ゴミだらけの海にしないために。「海洋プラスチック問題」に挑む、廃漁網から生まれた新素材
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ゴミだらけの海にしないために。「海洋プラスチック問題」に挑む、廃漁網から生まれた新素材

#アイデア・工夫 #ライフスタイル #教育・学び
Spher(スフィア)

国内外で大きな注目を集めている「海洋プラスチック問題」。日頃の生活のなかで生じるプラスチックごみは、適切に処分されないといずれ海に流れ着き、分解されることなく海中を漂流していきます。そのようなごみの量が年々増加し、環境や生態系に影響を与える可能性が、いま非常に大きな問題となっています。


オカムラも、この深刻な海洋プラスチック問題と向き合ってきました。国内の廃棄物をリサイクル素材へと生まれ変わらせているリファインバース株式会社と協働しながら、使用済み漁網(ぎょもう)を原料とした新しい生地「Re:net(リネット)」を開発したのです。


今回、その「Re:net」の開発に携わった株式会社オカムラのCMF推進室 中西真己さん、細谷ららさん、リファインバース株式会社の舩﨑康洋さんの3名が集い、海洋プラスチック問題の深刻さから、「Re:net」の開発ストーリー、今後2社が目指すビジョンまで幅広く語り合いました。

2050年にはゴミしか見えない海に? 海洋プラスチック問題の深刻さ

(左から)細谷らら。株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 マーケティング本部 企画部 CMF推進室 デザイナー。「Re:net(リネット)」の開発から製品化工程を中心に担当/ 舩﨑康洋。リファインバース株式会社 素材ビジネス部 アカウントマネージャー。新たな再生素材の開発などを担当 / 中西真己。株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 マーケティング本部 企画部 CMF推進室 室長。「Re:net」では企画やリサーチを中心に携わる

― まず、「海洋プラスチック問題」とはどのような問題なのか、教えていただけますか。
中西

私たちが日頃何気なく使用しているプラスチックは、自然に分解されるまで、何百年もの歳月がかかるのをご存知でしょうか。


プラスチックごみが海に流れ着いた場合、波間を漂いながら次第に劣化して砕けていき、ごく小さなプラスチックの粒子「マイクロプラスチック」へと変化します。このマイクロプラスチックが海洋生物の体内に溜まり、環境や生態系に悪影響を及ぼす可能性がある。これが、「海洋プラスチック問題」です。

私たちの生活には、具体的にどのような影響があるのでしょうか?

中西
想像しているよりも大きな影響があると思います。私たちが製品開発を行うなかで目にしたデータが、かなり衝撃的でした。
舩﨑

2050年には海洋プラスチックごみの量が、重量比で魚の量を上回るという予測値が出ています。

中西

そう遠くない未来に、海のなかはごみだらけになってしまうかもしれないんですよね。

舩﨑

このデータの背景には、世界でプラスチックの使用量が増えている現状があります。アジアやアフリカを中心に人口と所得が増えていくことで、プラスチックを使う人の総量が増えているんです。その結果、プラスチックごみの海洋流出も増加し、その量は年間で800万トンに及ぶともいわれています。

中西

私たちが普段食べている魚も、いつか捕れなくなってしまう可能性もありますね……。

オカムラ社がそのような「海洋プラスチック問題」に取り組み始めたのはなぜですか?
細谷

家具メーカーとして、製品の根幹である素材の部分から環境問題に貢献したかったからです。弊社では以前から、なるべく軽い製品を開発したり、梱包を可能な限りコンパクトにしたりと、輸送時のCO2削減に向けた製品レベルでの取り組みは行っていました。


しかし、本気で環境問題の解決を目指すのなら、もっと根本的なところから製品づくりを考えるべきではないかという意見を社内でもよく耳にするようになって。素材を扱う部署として何かできることはないかと考えていたときに出会ったのが、海洋プラスチック問題の深刻さと、その問題に漁網の観点から本気で取り組んでいるリファインバース社だったのです。

舩﨑

この問題に取り組み始めた国内メーカーのなかでも、オカムラさんはかなり早いほうじゃないですか? 

細谷

そうかもしれません。最初から海洋プラスチック問題だけに注目していたわけではないんですけどね。

中西

環境問題の解決といっても、さまざまなアプローチ方法があります。非常に大きな問題のなかでもどの分野にフォーカスするのかを判断するのが、製品企画の段階では最も難しいポイントだったように思います。

なるほど。あまりなじみがなかったのですが、そもそも漁網はプラスチックでできているものなのですか?

