距離の近いお店づくりにこだわる理由。「コーヒーだけじゃない」カフェの役割とは―東長崎・MIA MIA TOKYO
人が集まる場のヒミツ

距離の近いお店づくりにこだわる理由。「コーヒーだけじゃない」カフェの役割とは―東長崎・MIA MIA TOKYO

#コミュニティ #仕事・働き方

人気のあのお店や場所には、なぜ人が集まるのか? 新連載「人が集まる、場のヒミツ」では、お店・空間づくりのポイントをうかがい、ライフスタイルや、あらゆる空間づくりに役立つヒントをお届けします。また、お店づくりの背景にある想いやこだわり、そして魅力的なエピソードの数々をお話いただくことで、「愛される場所」のヒミツを紐解きます。


第1回で取り上げるのは、2020年に東京都豊島区の東長崎という町にオープンした「MIA MIA TOKYO(マイア マイア トーキョー)」さん。元ブティックをリノベーションしたカフェは、一杯のコーヒーを介して「人と人とがつながる」ためのアイデアと、どこまでもお客さんに寄り添おうという強い想い、そして「街のハブ」としての矜持に満ちていました。登場いただくのは、オーストラリア出身で、お店の店主を務めるヴォーンさん。お店のこれまでとこれから、そして地域におけるカフェの役割まで、存分に語っていただきます。

ファッションモデルからコーヒーの世界へ。オーストラリア人店主の「MIA MIA TOKYO」前夜

—2020年4月にオープンした「MIA MIA TOKYO」は、地元の人含め、すでに多くの方に愛される場所になっているようですね。あらためて、お店が誕生した経緯を教えてください。

ヴォーン

ぼくはオーストラリア出身ですが、大学生活の4年間を九州の大分県にある立命館アジア太平洋大学で過ごしました。卒業後、一度国に帰ったのですが、そこでいまの奥さんに出会ってラブラブになりまして。で、いろいろあって、奥さんの住む日本に一緒についていくことになった。当時は私、25歳くらいだったんですけど、気づけば明日で40歳! 日本には、もう15年近く住んでいることになりますね。

MIA MIA TOKYOオーナー兼バリスタのヴォーンさん

MIA MIA TOKYO。撮影当日は雪が降っていた

MIA MIAの開店以前は、何をされていたんですか?

ヴォーン

オーストラリアでは音楽関係の仕事をしていましたが、日本に来たばかりの頃は、何をすればいいのかぜんぜんわからなくて。でも、来日した次の日に、偶然モデルにスカウトされたんですよ。「まあ、1回くらいなら」と引き受けたんですが、結果的にその仕事がどんどん増えていって、しばらくファッションの世界で働くことになりました。


いまのお店をやるようになったきっかけは、モデル時代に撮影やレッスンの合間によくコーヒー屋さんを回っていたことです。ちょうど東京に、NOZY COFFEEやOBSCURA COFFEE ROASTERSといった、ブレンドよりも、シングルオリジナルのいい豆で、かつ浅煎りで美味しいコーヒーを提供するお店が少しずつでき始めた頃でした。

いわゆる、「サードウェーブ」と呼ばれたムーブメントですね。

ヴォーン

そのとおりです。当時、ぼくは好きが高じて、コーヒーについてのブログをやっていて。新しいお店がオープンすると必ず足を運んで、バリスタとお話をして、というのが習慣になっていました。それがきっかけとなり、いろいろな雑誌にコーヒーについての記事を書くようになりました。で、そこから発展し、青山の国連大学でやっているファーマーズマーケットで、いまも続く『東京コーヒーフェスティバル』というイベントのプロデュースもするようになって。そんな感じで、仕事の中心が、どんどんコーヒーやカフェになっていったんですね。

元ブティックの物件に一目惚れ。初めて降りた東長崎でカフェ開業を決意

では、MIA MIAは、ヴォーンさんのコーヒーやカフェ好きが高じてつくるに至った、と。

ヴォーン

そうですね。10年くらいコーヒーの仕事を続けていたんですけど、建築家である奥さんと「いつか一緒にお店をつくりたいね」なんて話もしていて。タイミングを見ながら、いろいろな場所を回って、少しずつ物件を見ていたんです。そんななかで出会ったのが、この東長崎という場所でした。

東長崎には、それ以前に何かご縁があったりしたのですか?

