(柴田錬三郎賞)、2005年『水滸伝』全19巻(司馬遼太郎賞)、2011年『楊令伝』全15巻(毎日出版文化賞)、2016年「大水滸伝」シリーズ全51巻(菊池寛賞)など。2013年、紫綬褒章受章。2024年より、『森羅記』を連載中。

CREDIT

取材・執筆:友清哲 写真:篠原豪太 編集:モリヤワオン(ノオト)

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PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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