舩﨑

昔は綿や麻で漁網をつくっていたそうですが、太平洋戦争後は強度や手入れの点で利便性の高い化学繊維の漁網が主流になっていきました。漁網は1シーズンで廃棄されるものも多いんです。


水産庁の資料によれば、日本で製造・利用されるプラスチック製品は年間約1,000万トンのうち、約2万トンが漁網をはじめとした漁業の道具というデータもあります。使用済みの漁網を捨てずにリサイクルすることは、環境負荷を減らすことにもつながるのです。

廃棄された漁網を洗浄したもの

だからこそ、リファインバース社は漁網のリサイクル素材開発に乗り出したのですね。

舩﨑

そうなんです。2016年から使用済みの廃漁網のリサイクル事業に取り組みはじめ、2019年から「REAMIDE®(リアミド)」として樹脂の販売を開始、繊維素材としての応用は同じく2019年から開発をスタートさせ、2021年より量産化しました。

使用済みの漁網にはさまざまなゴミが付着しているのではないかと想像するのですが、素材へのリサイクルにあたって苦労などはなかったのでしょうか?

舩﨑

おっしゃるとおり、漁網をしっかりとした強度の糸に生まれ変わらせる技術の確立には苦労しましたね。漁網についたゴミが「REAMIDE」のなかに少しでも残っていると、糸にしたとき切れやすくなってしまいます。生地にできる糸が完成するまでには、漁網の洗浄工程などを何度も調整し、試行錯誤を繰り返しました。「REAMIDE」を原材料とした「Re:net」が完成するまでには、1年ほどかかっていると思います。

細谷

当初の計画では1年で製品開発が終わる予定でしたが、実際かかったのは1.5年。想定どおりには終わらなかったです……(笑)。

REAMIDEのペレット(成形される前の粒状のプラスチック)

ところで、オカムラ社とリファインバース社は、どのようにして出会ったのですか?

細谷

私たちが海洋廃棄物のサステナブル素材について調べるなかで、たまたまリファインバース社の「REAMIDE」の話を耳にし、いろいろなご縁もありまして、声をかけさせていただきました。

中西

バナナを使用した繊維や廃棄リンゴを使用したアップルレザーなど、海外製のリサイクル素材も含めてさまざまなものを調査しましたが、私たちとしては日本の問題を国内で解決することに大きな意義があると考えていました。国内の漁網を使ったリファインバース社の素材は、弊社の方針にもマッチするものだったのです。

舩﨑

「REAMIDE」を糸にし、繊維にする技術の開発は、オカムラさんに出会ってから加速したように感じます。もともとはアパレル業界での活用を想定しており、オフィスやインテリア製品向けに適した素材になるとは想像もしていませんでした。オカムラさんから声をかけていただいて本当にありがたかったです。

長い期間と厳しい試験を経て完成した「Re:net」。国内外で大きな反響が

オカムラ社の「Re:net」はどのような製品なのか教えていただけますか?

中西

「Re:net」は国内の使用済み漁網を回収・リサイクルした再生ナイロン「REAMIDE」の糸と、ペットボトルをリサイクルしてつくった糸を編み込んだニット生地です。オフィスチェアやソファなど、家具の張地として使用します。網をイメージした柄と、再生ナイロンを使いながらも柔らかく伸縮性のある生地が特徴です。


リサイクル品は製造過程の手間を考慮するとどうしても高価になりがちですが、スタンダードな生地として使用できるよう試行錯誤を繰り返しました。

Re:netの布地サンプル

「REAMIDE」から「Re:net」を開発するにあたって、どの部分に最も苦労しましたか?

細谷

強度や伸縮性、色落ちの面で社内の基準をクリアできずに何度も調整を続けたという面で苦労したのですが、最も大変だったのは、完成した製品の品質評価でした。

舩﨑

初めて使う素材ですからね……。メーカーとしては、品質に対して慎重にならざるを得ないですよね。

細谷

そうなんです。前例のない新素材のため、製品が梱包されてお客さまのもとに届いても本当に色落ちしないのか、窓際で使用しても耐久性に問題はないのか、はては赤道付近の海を越えて海外のお客さまのもとへ届いても品質に影響しないのかといった考えうるすべての懸念事項を検証していきました。

中西

弊社の家具をお客さまに長く使っていただくために、品質が担保できるかという視点から本当に厳しく検証を繰り返しました。工場側も、製品の品質を担保する責任があるので、通常製品よりも倍の工程と時間をかけて、慎重にテストを行なっていましたね。

細谷

社内でもいろいろな指摘があり、「もうダメかも」と思った日が何度もありました。それでもこのプロジェクトを成功させることができたのは、国内企業の私たちが日本の海洋プラスチック問題解決に挑む意義に、多くの開発関係者が共感していたからだと思います。

― そのような苦労を経て完成した「Re:net」は、2022年度の『グッドデザイン賞』を受賞しました。受賞を知ったときのお気持ちはいかがでしたか?