ヴォーン

いや、ぜんぜん。地名を聞いて「九州?」って思いました。

あ、「東『長崎』」だから。

ヴォーン

初めて降りる駅でしたけど、奥さんは宮崎県出身で、ぼくも大学が大分県だったので、なんか親しみのある地名だったんですよね。

東長崎は、昔ながらの商店街や飲食店がある、知る人ぞ知るエリアですが、どのあたりがヴォーンさんの琴線に触れたのでしょうか?

ヴォーン

まず、町がすごく素敵だな、って。ちょっと懐かしい感じのお店があったかと思えば、新しいおしゃれな雑貨のお店なんかもあって、歩いていて楽しいんですよね。人の生活が見える感じも魅力的でした。


それから、なんといっても紹介してもらった物件ですね。最初は奥さんが1人で見に行ったんですけど、すぐ電話をかけてきて「実際に見てみたほういいよ」って。で、行ってみたら感動して、もう一目惚れでした。あ、奥さんじゃなくて建物のほうに、ね。まあ、奥さんも一目惚れだったんだけど(笑)。


ともかく、そこはもともとブティックをやっていた建物で、窓の形や色が本当にBeautifulでした。奥さんも「絶対ここだね」って。彼女は、リノベーションを中心に手がけている建築家なので、手を加えたあとの姿が想像できたんでしょう。元の建物の魅力を活かす方向で、リノベーションすることに決めました。

オープン前の「MIA MIA TOKYO」 写真提供:MIA MIA TOKYO

ベテランの職人の手を借り、リノベーションを行った 写真提供:MIA MIA TOKYO

コーヒーよりもホスピタリティ。バリスタは「コーヒーを淹れる人」以上の存在

お店をつくるうえで、こだわった点を教えてください。

ヴォーン

これはスタッフをトレーニングするときにも言っていることなんですけど、コーヒーはもちろん大事、でもそれ以上に大事にしたいのが、ホスピタリティなんですね。


やっぱりみんな、最初はコーヒーをどうやって美味しく淹れるか、ということにしか頭がいかない。うちのバリスタの腕はすごくいいし、コーヒーもものすごくこだわっていて、渋谷の茶亭羽當のブレンドや表参道のKOFFEE MAMEYAのオリジナルのブレンドを使わせていただいています。どちらのお店も、他店には卸していないんですよ。 


でも、コーヒーしか見ていないバリスタは、ぼくにとって素晴らしいバリスタではないんです。練習すればそれなりに美味しくできるし、いまはマシンの性能もいい。でも、お客さんとのコミュニケーションは、日々実際にお店に立ち続けるなかでしかつくっていけない。コーヒーを介して「人」としっかり向き合えるのが、いいバリスタだと思うんです。

オーストラリアでは、カフェが日々のコミュニケーションの場として、広く浸透していると聞いたことがあります。そうしたカルチャーが与えた影響も大きいのでしょうか。

ヴォーン

まさに! です。もっと言うと、美味しいコーヒーを出す、個人経営のカフェですね。オーストラリア人はもともとカフェが大好き。それはコーヒーの味が好きってこともあるけど、それだけじゃない。なんというか、カフェが人のLife——生活や人生のなかですごく大切な存在になっているんです。

オーストラリアでは、一般的にカフェはどのような感じで利用されているのですか。

ヴォーン

多くの店が朝の6、7時くらいからやっているので、みんなまず仕事の前に立ち寄ります。しかも、1日1回じゃなくて、同じ店に3回くらい行くんです。それが毎日のルーティンになっている。お店の人は、お客さんの名前も、何を飲むのかも覚えています。そこまでは、もうあたり前。


そして、毎日お店でおしゃべりをします。お客さんにとって、大事なニュースが起こったとき、それをシェアしたくなる相手がカフェのバリスタなんです。話題は、「仕事をゲットしたよ」みたいな明るいニュースのときもあれば、「恋人とうまくいってなくて……」みたいな悩みのときもある。つまり、バリスタの仕事のうち、コーヒーが占めるのは半分くらいなもので、残り半分はお客さんの人生のカウンセリングみたいな感じなんですね。