細谷

とても嬉しかったです! 今回、素材を生み出すまでのストーリーだけでなく、原材料の混率を工夫することで価格を抑え、普段の生活のなかで使われやすい素材に仕上げた点も評価いただくことができました。

細谷

私たちとしても特別なリサイクル製品ではなく、スタンダードな生地としてお客さまに提案しやすい製品づくりを目指していたので、その点を評価していただけたのは本当に良かったなと思います。

Re:netが使われているオカムラの「スフィア」(写真提供:オカムラ)

― お客さまからは、どのような反響がありますか?

中西

国内外のお客さまから大きな反響をいただいています。社内の営業担当者の話では、IT企業や人材系企業などは直接的に環境問題に貢献することがむずかしく、何から取り組んで良いか悩んでいるお客さまも少なくないようなんです。


そのような方々に「Re:net」を紹介すると、「自分たちもオフィス家具で環境問題に貢献できる」と気に入ってくださることが多いと聞いています。海外では環境への意識が高い欧米のお客さまを中心に、お問い合わせをいただくことが多いですね。

舩﨑

私は先日、ドイツで開催された展示会に参加してきたのですが、海洋プラスチック問題をテーマとした日本製品は欧州のお客さまにポジティブに評価していただけたように思います。海外では「Made in Japan」のブランド価値は高いですから、日本がつくった海洋廃棄物のリサイクル製品なら間違いないだろうと、購入を前向きに検討してくださる方は多いです。


先ほどの細谷さん、中西さんのお話にもあった大変な試験を繰り返してきたことには大きな意味があって、やはり日本ならではの品質の担保が海外のお客さまにも響いているのだと思います。

資源の循環が当たり前になる世界の実現をめざして

― みなさまのお話をうかがっていると、今回の「Re:net」開発を経て、オカムラ社とリファインバース社のあいだには大きな信頼関係も生まれているように感じます。

細谷

「Re:net」はリファインバース社の「REAMIDE」があってこそ生まれたものです。この原料がなければ、私たちは何もできませんから、リサイクル素材や繊維、樹脂のスペシャリストとして本当に頼りにしていますね。また、リファインバース社は弊社よりもずっと以前から資源の循環に取り組まれてきたこともあり、私たちもこのプロジェクトを通じて学ぶことがたくさんありました。

中西

細谷のいうとおり、リファインバース社がいなければ「Re:net」を生み出すことはできませんでした。リサイクル製品をつくるうえで最も大変なのは、廃棄物を回収して素材化するまでの仕組みづくりだと思います。その部分を担ってくださったのが舩﨑さんですから、本当に大きな感謝の気持ちを感じています。

舩﨑

いえいえ! 弊社としても「REAMIDE」の素材だけでは世の中で使用できませんから、オカムラ社の製品として多くの方のもとに届けることができて良かったです。そして、オカムラ社の企画力は本当にすごいです。ナイロンを使用した糸はアパレル製品ではよく使いますが、家具の張地ではあまり見かけませんよね。

細谷

人間工学に基づいた心地良い家具をつくろうとすると、伸縮性や硬さの面で課題の残るナイロン繊維はどうしても選びづらいんです。

舩﨑

その難しさを何とか突破して製品として実現されたこと、品質担保の上でさまざまな困難が待ち受けながらも、プロジェクトを続けてこられた強い意思と粘り強さも本当に素晴らしいなと感じます。

中西

私たちもリファインバース社も、「リサイクル素材を使った製品が当たり前になる社会」を目指しています。共通する未来の目標に向かって、今後も2社でさまざまな協働ができたら嬉しいです。

Spher
[スフィア]
PROFILE
細谷 らら
細谷 らら(ほそや らら)

デザイナー / 株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 マーケティング本部 企画部 CMF推進室

中西 真己
中西 真己(なかにし まさみ)
室長 / 株式会社オカムラ
オフィス環境事業本部 マーケティング本部 企画部 CMF推進室
舩﨑 康洋
舩﨑 康洋(ふなさき やすひろ)

アカウントマネージャー / リファインバース株式会社 素材ビジネス部

※「REAMIDE」は、株式会社リファインバースグループの登録商標です。

CREDIT

ライター:市岡光子 撮影:玉村敬太 編集:井戸沼紀美、服部桃子(CINRA.Inc,)

ブランド名

商品名が入ります商品名が入ります

★★★★☆

¥0,000

PROFILE

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

山田 太郎

CO-FOUNDER & CTO

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。

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