ぼくにとってのバリスタは、ただ「コーヒーを淹れる人」じゃなくて、お客さんのLifeの大切な部分になって、ポジティブなものもネガティブなものも受け止めてこそ名乗れる、そんなスペシャルな職業。コーヒーを淹れて、お客さんがそれに対してお金を払う以上の関係が、そこにはあるんです。

みんなが自然と仲良くなれる空間が理想。MIA MIAの目指す「This is me」と言える店

―店名の「MIA MIA」は、オーストラリアの先住民の言葉の一つであるワダウルング語で「家族や友人、とおりがかった人などが集うシェルターとして建てられた小屋」を意味するそうですね。お店のコンセプトを考えるときに、やはり「コミュニティ」的なあり方は意識されたのでしょうか。

ヴォーン

「コミュニティ」や「コミュニケーション」というキーワードはもちろん大事です。地元密着で、「みんなWelcome」というフィーリングですね。おしゃれな若い人だけじゃなくて、近所のおじさんもおばさんも、お子さん連れも、誰でも大歓迎なお店です。オーストラリア人にとってのカフェも、まさにそういう場所なので。誰が来ても、気持ちよく同じ空間で同じ時間を過ごせるようなお店を目指しました。もっというと、みんなが自然と仲良くなれる空間が理想です。

たしかに、お店の人とお客さん、あるいはお客さん同士の距離が近いな、という印象を受けました。自然と交流が生まれるような配置でテーブルや椅子置かれていて、何より店員さんもそうなるように気を配っているな、と。

ヴォーン

テーブルや椅子なども、まさにそれを考えたうえで配置しています。互いに名刺を渡し合って「こういう者です」なんてことをしなくても、自然に会話が始まるような場所にしたかったんです。面白いことは全部、人と人との出会いから生まれますからね。

MIA MIAの店内
ヴォーン

たとえば、お客さんのなかで歌をやっているという人がいたら「歌って!」とお願いすることもあります。楽器ができるお客さんには楽器を渡して、「はい、あなたは弾いてください」って。しょっちゅうそんな感じなので、通りすがりの人によく「今日は何のイベントですか?」「ライブのチケットはまだありますか?」と聞かれます(笑)。うちは毎日こうなんですよ、って。


日々こんなことをしているのも、ぼくは誰しも自分の特技はどんどん出したほうがいいよ、もったいないよ、と思うから。MIA MIAは、訪れた人が、素直に「This is me」と言える場所であってほしいんです。

自然とお客さんとの会話が生まれる

東長崎を盛り上げたい。地域密着型の店が担う「助け合い」の精神

お客さんは、東長崎近辺に住んでいる方が多いのですか?

ヴォーン

もちろん、ご近所さんにもたくさん来ていただいていますが、ありがたいことに「東長崎にこんな面白い店がある」とたくさんメディアに紹介してもらったことで、他所から電車に乗ってきてくれる方もたくさんいます。いまでも、「初めて東長崎に降りました」というお客さんが毎日のようにいらっしゃいます。


ぼくは、MIA MIAをとおして、この東長崎という町を盛り上げたい、という目標もあります。お客さんには、せっかく来たんだから、いろいろ回ってもらって、この町を楽しんでほしい。だから、うちのホームページには近所のおすすめのお店を紹介する「Hello !! Higashi Nagasaki」というコーナーがあるんです。

ヴォーン

でも、それではまだ物足りなくて、さらに「Welcome!東長崎MAP」というオリジナルのマップをつくりました。山本ひかるさんという、地図や建物のイラストを描くアーティストを長野からお招きし、2週間くらい滞在してもらって、東長崎と西武線沿線の素敵なお店を100軒くらい取材し、詳細なイラスト地図をつくってもらったんです。他所から来たお客さんにこのマップを渡すと、みんな見て散歩してくれます。そして、町のファンになった人がリピーターになって、またうちの店にも寄ってくれるわけです。嬉しい流れができているな、って感じます。

地域に根づいたお店が、新しい循環をつくったわけですね。

ヴォーン

こういうことの積み重ねが、地元の人同士の連携にもつながっていくんじゃないかな、って。チェーンのカフェにはできない、ぼくたちだからこそできる仕事だと思っています。もちろん、チェーンのカフェは味も美味しいし、提供が早いし、そこで仕事をしたりするには便利です。いまの時代、そういう場所も必要だけど、それとは別に、人と人とが出会える場所というのは、地域ごとに必要だと思っていて。


必ずしも友だちになる必要はないんです。でも、自分が生活するエリアにどんな人が住んでいるかは、知っておいて悪いことはないですよ。だって、みんな1人で生きることはできないでしょ? 困ったことがあったら助け合うのが人間なんですから。

偶然とおりかかった常連のアンドウさん。お店にアシナガバチの巣ができてしまったとき、駆除してくれたそう

カフェは地域のハブ。「ローカル」の視点が町を元気にする

MIA MIAは、東長崎でよりいっそう愛される場所になっていくと思うのですが、ヴォーンさんは、今後どんなビジョンを思い描いていますか。

ヴォーン

MIA MIAは、これからもこんな感じでできたらいいですね。お客さんやお店のスタッフに何か夢があるなら、できることを手伝って、一緒に盛り上げたい。そして、それとは別に、密かに抱いているBig Dreamもあります。東京のホテルに併設されていたり、デパートの1階部分にあるカフェを、MIA MIA的なスタイルでやったらめちゃめちゃいい方向に変わると思っているんですよ。ホテルについては、この前オーストラリアの両親が遊びに来て、3か月間泊まったときの話を聞いて、その思いを強くしました。


父が国立競技場を見学するツアーに参加したかったそうなんですが、ホテルの人にどう予約したらいいかを聞いたら、「自分でサイトを調べてください」って言われてしまって。もちろん、ホテルによるでしょうし、たまたま対応の良くないスタッフだったのかもしれませんが、MIA MIAでは、そういうことはしたくないなと思うんです。


実際、最近も日本を転々と旅している人がお店に来たんですけど、その日泊まるところがないと言うんですよ。でも、ぼくがその場にいたみんなに「泊まれるところ知ってる?」と呼びかけたところ、2分後には、泊まるところが見つかった、なんてこともありました。


カフェはコーヒーを出すところですけど、自分はそれ以上に、お客さんの生活を良くするのが仕事だと思っているんです。特にホテルは、いろんな町からお客さんが泊まりに来るし、しかも初めましての人も多い。だったら、そのエリアを案内する人とか、何でもサポートしますよという場所があれば、旅行に来た人もみんなHappyじゃないですか。

地元に密着したカフェは、その地域のハブになれる、ということですね。

ヴォーン

はい。そして、デパートにもそういう機能って必要だなと思うんです。インフォメーションカウンターって、やっぱりお客さんが来るのを待つかたちになるじゃないですか。でも、質問されるのを待つよりも、日常的なコミュニケーションのなかで案内できたら、デパートはもっと元気になるはず。美味しいコーヒーといい接客があるカフェには、自然と人が集まります。そして、いろいろな情報が集まる。つまり、カフェがデパートのインフォメーションカウンターの役割を補い、助けることができるんじゃないかな、って。


例えば、誰かへのプレゼントを探しているお客さんが来たら、カフェのバリスタが「○階に売っている○○はいかがですか」とおススメできるし、別なお客さんが「あれはどう?」とアドバイスしてくれるかもしれない。あるいは、そのデパートに限らず、近所の素敵なお店が紹介されることだってあるでしょう。デパート的には、売上が減って困る……みたいに思うかもしれませんが、それで新たな循環が生まれて町が元気になれば、結果的にデパートにもたくさんお客さんがやってくるはずです。

共存共栄の精神ですね。

ヴォーン

そのとおりです! いま、少しずついろんな人と話して、実現させようと頑張っているところです。やはり、「ローカル」という視点が大事なのだと思います。どんなに都会でも、その場所には生活している人がいて、コミュニケーションが求められている。そこで人と人、人と情報とをつなげていくのが、ぼくにとっての「カフェの仕事」なんです。

PROFILE
川村健一

Vaughan (ヴォーン)

MIA MIA TOKYO店主

MIA MIA TOKYO店主。ほかモデル、文化服装学院講師、音楽プロモーターも務める。


ウェブサイト:https://www.mia-mia.tokyo/

CREDIT

ライター:辻本力 撮影:タケシタトモヒロ 編集:服部桃子(CINRA.Inc,)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

SHARE

この記事を読んでいる人に人気の記事